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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第二章

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05.世界が敵でも構わない

 母さん……岩が一瞬で砂になりました。

 ビアンカに押し切られて、ヘリンと手をつないで買い物に出かけた。
 おれがすんでるあばら屋からアクリーの中心部に向かう途中、道ばたに巨大な岩がある。

 大人の男より一回りも二回りも大きくて、あそこに住み始めて、10分の1ヘリンを討伐するようになって毎日眺めてきたなじみのある岩だ。
 その岩をヘリンはしばらくじっと見つめたかと思うと。

「こっちに来い」
「なんで?」
「来るのっ――じゃ!」

 彼女はおれを無理矢理岩のそばに引っ張っていった。
 おれをそのまま立たせて、目にもとまらぬ速さで動きだした。
 まるでハエが食べ物のまわりを飛び回るかのような動き、それの数万倍速い動き。

 おれの半径二シャーク内で飛び回って、岩を殴り続けた。
 その度に岩がちょっとずつ削られていって、5秒もしないうちに巨大な岩が砂の山になった。

 砕かれた岩のかけら、っていう生やさしいものじゃない。
 文字通り砂の山、見事に粉々だ。
 その砂の山の前で腰に片手を当てたおきまりのポーズをして、満足げに見下ろす。

「ふん、少しは気が晴れたのじゃ」
「八つ当たりかよ」
「何か文句でものか?」

 睨まれた。
 まあ……ない。
 というかその八つ当たりを人間に向けられるよりはマシだ。

「さあ、いくのじゃ」

 ヘリンはおれの手を取って、無理矢理引っ張るようにして歩き出した。

 街の中に入って、人の行き来が増えてきた。
 そのままヘリンに引っ張られていくが。

「なあ」
「なんじゃ」
「お前、買い物をどこでするのか分かってるのか?」

 ヘリンの足がピタっと止った。
 振り向き、見あげてくる顔は真っ赤になってる。

「知らないんだな」
「しってる訳がないのじゃ! わしが封印されてどれだけ経つと思っておる!」
「ふむ、やっぱりあの時と今のアクリーは違うのか?」
「更地じゃ」

 ヘリンは胸を張った。

「更地?」
「そうじゃ。わしが封印される前はここ一帯を更地にしてやったのじゃ。そうじゃな……ここからあの通りの当たりまでを真っ平らにならしてやったわ」
「ならしたってどうやって?」
「さっきの岩の様にじゃな」
「ああ」

 砂の山になった岩の事を思い出した。
 なるほど、あんな風に超高速で壊していったんだな。
 まったく人間離れしてる……そっか人間じゃなかったっけ。

「そうじゃ。おい小僧、買い物の前にちょっと付き合え」
「え? いいけど……どこに?」

 ヘリンは答えない。
 おれの手を更に強く引っ張って、すたすたと歩き出した。
 ヘリンに引っ張られて、アクリー東側の精霊の神殿にやってきた。
 到着した途端、ヘリンがヘリンの神殿に走って行った。

「ルカさん!」

 後を追いかけようとしたが、呼び止められた。
 衛兵の若い男が駆け寄ってきた。

「おはようございますルカさん! 今日も討伐ですか?」
「いや、今日はちょっと野暮用だ」
「そうですか。あっ、そうだ聞いて下さい。おれも精霊を倒せたんですよ」
「へ?」

 いきなりなんの事だ?

「ヘリンですよ。実はあれからヘリンが何回も復活してくるんです。あっ、復活といってもたいしたことはないです。前の毎日復活してくるヘリンよりも更に弱いヤツです。ギルドの人がいうには、長年ヘリンが封印されてたから、その力が神殿に焼き付いて、しばらくはその残滓が形になって出てくるそうです」
「へえ」
「それも徐々に弱まってるので、そのうちもうなくなるらしいです。でもいい経験になりました。おれでも精霊を倒せたんだって」

 衛兵の男が自慢げに言う。
 前の十分の一ヘリンより弱い残滓。
 そんなものが残ってるんだな。

「何をしておる、とっととくるのじゃ」
「わかったよ――それじゃな」
「はい! お疲れ様です。……あれ? あの子、どこかで見たことあるような」

 衛兵が首をかしげる中、おれはヘリンの元に向かっていた。

「お待たせ」
「遅いのじゃ」
「わるい。で、ここに何しに来たんだ?」
「貴様は見てるだけでよい、それよりもわしの元から離れずについてくるのじゃ」
「? わかった」

 なんだか分からないけど、とりあえず言うことを聞くことにした。
 ヘリンの真後ろに立った。何があっても一応反応できるように、木刀に手をかけて。

 直後、彼女は動き出した。
 神速のヘリンと呼ぶにふさわしい超速度で神殿に飛びかかった。
 蹴る殴るを繰り返して、神殿を破壊していく。

「こんなもの! こうして……こうしてっ、こうなのじゃ!」
「えっと……?」
「はははははは! よくもわしを長い間閉じ込めておったのう。こうしてくれるのじゃ!」

 すぐに、ただの腹いせだと分かった。
 ヘリンは長年自分を封印していた神殿を攻撃する。跡形もなく消し去る、って感じで息巻いてる。

「……ま、いっか」

 おれは二シャーク以内にいるようにくっついていって、好きにさせてやった。
 どうせもういらない建物だ、ヘリンの好きな様にさせよう。

「る、ルカさん! 何をしてるんですか!?」

 驚きの声に振り向く、衛兵の男が駆け寄ってきた。目の前の光景に驚いてる。
 さて、どう答えようか。
 と考える間もなく、ヘリンは神殿を跡形もなく消し去った。

 跡地にはなにも残らなかった。
 文字通り何もない。
 さっきの大岩でさえ砂となって一応痕跡が残ったのに、ここには何もない。
 まるで最初からなにもあも存在してなかったかのように、念入りに消し去られた。
 ……そんなにいやだったか、この神殿。

