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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第二章

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06.助け合うきょうだい

 昼過ぎ、買い物をさくっとすんで、家に帰ってきた。
 街からここまでずっと、ヘリンはおれの服の裾を摘まんで、うつむいて後ろについてきた。
 出かけた時は手を握ってだったから、それを考えれば大分後退した。まあ、いいけど。

「ぷっ!」

 到着して立ち止まったおれに、とまりきれなかったヘリンは後ろからぶつかってきた。

「いきなり何をするのじゃ!」
「いや、ついたんだが……」
「え?」

 まわりをきょろきょろ見回すヘリン。いつの間に……ってつぶやいてる。ついた事にも気づいてなかったようだ。
 うつむいてたからなあ。

 顔を真っ赤にして、わなわな震えだして。
 あげくの果てには、神速で攻撃してきた。
 ほとんど軌跡が見えない手刀での突き、先に動くカウンター(、、、、、、、、、)で何とか打ち払う。

「避けるなあ!」

 地団駄を踏んで、涙目になって家の中に駆け込んだ。

 いや、あの、ヘリンさん。
 あなたの攻撃は避けなきゃ死んでしまうでしょうが。

 というかまた背中が汗でびっしょりだ。
 なんというか、殺気がますます鋭くなってる気がするんだが……。

 ここ最近のは大抵一撃だけだからなんとか対処出来てるけど、殺気自体最初に神殿でガチに戦ったときより強くなってる。
 本気(ガチ)で殺しに来てる気がする。

「なんだかなあ」
「どうかなさったんですか?」
「ビアンカ」

 家の中から出てきたビアンカ。不思議そうな顔で首をかしげてる。

「彼女、布団を頭からずっぽりかぶって隠れてしまいましたけど。なにかありまして?」
「何かって言うか、殺されかけたというか」

 おれはヘリンの殺気がますます強くなってる事をビアンカに話した。

「ますます、ですか」
「おれがなんか言う度に涙目になって怒りだして、ものすごい殺気で攻撃してくるんだ。一発だけだからなんとかしのいでるけど」
「ものすごい殺気で、一発だけ、ですか?」

 頷く。

「……それはそれは」

 少し考えた後、ビアンカは何故かにやにやしだした。
 ……なんで?

「甘えて、じゃれているのですわ、ルーカス様に」
「じゃれてる? いやいや、毎回毎回死ぬかって思う位の殺気ととんでもない攻撃が飛んでくるんだぞ。じゃれてるってことはないだろ」
「そうでしょうか」
「そうだろ」
「そうなんですの?」

 ビアンカが意味不明な言葉を放った。
 いつからそうしてるのか、ヘリンが家の中からこっちを覗いていた。
 ビアンカのセリフは彼女に向けたものみたいだ。

「うーーーー!」

 顔を真っ赤にして呻いて、今度は家から飛び出してどっかに走って行った。

「図星ですわね」
「うーん」

 今の行動だとそう見えないこともないけど……にしてもなあ。
 あの殺気だぞ? あれがじゃれてる?
 ないだろ、それは。

「ルーカス様だからですわ」

 おれの疑問を見透かしたかのように、ビアンカが言う。

「ルーカス様だからこそ、本気で、遠慮無しで甘えられるのですわ」
「そういうものなのかな……」

 なんか微妙に納得いかないけど……。

「さて、連れ戻しに行ってきますわ。あっちは確か墓地、そんなところに今の彼女お一人では色々まずいですわ」
「よく知ってるな」
「先ほどまわりを見てきましたの」

 なるほど。
 ビアンカが言うとおり、ヘリンが走って行った先には墓地がある。
 アクリーの街外れのあばら屋で、墓地の近く。
 その立地のおかげで家賃が安く、ジジイで不遇だったおれでも何とか払える程度だった。

 その墓地に駆けていったヘリンを想像した。
 幼い女の子が墓地に……ちょっと嫌な光景だ。

「おれも行くよ」
「はい」

 一緒に歩き出し、ヘリンの後を追いかけた。
 ビアンカとふたりっきり、途中でその事に気づいて、胸がドキドキしだした。

 手を握りたい。握りたくて指をわしゃわしゃした。
 いいよな、握っても。ていうかする事したんだから、手くらい……。
 よし、握ろう。

 ゴクリ。
 生唾を飲み込んで、いざ握ろう――と思ったその時。
 ビアンカのほうから腕を組んできた!

「ビアンカ?」
「こうしてもよろしいですか?」
「も、もちろんだ!」

 いうと、ビアンカは嬉しそうに微笑んで、ますます腕を強く組んできた。
 こっちまで嬉しくなってくる。
 腕を組んで二人で歩く。
 これって……もしかして……。

 デート? デートなのかこれ?
 デートだよな、うんデートだ。デートってことにしよう。
 なんて、初夜翌日のくせに童貞くさいことを考えていた。

「幸せでございますわ」
「そ、そうか。そうだ、引っ越した方がいいかな」
「引っ越し?」
「墓地の近くなんてやだろ?」
「きにしませんわ。ルーカス様と一緒ならどこでも天国ですから。墓地の近くくらいどうという事ありませんわ」
「そ、そうか」

