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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第二章

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12.ヘリン殺しのルーカス

 アクリー執政府の中、応接室。
 おれとヘリンこの街のお偉いさんと向き合っていた。

 ダンディ・アクロマン。目元がはっきりしてて、行き届いた口ひげが特徴の男。
 いまのアクリーの評議会長――つまり実質的なナンバーワンだ。
 ダンディの後ろは兵士が五人くらい立ってる。全員が武器を持って殺気立ってる。
 それにつられてヘリンもピリピリしてる。

「なあ……」
「分かっておるのじゃ。貴様の命が脅かされない限り何もせん。それでいいじゃろ」
「ありがとう」
「ふん。つくづく面倒臭い男じゃ」

 ヘリンは腕組みして、そっぽ向いた。

「話をはじめても良いかな」
「あ、ああ。すまない」
「情報が少ないので状況で判断することにした。キミはアクリーに敵意がない、という事でいいのだね」
「もちろん!」

 首を思いっきり、それこそちぎれるように縦に振った。
 それはその通りだし、評議会の議長というお偉いさんを前にちょっと緊張してるから。

 実はこの男、おれは向こうが子供の頃から知ってる。
 おれが二十代で日課ヘリンで必死こいでたころ、一気に駆け抜けていった天才魔法使いだ。
 その時に何度かあったが、それっきり。後は風の噂で出世していくのを聞いただけ。

 ……もしかして、知ってるとも言えないのか? これ。
 まあいい。

「ギルドが派遣した冒険者の能力は報告を受けた、セルマ……だったか、彼女は死体を使役する死霊術士だったようだね」
「そうらしい」
「だから兵士の同行を求めたのか。ふう……王国どもとの折衝がまたしんどくなる」
「はあ……」

 頭を抱えてため息を吐くダンディ、なんか大変そうだ。

「状況もはっきり見えてる。だから街の被害と、街外れの兵士の犠牲の責任を問うつもりはない」
「ありがと――」
「だが」

 ダンディはヘリンを見た。

「こっちは見過ごせないな。聞いた話によるとあの精霊ヘリンそっくりで、かつヘリンの神殿を破壊したではないか」
「あ……」

 たしかにそうだ。
 ヘリンは腹いせに、自分が封印された神殿を粉々にした。
 その場に顔見知りの衛兵もいた。
 ……うん、普通に考えれば彼が報告したんだな。というかしないとだめだよな、うん。

「しっての通りヘリンはこのアクリーにとって悪夢の様な名前だ。このまま放っておく訳にはいかない。最低でも納得のできる説明、ないしは証拠をもらわないとね」
「説明……証拠」

 困った。そんな物があるんだろうか。
 まずこのヘリンは本物だ。その時点でもう色々といい訳はきかない気がする。
 ヘリンがこのアクリーでどんな存在なのか、生きてきた時間が長い分、最下層にいる期間が長かった分。

 おれは多分、ダンディよりもよく知っている。
 いままでそう感じなかったのは、おれが一緒に生まれたこのヘリンに妙な愛嬌があるからだ。

 すぐ怒るし、駄々こねるし、泣く。
 正直、ただの女の子に見える時の方が多い。
 それを説明するのか? ……納得させられるのか。
 難しいにも程がある。

「小僧よ」

 と思っていたら、ヘリンが口を挟んできた。

「な、なんだ」
「貴様はこの街に住みたいのか?」
「そ、そりゃ……長年住んできた街だし、愛着もあるし、故郷だから」
「ふむ。おい、そこの貴様」
「なんだね」

 ダンディは普通に視線だけ向けたが、背後にいる兵士達が更に緊張した。

「貴様の言うとおり、わしはヘリンじゃ。貴様らが恐れるあのヘリンである」
「ふむ?」
「そしてこれが証拠じゃ」

 ヘリンはそう言って、手鏡を差し出して。
 ダンディが訝しんで受け取ってのぞくと、自分の顔に大きく「ヒゲ不倫」と書かれていた。
 これには流石に驚いたダンディだ。
 いまの一瞬で、ヘリンは神速で動いて、彼に気づかれず顔に落書きして、手鏡を渡した。
 圧倒的な力を示したわけだ。
 しかし……。