「ふー、満足したのじゃ。よく付き合ってくれたのじゃ、褒めてつかわす」
「いやそれは……ってちょっとまて、お前、手から血が」
「うむ?」

 腰に手を当てたヘリン、その手――げんこつのところに血がにじんでいた。

「これか。はしゃぎすぎて何回か範囲外に出たのじゃ、その時についたのじゃろ。まあ、気分爽快なのでこれくらいかまわないのじゃ――」
「ちょっとまってろ」

 ポケットを探った、何かないかと。
 すると手ぬぐいが入っていた。入れた覚えのないヤツだが、ビアンカが前に使わせてくれたヤツと同じ絹の手ぬぐい。
 きっと彼女が入れてくれたんだろう。
 心遣いにこっそり感謝しつつ、それを持って、ヘリンの手を取った。

「何をするのじゃ」
「じっとしてて」
「やめるのじゃ――ええい、払った手を捕まえるでない!」

 おれの手を払おうとしたヘリン。神速と呼ぶにふさわしい速さだったが、じっと見て、先に動くカウンターで手首をつかんだ。
 そのまま血を拭いて、手ぬぐいを包帯のようにまいてやる。

「これでよし」
「……」

 ヘリンはまかれた手ぬぐいをじっと見つめる。ぶすっとして不機嫌そうだ。

「わるいな、不格好で。これでも長年自分の手当てをやってきたから、大分手当てがうまくなった方だが」
「……おろか者が、こんなの……貴様のそばにいたらすぐなおるというに……」
「え? 今なんかいった?」
「何でもない」
「いやでも――」
「な・ん・で・も・な・い、のじゃ!」

 何故か鼻を摘ままれた。

「お、おう」
「ええい、腹が立つ! わしはもう帰る!」
「えっ? でも買い物――」
「か・え・る・の・じゃ」

 ヘリンは大股でずんずん歩き出した。
 なんか……難しいな。
 なんでいまので怒られるのか分からない。プライドを傷つけられた……とかそういうのか?
 わからん。
 そう、おれが悩んでると。

「危ない!」

 衛兵が切羽詰まった声で叫んだ。
 衛兵を見る、彼の視線の先を追った。
 そこに二人の幼女がいた。
 見た目は同じ、着てる服だけ違う二人。

 ヘリンと……あれがヘリンの残滓か!?
 ヘリンの残滓は腕を振り上げた、攻撃だ!
 ヘリンは避けようとして、つまづいて尻餅をつく。

 驚き、そして怯え。
 尻餅のヘリンのそんな顔を目の当たりにして、気がつけばおれは飛びこんでいった。
 ヘリンと、ヘリンの残滓の間に。

「――っ!」

 焼けつく痛みを感じた、視界に何かが飛んだのが見えた。

「なっ、貴様!」
「だ、大丈夫、か」

 めまいがする、必死にこらえてヘリンにきく。

「わしの事はどうでもよい、それより貴様」
「――っ!」

 ヘリンの残滓が更に襲いかかってきた。
 先に動くカウンター。右腕が何故かなかったから、とっさに左腕で木刀を抜き、ヘリンの残滓に反撃。
 一撃で消し飛ばして、ほっとする。

「あれ?」

 それがいけなかったのだろうか、ますますめまいがした。
 頭がぐわんぐわんとなって、視界がぐにゃりとなって。
 次の瞬間、おれは意識を失った。

     ☆

「――!」

 目が覚めて、パッと起き上がった。

「これ、まだ起きるでない」

 横からヘリンがおれの肩を押して、再び寝かせた。
 青空が見える。横に二つの神殿が見える。
 倒れた場所そのままだ。
 そして、ヘリンもいる。

「ヘリン? おれどうしたんだ? ――ってそうだ! お前、怪我はないか?」
「……わしの事よりも自分の事を心配せい。右腕はどうじゃ? 動くか?」
「右腕?」

 言われた通り右腕を見た。そこに手ぬぐいがあった。
 おれがヘリンに包帯替わりとして使ってやった手ぬぐい、それがおれの肩にあった。
 おれの、さっき一瞬なくなったように見えた肩のところに。

「これは……確かさっき斬られて……」
「肉と血管が死ぬ(、、)前に神速で縫い合わせたのじゃ、まあ明日になれば完治しておるじゃろ」
「へえ、そんな事も出来るのか、すごいなおまえ」
「それよりも貴様、何故わしをかばった」
「……」

 さっきの事か。

 かばった、うんかばった。
 気づいたら体が動いて、ヘリンをかばってた。
 理由は……シンプルだ。

「あのままお前を死なせる訳にはいかないから」

 いまのヘリンは不遇を強いられてる、そんな状態のまま死なせる訳にはいかない。
 そんなことは……おれが許さない。
 おれは決意した。

「ヘリン」

 まっすぐヘリンの目を見つめる。彼女はちょっとたじろぐが、構わず続ける。

「守る。お前が本来の力を完全に取り戻すまで、なにがあっても死なさない。いや、ケガ一つさせない」
「わしを……守る? わしが……守られる?」

 驚きのヘリン、直後、みるみると顔が真っ赤になっていく。
 この反応……さっきのと似てる。また怒られるのか?

 だとしても構わない。

 もう決めた、なにがあってもヘリンは守る、彼女を不遇のまま終わらせない。
 例え世界を敵に回しても、ヘリンを元に戻してやろうと、おれはそう決めたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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