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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第三章

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01.君の名は。

「おい、そこの童貞!」

 道ばたでしゃがんで(現実逃避に)雑草をめでていると、ヘリンの古めかしくも気品のある声に怒鳴られた。

「な、なんだよ」

「とっとと立って歩け」

「そうは言っても……おれはもうやだよ……」

「ふうん、では小僧はわしがどうなってもいいというのじゃな? ほーれ、今のわしはこんなにもか弱い、襲われたらイチコロなのじゃ」

 ヘリンはその場でシャドーをした。

 おれから五シャークくらい離れているから、迫力のない可愛らしいものだ。

 正直、だだっ子パンチか猫パンチに近い。

 おれは仕方なく立ち上がり、ヘリンの横にたった。

 すると元の力を取り戻した彼女はひょいっとジャンプした、おれの頭のてっぺんを振れながらコマのように一周して、そのまま肩の上にのった。

 乗ってるのに、重さを感じない。浮かんでるのかどうしてるのか分からないが、流石だな。

「さあ、いくのじゃ」

「だからおれはもうやだよ……」

「却下、泣き言は聞かぬのじゃ。男ならついてきた女達の為に知恵と力を振り絞ってみせるのじゃ」

「それはそうかもしれないけど……」

 とほほ。

 仕方ない。

 割り切るかあ。

 ていうか……童貞って何だよ童貞って。

     ☆

 アクリー中心部の家屋。表に三種類の属性のエンブレム、王国の紋章が一種類掲げられる。

 るつぼの街アクリーで商売する人間はほとんどがこうして、庇護する人間と後ろ盾の勢力を示すことがおおい。

 この家屋「ゾリッド」も例に漏れずそれを掲げてるって訳だ。

「ようこそいらっしゃいました。わたくしがこの『ゾリッド』の主、ジョン・レノンでございます」

 接客部屋に通されて出てきた中年の男はおれ達をみて、商売用の笑顔を浮かべた。

 ジョン・レノン。どっかで聞いた事のあるような名前だな。

「して、今日はいかがな物件をお探しで」

「でかいヤツじゃ。有力者か貴族が住むような、召使いも大勢抱えられる様なヤツじゃ」

 ヘリンが先に答えた。

「そうでございますか」

 ジョン・レノンは目を糸のようにして笑った。

 大口の客だと知って、機嫌をよくしたみたいだ。

 うーん、やっぱりどこかで聞いた事のある名前だな。

「取り扱いは?」

「ございますとも、少々お待ちを」

 ジョン・レノンは部屋から出て行った、すぐに戻ってきた。

 数冊の本を抱えて。

 それをおれとヘリンの前に広げると。

 ポン!
 あっという間に、本の上に建物の模型が出てきた。

「ほう」

「わわ、な、なんだこれは」

「おちつくのじゃ、これだから童貞は」

「だから童貞じゃない!」

「これはなんじゃ?」

「おや、こういったカタログをご存じない。まあ無理もございません、これを導入しているのはアクリーでもまだ我々だけでございますからなあ」

 ジョン・レノンは得意げな顔で、説明をはじめた。

「これは建物の実物を魔法でかたどって、こうして本に封入する技術でございます。完全にコピーされているように見えますでしょう、この魔法のすごいところはそこではありません、なんと、開いてる時元の建物の状態を調べて新しく作り返ることなのです」

「ほう」

「つまりここにあるのは、小さいながらも完璧に、建物の現在の見た目をお見せできるというところでございます」

「なるほどな。ところでこれの壁のところ、シミになってきてるのじゃ」

「え?」

「なるほど……これは犬がマーキングをしているのじゃな」

 ヘリンに言われて建物を見る、確かに、シミの場所と広がり方は犬のおしっこにしか見えない。

「――こ、これでより一層このカタログのすばらしさを理解して頂けたと存じますが」

 ジョン・レノンは言った。

 笑顔は引きずっていた。

     ☆

「これに決めたのじゃ」

「これっておまえ……これ五億ドーラもするぞ」

 ヘリンが選んだのは、そんなに大きくないが、新しくて見晴らしのいい家。召使いはどうなのか微妙だが、十人家族くらいなら悠々に住める家だ。

 正直、手に余る。

 家そのものも……値段も。

「さようでございますか。ではこれから値段の」

「なあ童貞小僧」

「くっつけるな! それっぽく聞こえるだろ!」

「貴様、この男の事しらんか?」

「え?」

「はい?」

 おれもジョン・レノンも驚いた。

 いきなり何を言い出すんだこいつは。

「なんと。わたくしなぞお耳に入れるような名前では――」

「どうだ?」

 ジョン・レノンをむしして、おれにいう。

「そりゃ、あるけど」

「やはりな、そういう顔をしておったのじゃ。さあ思い出せ」

 にやり、と悪戯っぽく笑うヘリン。

 それで彼女の言いたいことを理解した、そして間が悪いことに思いついて(、、、)しまった。

「えっと……」

「男じゃろ。いうのじゃ」

「……うぅ」

 おれはジョン・レノンを見て、いった。

「40年前、街中の公衆便所に慌てて駆け込んだ男子が一人いた。男子はよっぽど急いでたのか、すぐにしようと思ってズボンとベルトを緩めながら駆け込んだ。しかしそこは女子便所だった」

「なっ」

 ジョン・レノンの顔色が変わった。

「駆け込んだところで男子は唖然としてズボンを取り落として、丸出しになった、その瞬間悲鳴があがり、それに刺激されてたまっていた大きなヤツも小さなヤツも噴出した」

「ま、待ってくれ、それをだれから」

「そのこと自体悲しい事件だったから、口封じというか懇願というか明るみに出ることはなかったが、その時の男子がジ――」

「ま、まってくれー」

「と、いうわけじゃ」

 おれが言い切った後、ヘリンがとってもいい笑顔で引き継いだ。

 今日行った先々にやったことと同じ。

 それをここでもやろうとした。

「互いに建設的な話でもするのじゃ、ジョン・レノンどの」

 ヘリンが肩をかける彼の姿をみて、おれはものすごい罪悪感に陥ったのだった。
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