「ヒゲ不倫ってなんだよ」
「うむ? こういう取り澄ました輩に限って、うらでこそこそやっておるに決まってる」
「いや、それを言うならおれも」
「貴様は隠してないじゃろ? むしろこの先増えたらわしらを集めて説明、もしくは懺悔大会をひらくじゃろうが」
「それは……」

 なんか微妙に自分でも想像出来た。
 もしも――ありえないけど、もしもまたそういう関係になる人が出来たら、ビアンカにもヘリンにも黙っていられない。
 なる前に話をする自分の姿が見える。

 おれとヘリンが話してる間に、ダンディが部下にタオルを持たせて、書かれた文字をごしごし消した。

「なるほど、その速度、確かに伝承に残っているヘリンそのものだね」
「飲み込みがはやくていい。その上で言う、わしはこの街にすむ」
「……なぜだね」
「小僧とつがいになったからじゃ」
「つが――なるほど」

 ダンディがおれを見た。
 なんかいろんな意味が混ざってる「なるほど」で、ちょっと恥ずかしかった。

「小僧の願いはさっき貴様も聞いたとおりじゃ、この街で暮らしたいと、な。雄がそうのぞんだ以上、つがう雌として従わなきゃならん。ついでに、かなえてやらねば、ともな」
「……脅迫するのかね」
「取引じゃ」

 ヘリンは不敵に笑った。

「わしらを住まわせるか、アクリー共々滅び去るか。二つに一つじゃ」
「それを脅迫というのだよ」

 うん、おれもそう思う。

「さあ、どうする」

 ヘリンは決断を迫った。
 正直、出来ると思う。
 ヘリンは未だにおれの二シャーク以内じゃないと本来の力を出せないが、例えばおれをクスリかなんかで眠らせて、首根っこを捕まえて連れ回せばもとと変わらない力を出せる。

 アクリーを滅ぼすのも、単なる大口ではない。
 それはそれをしってる、しらないダンディはまだヘリンが元のヘリンだと思ってる。
 なら、きっと飲むだろう。
 住まわせてくれれば手は出さない、なんてのは精霊とこの街の歴史を考えれば破格の条件だ。

 だから、きっと――。

「ダメだ」
「え?」

 へんな声が出た。いま、なんて。

「取引としては悪くないが、その約束をキミがまもる保証はない。何より――私自身こう思うのだよ。ヘリン一人なら、いまのアクリーの戦力でどうにかなるかも知れないと、ね」
「ほう」

 やばい、ヘリンの顔色が変わった。
 殺気がぴりぴり突き刺さる、向けられるのがダンディでも、こっちまでつらくなってくる強い殺気。

「よくいった、まさか五十年も生きてない人間にそこまで舐められるとは思わなかったのじゃ。小僧の事もあるし、穏便に取引ですませてやろうと思ったのじゃが――なしじゃ」

 ヘリンがすっくと立ち上がる、ダンディも立ち上がった。
 まずい、このままじゃ本当に戦いが始まってしまう!

 なんとかしなきゃ。
 始まる前に止める。交渉? 脅迫? 年下を宥める?
 ……。

「……お漏らし」

 ふと、その言葉が口をついて出た。

「なんじゃ小僧、お漏らしなら帰ってからにするのじゃ」
「そうじゃなくて」

 おれはダンディを見た。

「ダンディさん、あなた、初めてのヘリン討伐の日の事を覚えてますか?」
「むっ……」

 ダンディの顔色が変わった、いままでとは全然違う表情だ。

「はじめてヘリンを討伐した日、少年だったあなたは一日一度の復活ヘリンにビビって、倒したはいいもののそのあと神殿の裏で――」
「ストップ! き、キミ、何を言ってるのかね」

