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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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12.新たな人生へ(第一章エピローグ)

 オリジナルヘリンが倒された事はすぐにアクリー中に広まった。
 街は震撼した。

 三精霊が猛威を振るってアクリーそのものを地上から消し去りかけたのは様々な文献にのこってる、また精霊の強さを一割とはいえ体験してる冒険者も多い。
 だからオリジナルヘリンを討伐したニュースは衝撃的だった。
 人々はルカという男の名前を知り、その正体を探ろうとした。
 そんな中、おれは目的を果たそうとしていた。

     ☆

 ビアンカの私室に、エステル嬢が訪ねて来た。

「お疲れ様です」

 エステル嬢はそう話したきり、何故か何もいわずに、おれをじっと見つめる。
 食い入るかのように。

「どうした?」
「ケガ……してないですか?」
「見ての通りピンピンしてるけど」
「本当に、本当にケガとかしてませんか?」
「だからしてないって」

 ちょっとだけいらっとした。
 なんだよ、そんなにケガしててほしいのか?

 なんか……昔のことを思い出してしまった。
 いろんな人に「お前生きてる意味あるのか?」って言われてたあの頃のことを。
 それでちょっといらっとした。
 エステル嬢は更に続ける。

「だって……あの精霊ヘリンですよ? 完全に復活したヘリンと戦ったのに……ケガしてないなんて信じられないです」

 なんだ、そういう意味か。
 荒れかけた心がちょっと落ち着いた。

 うん、そういうことなら分かる。
 おれでも同じ立場になったら「マジか」って思う。
 オリジナルヘリンと戦って無傷なんて信じられないからな。

 というか今でもまだ信じられない。
 無我夢中にやったからな……もう一回やれって言われたら出来るかどうか怪しい。

「あっ、わかった」
「え?」
「男の人はやせ我慢してでも、弱みを見せちゃだめとか、そういうのなんだ」
「いやちょっと?」
「そっか……そういうことなんだ。かっこいいなあ、それ」
「あの……」
「わかった、もう聞かないね」

 えっと……。
 なんか勝手に勘違いして勝手に納得したみたいだぞ。
 ……ま、いっか。別になにか不都合があるわけじゃないからな。
 それよりも今大事なのは……金だ。

「それでどうなった、報奨金の方は」
「今ギルドで会議してます」
「会議?」
「ヘリンの懸賞金は古いものなので、どうするべきかの会議をしてるの。あっ、間違いなく通りますよ? ヘリンを倒して街を永久に脅威から解放したんだから、文句は出ないと思います」
「そうか」

 ほっとした。会議って聞いて一瞬だけ嫌な予感がしたんだ。

「それで……これを」

 エステル嬢は一枚の羊皮紙をおれに手渡した。
 下の方にギルドの印が押されてる、ちゃんとしたときに使うヤツだ。
 内容をよむ。

「報奨金最低でも一千万ドーラを保証する……これは?」
「念書です、小切手のように使ってください。すみません、ルカさんのことをギルドに話しました。あと一週間以内でお金が必要だってこと。会議が一週間以上かかるかもしれないから、これを相手に渡してください。ギルドが保証人のようなものなので、大金を扱い慣れてる相手ならお金として受け取ってくれるはずです」

 って、ことは。

「間に合ったのか、おれ」
「はい!」

 大きく頷くエステル嬢。
 そうか、間に合ったのか。

 間に合ったのか!!!

     ☆

「一千万ドーラ、確かに頂きました」

 娼館の一室、老人と向き合って、ギルドからもらった念書を渡す。
 一通り読んで、印のところにチェック用の魔法をかけて。
 本物だと確認したあと、老人はそれをしまい、おれにそう言った。

「ビアンカの契約書はいまお作りする」
「そんなのいらない」
「大切なものですぞ。受け取ったら厳重に保管することをオススメします。誰かの手に渡れば、その者がビアンカの所有権を合法的に主張できる。それほどの代物でございます故」
「……わかった」

