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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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02.おれはおれのまま

 混乱するおれはまず現状を整理した。

 まず、足元に転がってるのはちょっと前までのおれ。
 70歳の誕生日を迎えたばかりで、顔はしわくちゃだけど辛抱強く毎日コツコツ修行したから、それなりに筋肉質なおれ。

 それが死体になってる。腹が何かに食い破られたみたいに内側から外側に向かって破裂した感じ。
 内臓も見えるし、動きもしない。間違いなくただの屍だ。

 で、今のおれ。おれが「おれ」だと認識してるこのおれ。
 鏡に映ってるのは二十歳くらいの若者、全裸の上に血まみれだ。
 顔はよく知ってる、二十歳くらいの時のおれの顔である。

 つまり、こういうことか?
 じいさんだったおれは自分の事を妊娠して自分の腹を食い破って出てきたついでに若返ったんだな。

 ……。
 …………。
 ………………。

 なるほどわからん!

 何が起こったのかまるでわからんぞ。

 ふと、鏡の横にある魔法時計が目に入った。
 二十年間使ってきたぼろぼろの一品――買い換える金がなかったんだ。

 ルルア暦31年、3月22日。と、表示されてる。

 うん、おれが70歳の誕生日の当日だ――あっ、今日付が変わって23日になった。
 ってことは娼婦を買って帰ってきたらぽっくり逝って、その直後にこの姿になったって事だな。

 魔法時計が普通に動く。
 時間は普通に動いてるのが、ますますおれを混乱させた。

     ☆

 夜が明けて朝が来た。

 万年床で目覚めたおれの目に飛び込んできたのは自分の死体だった。
 完全に死体で血の臭いもして腹がぱっくり裂けててグロいけど、不思議と嫌な気分とかにはならない。
 自分の死体だからなんだろうか。

 そもそも自分の死体、っていう言い方もおかしいんだけどな。
 普通に生活してたらまず使わない言い回しだ。

 まあ、いい。それよりも日課だ。
 魔法時計で時間を確認、朝の6時10分。

 おれは着替えて表に出た。
 朝日の中、一台の馬車が目の前を通り過ぎていった。
 炎のエンブレムがついた豪華な馬車だ。

 それを無視して家の裏に回った。
 るつぼの街・アクリーの端っこにあるあばら屋のさらに裏。

 昼夜とわずほとんど人が来ないそこに回った。
 家の壁に三本の武器が掛けられてある。
 左から鉄の剣、金棒、木刀だ。

 若いときは鉄の剣を使ってた。少しでも強くなりたかったからだ。
 中年時代は金棒を使ってた。剣術を覚えられなくて、せめて重い一撃でぶん殴れるようにという選択だ。
 年取って普通にじいさんって言われるような歳になってからは木刀だ。金棒が重くて使いにくいのと、数十年間毎日相手にしてる弱い精霊だと木刀で充分だからだ。

 おれは木刀をもって、素振りをはじめた。
 日課の素振り、これを朝飯までに一万回するのがおれの日課。

「一! 二! 三! ――」

 素振りをしながら、さっきの馬車のエンブレムの事を思い出す。
 炎をかたどった、持ち主の(ある意味)名刺の様なエンブレム。
 たまに見るけど、ああいう属性エンブレムは結構腹たつ。

 この世界で人間が扱える属性は六つある。
 火、水、風、土、光、闇。
 この六つだ。

 でもって属性間はそれぞれ有利不利がある。
 例えば戦闘になった場合、有利属性は不利に対して攻撃力と防御力が25%ずつ上がる。

 従って人間同士ならともかく、あんまり頭を使わないモンスターと戦う場合、有利属性の人間が出っ張るのが一般的だ。
 相手が火のモンスターなら水が得意な人間、水のモンスターなら土が得意な人間とか、そういうのだ。

 で、なんでおれが腹立つのかというと、おれは属性の才能がなかったからだ。
 人間は大抵どれかしら属性を持ってるけど、百人に一人くらいの割合で、何の属性も持たない無属性がいる。

