挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

27/75

03.稼ぐとは、自由を手に入れること

「こんなところにいらっしゃったんですか」

「……ビアンカ」

 顔を上げる、やってきたのがビアンカだって気づいて、ちょっとだけ胸をなで下ろした。

 おれは物置部屋のなかにいた。

 買った(脅し取った)屋敷に移ってきて、ビアンカとヘリンがあれこれやってて。

 それを見てたんだけど、何となく居心地が悪くなって、ふらふら屋敷の中をさまよってたら、この物置部屋を見つけた。

 狭くて、暗くて、落ち着く場所だった。

 そこで膝を抱えて落ち着いてたけど、ビアンカに見つかってしまった。

 仕方ない、でるか、と思った直後。

 ふわっとして、いいにおいがして、ぬくもりがやってきた。

 ビアンカが、おれの隣に座ってきて、頭を肩に乗せてきた。

「ビアンカ?」

「……」

 呼びかける、上目遣いで見つめられたと思いきや、ちゅっ、ってキスをされた。

「ビアンカ!?」

「ふふ、やっぱりルーカス様の唇は温かいですわ」

「あ、うん」

「すこしこうしててもいいですか」

「……もちろん」

 ビアンカがそう望むのならおれが拒否することなんてあり得ない。

 しばらくそうした、物置部屋の中で肩を寄せ合っていた。

 手がわきわきし出す。

 この体勢って、あれだよな。

 このまま手を伸ばせばビアンカの肩を抱ける体勢だよな、つか抱いていいんだよな。

 ……だ、抱こう。

 せっかくだし、肩を抱こう。

 すーはー、すーはー。よし、行くぞ――。

「……言葉を持ちません」

「え!?」

 ぼつりと漏らしたビアンカの一言、おれは心臓が口から飛び出すほどびっくりした。「なにが?」

「ここ数日の出来事、それをうまく表現する言葉を持ちません。ついてこの間までただの娼婦だったわたくしが、精霊殺しの現場に立ち会って、その精霊が復活して、人間と手を取り合ってアンデットを倒す」

 なんか……色々あったなあ。

「どれ一つだけでも、一生もののすごい体験ですのに、それを立て続けにさせて頂いて。それを形容する言葉を持ちませんの」

「なるほど」

「ルーカス様は、もっともっと何か大きな事を成し遂げてしまいそうな、そんな方に思えてきました。最初は――」

 頬を微かに染めて、言う。

「唇に惹かれて、好きになってついてきただけだったのですが」

 そっか……。

 ……え?

 え?

 ええええええ?

 それって、それってそれって。

 最初は好きだからついてきたって。

 それは……それって……。

 なんか、普通に嬉しいぞ。

 ビアンカを見る、肩をくっつけてくる彼女が可愛くて仕方がなかった。

 ありきたりな言葉だけど、彼女のためにならなんでもできる、何でもしたい。

 そう、思う様になった。

 まずは、手始めに。

「今日は、一緒に寝てもいいかな」

「――はい!」

 ビアンカはパアと顔をほころばせて、準備いたしますと言って、すすすと、立ち去っていった。

 その後ろ姿も可愛くて、おれは、見えなくなっても反芻し続けたのだった。

 が。

「いちいち童貞くさくてまだるこしいのじゃ」

 いつからみてたのか、ヘリンに鼻で笑われてしまったのだった。

     ☆

 翌朝、大きいベッドの上で起きた。

 キングサイズの、何人でも一緒に寝られるベッド。

 ビアンカはおれに寄り添うように寝てて、ヘリンはちょっと離れたところで大の字にする子供っぽい寝相をしている。

 よく見たら微妙に浮いてて、おれがベッドから降りて距離を離すとポスッて音がして、ベッドの上に落ちた。

 それでもすやすや寝ている二人を置いて、部屋を出た。

 まだ慣れてないでっかい家を手探りで進み、途中で木刀を回収して、庭にでた。

 そこで、構える。

 意識して素振りをはじめる。

 ヘリンに言われた、まだ時間がかかる、「最小の動き」での素振り。

「一、二、三――」

 日課の素振り、一万回素振り。

 こつこつやる。

 才能のないおれが出来る事はただ一つ。

 コツコツと、中断させることなく続ける。

 それを七十年間続けてきた、これからも続けて行く。

 後ろから若い者や後輩が追い抜いていくのはもう慣れた、天才が一瞬で頭上を飛び越えてくのもとっくになれた。

 おれはおれで、こうして、やれる事をコツコツ続けるだけ。

 そして。

「――一万」

 日課の一万回をおえると、朝鳥はすでにけたたましく共鳴してる真っ最中だ。

 昨日にくらべて大して成長出来なかったが、まあ明日もコツコツやるだけだ。

 木刀を持って、家の中に戻る。

 ビアンカと出くわした。

「おはようございますルーカス様」

 ビアンカは挨拶すると、近くの部屋に飛び込んで、なにかごそごそして、また出てきた。

 手に二つのコップを持ってる。

「どうぞ」

「これは」

「冷えてるものと、温かいものです。お好きなのを」

「そうか、冷えてるのをもらうよ」

 そういって、昨日と同じキーンと来るお茶をうけとって一気にあおった。

 飲み干すと、今度は二種類のタオルが出てきた。

「これは?」

「ふんわりしあげたものと、冷やしたものです」

「へえ、冷えたものを使わせてもらうよ」

 こっちも昨日にはなかった二択。おれは冷えたタオルを選んで、顔を拭いた。

 ひんやりして、気持ちよかった。

 コップとタオルをビアンカに返して、お礼を言う。

「ありがとうビアンカ」

「どういたしました」

「なんか悪いな、いろいろ余分に準備させてしまって」

「いええ。ものが増えて、自由度が上がりましたので。それにルーカス様はこの家の主ですから」

「そうか。……んん?」

「どうかなさいましたか?」

「ものがふえると自由度があがるのか?」

「……はい」

 ビアンカはしばらくおれを見つめた後、答えた。

「正確には節約と工夫をしなければ、と言うことになりますわ」

「うーん、むむ?」

 ……つまり?

「金にものをいわせた方が一番やれる事が多いということじゃ」

「うわ」

 どこからかヘリンが出てきた。まだ寝足りないらしく、目が半開きで髪もぼさぼさだ。

「1ドーラで出来る事は100ドーラでも出来る、しかし逆はそうではないのじゃ。人の世において金は何よりもの武器になるのじゃ」

 そう言い切って、ヘリンはすたすたと立ち去った。

 ビアンカが後を追いかけて、「洗面所はそこじゃありませんよ」とやってるのが微笑ましかったが、笑いは出なかった。

 金があった方が自由?

 確かにそうかもしれない。

 金がなくても創意工夫すれば出来る事は出来るが、金があれば創意工夫にかける時間で他の事ができる。

 なによりも「出来る」「出来ない」で悩まずにすむ。

 昨日の朝と今日の朝の違いがまさにそうだろ。

 新しい家に越してきて、いろいろ買ったもののおかげで、おれが同じ素振りの時間内で、ビアンカは倍のものを用意出来た。

 つまり。

 おれが稼げば稼げる程、財産を用意すればするほど。

 ビアンカたちをより自由にさせてやれる。

「……やらなきゃな」

 ヘリンに言われて仕方なくやっていた(おどし)でも、こうなったら積極的に使わない手はないな、とおれは思ったのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
buu1d9ehdyke4j157nc9m8e04phq_15sq_nu_se_
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