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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第二章

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09.四人目

 おれは弱い。
 才能がなくて、七十年近く毎日サボらないでコツコツやってようやく人並みだ。
 いや、それでもまだ人並みとは言えない、弁明できないくらい人並み以下だ。
 理由ははっきりしてる。あらゆる属性に対して一方的に不利を強いられる、無属性だから。

「――っ!」

 ゾンビが鉄の剣で斬撃を繰り出す。出方を見てから、先に動くカウンターで反撃。
 ――先に動けなかった。ほぼ同じ(、、、、)速さで鉄の剣と木刀が撃ち合う。
 撃ち合ったところに緑色の光が散った、手元に減衰の感触が残った。
 緑の光――風属性の証。

「あの女の置き土産か」

 あの女……おれゾンビの足元で死んでるセルマか。
 なるほど、セルマにゾンビにされると風属性がつくのか。
 それは……やっかいだ。

 ゾンビにされた向こうのおれはざっとみた感じ、パワーとスピードは誤差レベルでぎりぎり同等。
 そこに風属性と無属性の有利不利が加わって、ざっと見積もって強さは1.5倍で差がでる。
 向こうの攻撃は元の1.2倍、こっちの攻撃は0.8倍になるからだ。
 属性がついた時点で、おれはもうおれに勝てないのが確定した。

「ええい忌々しいのじゃ!」

 ヘリンがそう吐き捨てて、おれゾンビに飛びかかった。
 神速のヘリン。力が発揮出来る範囲内で縦横無尽にホッピングして、ゾンビに攻撃をしかけた。
 鉄の剣が弧を描き、風を曳光してヘリンを切る。
 ガキーン! 剣と爪が激しく撃ち合って、ヘリンが押し戻された。

「大丈夫か――いたっ!」

 戻ってきたヘリンにスネを蹴られた。
 普通に(、、、)蹴られた。

「なんじゃあれは! わしを二度も殺す気か」
「わ、わるい」

 なんか理不尽だったがとりあえず謝った。

「お前は相性が悪い。ここはおれに任せてどこかに待避してろ」
「わしににげろというのか! この神速のヘリンに、敵に背中を見せろというのか」

 ヘリンは激しく反発した。
 気持ちはわかる、多分いままで一度も逃げたことがないんだろう。
 さらにそれがおれみたいなダメ人間が相手なら、ますますプライドを傷つける事になる。
 そう思うと強く言えないでいた。

「はああ!」

 ヘリンは更に更に飛んでいった。
 直前でフェイントをかけて、三体に分身して同時に攻撃をしかける。
 キーーーン!
 撃ち合う金属音が一繋ぎ。直後、カウンターを喰らって、腹に長い切り傷を負った。
 飛び下がる戻ってくる、逃すまいとばかりにおれゾンビが追撃してくる。

「危ない!」

 木刀をもって割って入った。
 先に動くカウンター――先に動けなくてほぼ同時に撃ち合う。
 激しい手応えとともにおれゾンビを押し戻した。

「ぐああああ!」

 焼けつく痛みが右腕から全身に広がる。

「大丈夫か!」
「だいじょ――大丈夫だ!」

 全然大丈夫じゃなかった。見ると腕がいよいよとれかかってた。
 ギリギリ皮一枚残して体からブラさがってる、もう使い物にならない。
 木刀を左手で持ちかえて、構えておれゾンビと向き合う。

「……逃げるのじゃ」」
「え?」
「情勢が不利、ここは逃げるのじゃ」
「しかし、お前を置いて――」
「一緒に逃げてやるといってるのじゃ!」

 まだスネを蹴られた、腕があまりにも痛すぎて今度はいたく感じなかった。

「いくのじゃ」

 首根っこを捕まれた、さっきのあれか。

「待ってくれ、ビアンカも」
「世話が焼けるのじゃ」

 ヘリンはおれをつかみあげて、家の中に突入する。
 ビアンカを拾って、行きがけの駄賃とばかりに唖然としてるユージンを殺して。

 おれ達を連れて、逃げ出したのだった。
 カウンターは出来るが、追いかける足のないおれ(、、)
 大人二人をぶら下げた神速のヘリンは余裕で逃げおおせたのだった。

     ☆

 あばら屋から大分離れた、墓地の奥まった所。
 そこでヘリンはおれとビアンカを下ろした。

「見せるのじゃ!」
「え、何を――」
「見・せ・る・の・じゃ」

 怖い顔でいって、ヘリンはおれの右腕を凝視した。

「ああ腕か、ほら」

 ぎりぎり皮でくっついてたのをちぎって、ヘリンに差し出す。
 乱暴な引きちぎり方だが――多分もう関係ない。

「どうですか?」
「……」

 ビアンカのといに答えないヘリン、苦虫をかみつぶした顔で黙る。

「戻せない……のですか?」
「こやつが悪いのじゃ! くっつききらないうちからそう何度もちぎったり縫ったりすればその度にぼろぼろになっていくのは当たり前なのじゃ」
「わるかった」
「あやまるなあ!」

