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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第二章

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10.精霊光

「なんじゃ、それは」

 見あげる、ヘリンが立って身繕いしている。
 素っ気ない語気、彼女とセックスしたのはもしかして夢だったんじゃないかって思う様な素っ気なさ。

 それが夢じゃないって教えてくれるのは、おれの死体。
 真横で転がってる、右腕がなくて、腹を食い破ってでてきた痕跡のあるおれの死体。
 それが、彼女との事は夢じゃないと主張してる。
 ヘリンはその死体を蹴った。

 身繕いの最中はつま先でつんつんと、終わった瞬間「フン」って鼻を鳴らして強めにけった。
 精霊ヘリンからすればかなり弱めの蹴り方だ。

「なんじゃと聞いてるのじゃ」
「え? ああこれか」

 口一度聞かれたおれは彼女に右手の甲を見せた。

「なんか変な紋章がでてきたからさ」
「わしの紋章ではないか」
「え?」
「ほれ」

 ヘリンが人差し指を空中に走らせた。
 何かを書くかのような仕草、精霊の光を曳いて、それが絵になる。
 紋章、おれの手の甲についてるヤツと一緒だ。

「お前の物だったのか」
「サインみたいな物じゃ」
「なるほど。理由はわからないけど、納得と言えば納得」
「……一つだけ言っておくのじゃ」
「なんだ?」
「これからもわしを抱き留めたりする事があると思うが。右腕以外禁止じゃ」

 かなり冷たい口調で言いはなった。
 訳がわからない、わからないが。

「わかった。この腕はお前の為に使う」
「――っ!」

 何故か顔が赤くなった、赤くなっておれの右腕無しの死体を蹴った。
 なんだろうこの反応。右腕と関係してるのは確かなんだが。

「ルーカス様」

 反対側から声をかけられた。ビアンカだ。
 席を外していた彼女が戻ってきた。

「お済みになりましたの?」
「ビアンカの言うとおりだった」

 右腕を動かしてみせる。

「何よりですわ」

 ビアンカはそう言って、おれの左側に腰を下ろし、体を寄せてきた。
 温かい、良い香りがする。
 なんか……むらむらする。

「ビア――」
「あなたはそのままでいいんですの?」
「え?」

 横を見る、ビアンカはヘリンを見あげていた。

「いいのじゃ」
「そうですか」

 ビアンカが更にくっついてきた。

「――――!」

 ヘリンが地団駄ふんで、おれの死体を蹴った。

「あの……あまり手荒なことは。一応それおれ――」

 キッ! と睨まれた。
 なんかご機嫌斜め、何でだろう。

「……さて、そろそろ参りましょう」

 ビアンカが立ち上がる。
 ぬくもりがきえて、残り香が漂う。

「行くって?」
「もどるのですわ。いまのルーカス様ならご自身にも負けないでしょう」
「……ああ」

 頷き、立ち上がる。
 そうだな。
 勝てるかはともかく、あれを放っておく訳にはいかない。
 自分のゾンビだ、おれ自身の手で始末をつけなきゃいけない。

「はい」

 ビアンカが木刀を拾ってきて、手渡してくれた。
 それを受け取りつつ、こっちの、右腕のないおれの死体を担ぎ上げる。

「それをどうするのじゃ?」
「持ってってちゃんと処分する、こんなところにおいたらまた何かになるかもわからないからな」
「そうか」

     ☆

 三人であばやらに戻ってきた。
 おれの死体はヘリンが「持ってる」。おれのそばにいる限り、彼女はおれよりも力持ちだ。

「くっ」

 かと思えば何かにつまづいてバランスを崩す。
 なんだ? そういえばさっきから妙に内股でもじもじしてるけど。

「大丈夫かヘリン」
「大丈夫じゃ!」

 食い気味で言われた。

「そ、そうか」
「うむ、大丈夫じゃ」

 強く主張された。
 反対側のビアンカはそれを見てニコニコしてる。
 ……大丈夫だな。

「むっ、まだ残ってたのか」
「え?」

 ヘリンの視線を追いかける。そこに兵士ゾンビがうろついていた。

「一、二、三……全部で五体か」
「ルーカス様、せめて安らかに寝かせてあげてください」
「ああ」

 木刀を握り締め、無造作にゾンビに向かって行く。
 ゾンビはおれに気づいて、「うあぁ……」と呻きながら方向転換してきた。
 そして、緩やかに突っ込んでくる。おれをつかんでかみつきたいらしい。
 先に動くカウンター。ゾンビの出方を見てから、両手首、そして脳天を同時にうった。
 手首がとれ、頭がスイカのようにぱっくりはじけた。
 予想以上によわい――じゃない。

「なんだ? この感触は?」

 思わず声に出してつぶやいた。
 ゾンビを木刀で叩いた瞬間、生まれて初めての感触を覚えた。

「減衰……しない?」

 無属性特有のあらゆる攻撃、あらゆる属性に減衰されるあの感覚がしなかった。

「なんじゃ、減衰というのは」
「え?」

 しらないのか? って顔でヘリンをみた。
 横からビアンカがそれを説明した。
 六属性の相性と、無属性の事を。
 それを聞いたヘリンが一言。

「なんじゃ、相性の事か」
「相性?」
「そうじゃ。人間同士の魂が相性良かったり悪かったりするというあれの事じゃろ」

 ヘリン達はそういう言い方をするのか。
 まあ昔の存在だし、人間じゃないしな。

「しかし、相性って言われるとなんか急に軽く思えてくるな」
「軽いもなにも、それだけの事じゃろ?」
「……そうだな」

 そうなのかも知れない。
 不遇の人生も、言い換えれば色々相性が悪かった……それで巡り合わせが悪かっただけかも知れない。

「ルーカス様」
「――ああ」

 次のゾンビが襲いかかってきたから、また木刀でうった。
 やっぱり減衰は感じられない、それどころか。

「紋章が……輝いてる?」
「どういう事なのでしょう」
「わからない、これが減衰無しの原因か?」

 そういって、ヘリンを見る。
 ヘリンはけろっとして答えた。

「わしらは人間に相性などないのじゃ」
「えっ? 全属性にか?」
「当然じゃろ? なぜわしらが人間に相性などある必要がある」
「えっと……つまり?」

 つぎのゾンビを攻撃して倒した。紋章が精霊光を曳き、減衰は一切感じられない。

「減衰なしの……精霊属性ってことか?」
「左手はどうなのですか?」
「! そうだ」

 木刀を持ち替えて、次のゾンビを左手で売った。
 減衰があった。攻撃の約4分の1の威力がどこかに消えてなくなるのを感じた。

「減衰がある」
「右腕だけがそうなってる訳じゃな」
「そうみたいだ」

 最後のゾンビを右手で売った。減衰無しの一撃で体を腰から両断する。
 気持ちよかった。出した力が全部通るという、人生にない気持ちよさを感じた。

「……こやつは何者だろうな。人の身で精霊の力を取り込むなど」
「ルーカス様ですわ」
「ふん。まあ、操をくれてやった甲斐はあったわけじゃ」

 よこで女達が何かを言ってたが、耳に入ってこなかった。
 おれは、生まれて初めての手応えに酔いしれていたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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