 無属性、物理属性ともいう。
 無属性はあらゆる属性に対して一方的に不利だ。大体全部に対して攻撃力と防御力が20%下がる。
 不利属性よりはマシだが、マシ程度の話だ。

 で、おれは属性の才能はなかった、無属性の物理攻撃しか出来ないのだ。
 それが七十年間不遇の原因であり、属性をイメージしたものを見ると無性に腹がたつ。

「――一万! よし」

 考え事してるうちに素振り一万回が終わった。
 ここ数年間、ちょっと楽できる振り方を編み出したから、素振りの速さが上がってきた。大体朝飯前に終わらせられるようになった。

 家の中に戻って、魔法時計で時間を確認。
 時刻は7時8分。
 素振り一万回で一時間ぎりぎり切る程度か。
 おれがコツコツ修行をはじめようと思った若い頃は一日かけても一万回行かなかった。

 それが毎日コツコツやって、早くなって、やれる回数も多くなった。
 一万回の素振りが一時間切ったのは先月くらいの事だ。

 木刀を持ったまま、考え込む。
 今の見た目――二十歳の時のおれは一日かけても一万回いかなかった。でも今やったら一時間を切ることができた。
 つまり、見た目は若返ったが、能力は七十歳のおれのまま。
 別に進歩はしてない、(見た目的に)生まれ変わったからといって強くなってはない。

 昨日までのおれ、七十歳のジジイのおれと同じまま。
 自分が数十年掛けてこつこつ積み上げてきたものがそのままのこった。

 実は期待した。
 生まれ変わって、何があるんじゃないかって。
 それはなくて気落ちした。

 同時にほっとした。今まで自分が積み上げてきたものがそのまま残ったことに。
 だって修行をはじめて50年近くたってるんだ。
 例え他の属性に対して80%に減衰されてても。
 10の努力が全部報われても最高で8の結果しか得られないままだとしても。
 おれはその事にほっとした。

     ☆

 生きてくのなら仕事をしなきゃならない。
 と言うことで街外れから中心部にやってきた。

 アクリー。三つの王国の国境が交わる緩衝地帯にあるせいで、様々な人種や風習、出来事が交わりあって、いつの間にか「るつぼの街」って言われるようになった街。

 そういえばいつからそう呼ばれるようになったんだ? おれが今の姿――ガチ二十歳の頃はそうじゃなくてただのアクリーだったはずだ。
 まあいい、大したことじゃない。そのうち思い出すだろうし、思い出せなくても別にいい。

 そんな事を考えてる内に目的地にたどりついた。
 三階建ての建物で、表の看板は盾と槍のエンブレムと、「蒼空のベルベット」と書かれてる。
 国同士がこっそり駆け引きを続けてるこのアクリーでは、数少ない王立じゃない私立の戦闘ギルドの一つだ。

 ドアを開けて中に入る。カウンターの向こうに若い女がいた。
 ……見覚えのある女、よく知ってる女。
 うっ、今日は彼女か。

 女の名前はエステル、何人かいる受付嬢のうちの一人で、一番おれを見下してる女だからちょっと苦手だ。
 苦手は苦手だが、背に腹はかえられない。
 仕事を斡旋してもらおうとおれは彼女に近づいていった。

「いらっしゃいませ。蒼空のベルベットへようこそ」
「あれ?」
「どうしたんですか?」
「いや……その」

 なんか、エステルがフレンドリーだぞ。
 前はおれの顔を見ただけで「また来たの死に損ないのジジイが」みたいな顔をしてたのに、どういう風の吹き回しなんだ?