 ダンディの目が泳いだ。後ろの兵士がざわざわしてる。

「いや、あの場にいたから偶然見てたんだ。水もないから、とりあえず壁にごしごしこすりつけて大の――」
「ストオオオオップ!」
「それに初めてのキスもヘリンの神殿の中、二回目の……あれ? あれは違う子だったっけ、それはローマンに挑戦して良いよって知らせに来てくれた受付嬢で。あっ、もしかして浮気はその頃から――」
「き、キミたち、外にでていなさい。ここは私一人でいい」

 兵士達はざわざわしたが、それでもダンディの言うとおり応接間からでた。
 兵士達がいなくなった瞬間、ダンディはおれに詰め寄った。

「キミ! その話を誰から聞いた!」
「くくく、なんじゃ貴様も大分やんちゃだったようじゃな」
「だれからも聞いてない、全部おれがこの目でみた」
「その目でって、キミの若さで――」

 その瞬間、木刀がガラン、と音を立てて倒れた。
 それをみて、ダンディがつぶやく。

「木刀……ヘリン……ヘリン殺しルーカス!?」
「その二つ名は本当やめて」
「なんじゃ、そんな名で呼ばれていたのか貴様は」
「ヘリン討伐史上最多なんだ……」

 それっぽい二つ名だけど、大抵はさげすむ時に使われるからすきじゃない。
 だって神殿のヘリンは最弱の存在で、ほとんどの冒険者はすぐに卒業していく。
 そこにずっといるのはおれだけだ。

「ふむ、しかし予言じゃな、それは」
「え?」
「ヘリン殺し、まさにそうではないか」
「あっ……」

 確かにそうだ。
 おれはヘリンを殺した。
 毎日復活してくる彼女も、完全復活した彼女も。
 そう考えると、この二つ名も悪くない……のか?

「であれば堂々となのるのじゃ。このわしを一度は殺したのじゃからな」
「う、うん。そうする」
「そして、交渉(、、)するなら貴様の方がよさそうじゃ。このまちの権力者の弱み、たっぷり握っておるのじゃろ?」
「ま、まあ。冒険者上がりなら大抵は。みんな最初はなあ……」

 じじくさいけど、そう言わざるを得なかった。
 一瞬で追い抜いていく天才も、少しずつ追い抜いていく凡人も。
 みんな最初は何かしらあほなところがあって、おれはそれを見てきた。
 そしてよく覚えてる……恥ずかしい話、その人達が出世したとき「○○だったくせに」と暗い感情に浸ってた。

 ……そか、おれの方が脅迫に向いてるのか、持ちネタ的に。
 ヘリンのお墨付きを得たことで、おれはダンディに向いた。
 顔のペンの後がまたちょっと残ってる。

「初めてローマンに挑戦する日、あっさり討伐したって言われてるけど、実は入った直後に一回逃げ出して――」
「やめてくれ! わかった、分かったから!」

 ダンディは即座に止めにはいった。これ以上何を暴露されるか分からない、って感じたんだろう。

「二人の居住を認める、認めるから!」

 すましたダンディの裏返った声で、交渉(きょうはく)は一瞬にして終わった。

     ☆

 こうして、おれはこの街に住み続けられる事になった。
 ビアンカと一緒に――ヘリンと一緒に。
 数日前までの事を考えればとんでもない幸せだ。
 そのヘリンと一緒に執政府をでた。

「おい、小僧」
「なに?」
「これからはしっかりヘリン殺しとなのるのじゃ、よいな」
「え? あ、ああ」

 さっきもそうだが、ヘリンが何故自分からそう言ってくるのかはわからない。
 だが、おれはそうしたくなっていた。

 目を閉じ、胸の中で反芻する、その言葉がいままでと違う意味を持った。
 数十年間、不遇の代名詞のように自分を縛り続けてきた二つ名。
 いまは全然、違う意味を思った。
 目を開けて、まっすぐヘリンを見る。

「おれは――ヘリン殺しのルーカスだ」

 彼女はとても満足した、シニカルな笑顔を見せてくれたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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