 涙目のヘリンに一喝された。

「それでも、わるかった」

 神速の、精霊の力を使ってまで治そうとしてくれたんだ、それを無駄にしたのは本当もうしわけない。
 だから謝った、謝るべきだと思った。

「うぅ……」

 涙目で呻くヘリン、ますます申し訳ない気分になった。

「ルーカス様……この先片腕になってしまうのですね……」
「仕方ない。まあ今更ハンデが一つ増えたところで大して変わらない」

 本音だ。
 頭が悪くて才能がない、不遇の無属性。
 この二つだけでも、既に両手両足を縛り上げられたようなハンデつきの人生だ。
 特に無属性。それに比べると腕の一本たいしたことない。
 もしなんか属性つくのなら、もう一本の腕も献上してもまだおつりが来るってもんだ。
 それくらい、大して変わらないと本気で思う。

「……」

 ビアンカはうつむいてしまった。
 腕がなくなったことはたいしたことじゃないが、彼女が悲しむのはいやだ。
 そう思ってそっと抱き締めて慰めようとしたが。

 ……右腕がない、抱きしめられなかった。
 なんてこった。
 そうか、腕がないとこうなるのか。

 こまったぞ、これは。
 と、おれが左腕でなんとかならないかと考えていると。

「もしかしたら、何とかなるかも知れませんわ」
「なんとかって――」
「なんじゃそれは!」

 おれよりもヘリンがビアンカの言葉に食いついた。

「そうするためには……ヘリン」
「な、なんじゃ」
「あなたの協力が必要ですわ。ルーカス様に抱かれなさい」
「「……へっ?」」

 おれとヘリン、二人のまぬけな声が重なった。

     ☆

 ビアンカが席を外した、夕日が落ちつつある墓地のなか、おれとヘリンが二人っきりになった。
 なんか気まずくて、背を向けてしまう。

「――」

 背後からヘリンのうめき声が聞こえる。
 流石になあ、これはなあ。
 ビアンカ曰く、セックスすればおれがまたおれを産んで、それで腕が再生される可能性があるという。
 ならビアンカがすればいいんじゃ? って思ったが。

「ルーカス様と二回した経験からして、わたしではもうダメだとおもいますわ」

 と意味深な言葉を残した。
 なんでだめなんだろう、とおもったが、二回の経験からそう判断したと言われると何も言えない。
 人間は体験で分かることが多い、言葉で説明が難しくても体で分かってしまうことが。
 だからビアンカに何も聞かなかった。
 なかったが――ヘリンとは流石に……。

「なあ――」
「――っ!」

 声をかけた瞬間、ヘリンがパッと立ち上がった。
 そしておもむろに服を脱ぎはじめた!
 止める間もなく、生まれたままの姿になるヘリン。
 くるりと振り向いて、全裸でおれの前に仁王立ちする。
 半日ぶりにみたヘリンの裸、思わず。

「……綺麗だ」

 とつぶやいてしまった。

「なっ! き、貴様ロリコンか!」
「あっいや、そうじゃなくて、すらっとして引き締まって。すごい肉体だなって」
「それはそれで嬉しくないのじゃ! もっと女としての評価をせい!」
「えええ!」

 それは難しい、ヘリンを女として評価するのは難しい。
 そう言われて、改めてヘリンをみた。

「……綺麗だ」
「――っ!」

 顔を背けられてしまった。が、すぐにちらちらとおれをみる。

「ほ、本当か?」
「ああ、綺麗だ」
「……ふん。まあ当然じゃ。このわしの体なのじゃからな」
「そうか」
「貴様にやる」
「え?」
「わしの操を貴様にやるといってるのじゃ」

 顔の向きをもどして、おれをまっすぐ見る。
 いつの間にか、彼女の表情から恥じらいが消えていた。

「わしを食らえ、喰らってあたらしい血肉とするのじゃ」
「……いいのか?」
「……ふっ」

 ヘリンは口の端を持ち上げた。
 一瞬どきっとするくらい、見とれそうになり笑顔。
 そのまま何もいわずに、おれの懐の中に飛び込んできた。
 ない右手をよけて、左手で抱き留められるようにそっちに飛び込んできた。
 何もいわない、気配だけで訴えかけてきた。
 おれは彼女を優しく押し倒す。

     ☆

 その日の夜、おれはまた自分を妊娠出産した。
 右手は再生され、そこに小さな、紋章のようなアザがついていた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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