「えっと……」
「初めまして……ですよね」
「え? ああ」

 おれはハッとした、そうかそういうことか。
 今のおれは前のおれじゃない。70歳のじいさんじゃなくて、20歳の若者だ。
 エステルにからしたら見下してるジジイじゃないから、こういう対応をしてるのか。
 新鮮だ、それに……ちょっと気持ちいい。

 普通に接してもらえるだけでこんなにいい気分になるとは。
 気分いいけど、ちょっと切なくもなる。
 どんだけ悪い扱いに慣れてんだよ、って切なくなった。

「お名前は?」
「え? えっと、そうだな。る、るーか――
「ルーカ?」
「る、ルカって言う」

 前の本名、ルーカスだって名乗りそうになった。
 危ない危ない。

「ルカさん、ですか。うちははじめてですよね? 説明はいりますか?」
「えと、一応お願い」

 このギルドの事はよく知ってるけど、もしかしたら見下されてて教えてもらってないことがあるかも知れないから、ちょっとすっとぼけてみた。

「はい、うちは『蒼空のベルベット』といって、どの国にも属してない民間ギルドです。国に属していないのでいわゆる美味しい仕事はあまり回ってこないけど、その分国の役人に中抜きされないで済むので、働いた分の報酬はかなり大きい割合で渡すことができるのが売りです」

 その事は知ってる。
 それを切口に、エステルは色々説明してくれた。

 ここで依頼を受けて、こなして、報酬を受けるシステムは知識にあるもののままだ。
 戦闘ギルドだから討伐とか退治とかがほとんどなのも知識通り。
 特に新しい情報はなかった。

「大体わかった」
「いろんな依頼がありますけど――ます属性をお聞きしていいですか?」
「属性」

 口の中に苦い何かが広がった……気がした。
 属性……属性か……。

「やっぱり有利属性の討伐を依頼した方がいいですし、不利属性は行かない方がお互いのためですから」

 親切に説明するエステル。
 道理だ、道理だ……けど……。

「……ない」

 トラウマをほじくり返されて胸が痛いまま、重い口を開く。
 不遇の無属性、物理しかない男。
 70年間の苦い想い出が蘇る。

「ふーん」

 エステルの表情と口調が変わった。
 あっ、知ってる彼女だ。
 おれが無属性だとわかって、目つきが一気に変わった。
 なんだクソザコナメクジじゃん、って目だ。

「まあ、別にいいんですけど? うちはたしかに無属性の人にも仕事を流してますけど」
「……」

 複雑だ。
 なんというか、実家の様な安心感を覚えた。
 エステルに見下されるのがこんなにほっとして落ち着くとは思わなかった。
 腹は立つけど、安心する。
 複雑だ。

「それじゃ次に能力チェック。あそこの白い壁が見えるよね。あそこを思いっきり攻撃して。それで力を測って依頼を振り分けるから」
「わかった」
「無属性だからこっちはどれでもいいのよね。じゃあ適当に火で」

 エステルがそう言った直後に白い壁が赤くなった。
 戦闘ギルドによくあるヤツだ。思いっきり殴って、能力を数値化するやつ。

「その年齢の無属性なら、戦闘力200……減衰されて160あればいい方でしょ」

 エステルが言ったのは平均的な数字。二十歳の男的に無難な数字だ。
 ……ちなみに属性だけじゃなくて才能もなかったおれは、二十歳の時点で100、減衰して80しかなかった。

 まずい思い出したらトラウマ発動しかけた。考えるのやめよう。
 赤い壁の前にたって集中して、持ってきた木刀を抜く。
 毎朝やってる素振りの感覚で――振り下ろす。

 木刀が壁を叩く。攻撃は吸収されて、手応えはない。
 でもこれでいいはずだ。
 おれはエステルに振り向いた、数値をきこうとした。

「どれどれ――え?」
「ど、どうした?」
「う、嘘でしょ……1024、減衰されてるのに四桁?」

 ああ、それくらいか。
 うんそれくらいだ。
 最近はギリギリで、体調次第でようやく4桁出せるようになった。

「四桁とか数十年の修行がなきゃでないのに……そもそも無属性がそこまでいった人知らない……」

 数十年の修行を積んできたからな、ぶっちゃけだらだらやってた頃も入れたら七十年近い。
 普通の人間なら七十年みっちりやってれば5000は行ってるかも知れないが、おれはこの程度だ。
 やっぱりおれはおれのままで、前のまま何も変わってない。

「こんなに若いのに……すごい」

 変わってないのに、エステルはものすごく尊敬の目でおれを見てきた。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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