 嬉しいな、そんな事を言ってもらえると。

「きゃああああ!」

 と、嬉しがってるのもつかの間。絹を裂く悲鳴が聞こえてきた。

「――っ!」
「ヘリンの声ですわ」
「急ごう!」

 ビアンカと頷き合って、一緒に駆け出した。
 すぐにヘリンが見つかった。
 彼女は墓地の真ん中にいて、そのまわりになんと、半透明の人間がわらわら集まってる。

 ざっと数えて五十人はいる。
 というか、これって……。

「幽霊……ですの?」
「そうなるな」

 ビアンカのつぶやきと同じ感想を持った。
 ヘリンを取り囲んでる連中は体がほとんど透けてる。人間じゃないのはあきらかだ。

『にくい……』
『にくき……精霊』
『我らの……かたき』

 言ってる事も幽霊そのものだった。

「もしかして、ヘリンに殺された人間ですの?」
「そうかもしれない」

 ここにあるのはかなり古い墓ばかりだ。年代的に考えてヘリンの犠牲者がいるのもおかしくない。それがヘリンに反応して化けてでた、って所か。

「ええい来るな! 死んでるヤツは大人しく死んでるのじゃ!」

 わめくヘリン、しかし何も出来ない。
 おれから離れて普通の幼女になったヘリンは徐々に幽霊たちに追い詰められていく。
 幽霊越しにヘリンと目が合った。
 彼女は涙目だった、しかしおれを攻撃したときと違う感じの涙目だった。

「――今助ける!」

 木刀を握って、幽霊に向かって突っ込んでいった。
 近づくと、それまでヘリンに向かって行った幽霊は攻撃してくる。
 出方をよく見て、先に動くカウンター(、、、、、、、、、)で反撃。
 反撃を叩き込んだ幽霊、体がはじけて、そのまま消えていく。
 攻撃がきくみたいだ、と、深く考えることをしないで、とにかく片っ端から倒していく。

 一撃一殺で、倒してヘリンに近づいていく。
 やがて切り拓いた血路で彼女にたどりつく。

「大丈夫か?」
「こ、これくらいなんともないわ!」
「そうか! とりあえず脱出する」

 そういって、ヘリンを抱いて来た道を引き返した。

「!?」

 抱きよせた瞬間ヘリンがなんか強ばったが、無視する。いまはそれところじゃない。
 ますます襲ってくる幽霊に反撃して引き戻す。

「――っ!」

 右腕に痛みが走った。ビキッて音が体の中から響いてきて、焼けつくような痛みを感じる。なんだこれは。

「無茶をするな、縫い合わせたばかりの傷口が開くのじゃ」

 そういうことか。
 ヘリンの残滓にやられてヘリンが縫い合わせてくれたばかりの右腕。そういえばまだくっつききってなかったな。

 そんなことはいまはどうでもよかった。
 左腕でますますヘリンを強く抱き締めて、右腕で襲ってくる幽霊を蹴散らして、彼女を救い出した。

     ☆

 家に戻ってきて、一息つく。
 するとビアンカはおれを見て驚いた。

「ルーカス様、肩から血が!?」
「心配するな、今のじゃない。お前は大丈夫だったか?」

 ビアンカに言った後ヘリンにきく。
 彼女はむすっとしている。

「ヘリン?」
「れ、礼はいわんのじゃ。貴様が勝手にやったことなのじゃからな」
「礼はいい。怪我は?」
「――っ。大丈夫じゃ!」

 ますますむすっとなるヘリン、いよいよ地団駄を踏み出すほどだ。
 いまのでなにか気に障ったか? よくわからん。

「それよりも服を脱ぐのじゃ」
「え?」
「脱・ぐ・の・じゃ」

 ヘリンはそう言って、待ちきれず無理矢理脱がせてきた。
 脱がされたおれは眉をひそめた。
 控えめにいって――腕がとれかかってる。

「る、ルーカス様!?」
「わめくな小娘。まったく……こんなになるまで……。こいつの腕を押さえておれ」
「え、ええ」

 珍しくうろたえるビアンカはヘリンの言うとおりにおれの腕を押さえた。
 直後、ヘリンの手が見えなくなった。
 見えなくなるほどの超スピードでおれの腕のまわりをシャカシャカしてる。

 その間、多分五秒くらい。
 それでとれかかった腕がくっついた。
 傷口は淡い光を放ってる、ヘリンの精霊光……とてもいうのかなこれ。

「こうやって縫い付けたのか」
「そうじゃ。これでひとまずよし。明日の朝にはくっつく」
「そうか」
「今度無茶をしたら本当にとれるからな」

 睨まれた。

「わかった。ありがとう、ヘリン。」
「……まったく」

 顔を背けて、なにやらぶつぶつ言い出すヘリン。
 それを見て、またニコニコする様になったビアンカ。
 とりあえず、いつも通りだ。
 さて、腕もくっついたし、これからどう――。

 コンコン。扉をノックする音が聞こえた。

「はい」

 ビアンカがそれに出た。
 狭いあばら屋だから、おれにも来客が見えた。
 若い男女……抱き合ってるカップルらしき男女だ。

「どちら様でしょう」

 ビアンカが聞き、女が答えた。

「ここにぃ、なんだっけ。ねえユーくん」
「あれだよあれ、えっとなんだっけ」

 ただのカップルじゃなくて、頭の緩そうなカップルだった。
 それだけならいいんだが、おれはある事に気づく。
 扉の向こう、カップルの後ろ。

 兵士の姿があった。一人二人じゃない、大量にだ。
 しかも格好がばらばら……鎧の意匠からして、アクリーを緩衝地帯にしてる三カ国の兵士がそろい踏みだ。

 どうしたんだ? 一体。
 その理由はすぐに分かった。
 兵士の一人が口を開く。

「ヘリンだ」
「そうそう」
「そのヘリンに似てるのがー、ここにいるきいたんだけどぉ?」

 息を飲む、そして気づく。
 より大きな殺気にマヒしてたから気づかなかったけど。
 おれの家のまわりは、いつの間にか殺気に取り囲まれていたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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