 正直契約書とかそういうのはもらいたくないけど、ちゃんともらっておこう。

「それをわたした瞬間からビアンカはあなた様のものとなります。同時にあの部屋はビアンカのものではなくなりますので、速やかな退去を願います」
「言われなくても」

 すっと立ち上がって、老人を見下ろす。

「今すぐビアンカを連れていく」

 そのまま身を翻して、部屋を出た。
 契約書をもらわなくても、すぐにビアンカを連れてここから出たかった。
 老人は止めない、金を渡したからだろう。

 誰にも止められず、彼女の元に急ぐ。
 部屋に戻る途中、通り掛かった入り口付近の広間で騒ぎと遭遇した。
 娼婦や客達が遠巻きにして何かを見てる。

「じじい、じじいはいるか」

 中心に一人の若い男がいた。
 男は自分の横に木箱をいくつも積み上げて、そこに肘を載せて大声でわめいてる。

「だれなんだ?」
「えっとですね、ボーヤ・ネルソン様。二年前にお父様の後をついたお貴族様で、ここの常連さんですね」

 横から説明してくれた声の主に振り向く。
 小間使いの服を着た12、3歳くらいの女の子で、明るく、人なつっこい表情をしている。

「キミは?」
「ぼくはマリア、ビアンカお姉様のお付きだよ」
「お付き?」
「身の周りを世話するのが仕事さ。それも今日限りで失業だけどね」

 マリアはうっしし、と笑っておれを肘で突っついた。
 失業ってのはおれがビアンカを身請けしたから世話役もいらなくなったって意味だろうな。
 こういう冗談が様になってて、イヤミに聞こえない女の子だ。

 それにしてもビアンカのお付きか、ビアンカの日常について、ちょっと色々話を聞いてみたい気がする。
 そう思ってた次の瞬間、それどころじゃなくなった。

「早くジジイを出せ。金もって来たぞ。おいそこのお前、ビアンカはまだいるんだろうな」
「えっ」

 若い貴族・ボーヤはビアンカの名前を口に出した。
 瞬間、娼婦達を中心にざわめく。
 何人かはピンポイントでおれを見た。
 ヘリンを倒して噂になってるおれ、その理由がビアンカだってことは、ここの娼婦たちは他のだれよりもよく知ってるからか。
 というか……ビアンカを?

「あー、いるんですよね。あんな風に現金を積んで身請けを迫るのって」
「えっ?」

 マリアを見つめた。
 心臓がぱくぱくした。
 ビアンカを……身請け?

 いやまて落ち着けおれ、ビアンカはもうここの娼婦じゃない、もうおれが身請けした後だ。
 ボーヤが何をしようと――。

「すごいですねあの積み方、ざっと五千万ドーラあるんじゃないですか?」
「えっ」

 一度落ち着いた心がまたざわめきだした。
 五千万ドーラ、だと。
 おれが用意したのよりも遙かに大金じゃないか……。
 そうしてるうちに、娼館の奥から老人が姿を見せた。
 いつぞやのおれと同じように、左右に護衛を引き連れて。

「おう、出てきたかジジイ」
「これはこれはネルソン様。本日はいかなご用向きで?」

 ボーヤはドヤ顔で箱を叩き、老人に言った。

「金を持ってきた、ビアンカをよこせ」
「これはこれは」
「五千万ドーラある」
「大金でございますな」
「足りるだろう?」
「ええ、それはもう」
「ならビアンカをよこせ。すぐにつれて行く」

 老人は無言で、すぅ、と巻いた紙を取り出した。
 おれが渡した念書と同じ材質――羊皮紙。
 重要な書類に使われる高価な紙。
 何なのか、言われなくてもわかる。

「ふっ、用意がいいな」

 ボーヤの反応で更に確信する。
 あれは――ビアンカの契約書だ。
 心臓がわしづかみされたように痛くなった。

 まずい、それはまずい。
 老人は商人だ、そして目の前に積まれたのはおれが用意した五倍の五千万ドーラ。
 目がくらむ、絶対に目がくらむ。

 くそ、さっきもらっとけばよかった。
 どうする?
 無意識に腰に手が伸びて、木刀をつかんだ。

 …………やるか?
 今のおれなら……ッ。

 深く息を吸って、覚悟を決めようとした。
 その時。

「おい、どこに行くジジイ」

 老人が身を翻して、こっちに向かってきた――え?
 ボーヤが手を伸ばす、が、老人の護衛に止められる。
 老人はおれの前に立ち止まって、持ってる紙を差し出した。

「約束のものです、お納めくだされ」
「え……」
「如何いたしましたか?」
「いや、だってあれ――」
「手前は商人でございます、一度完了した商取引を反故にするのはありません。例え目の前に五倍の金を積まれたとしても」
「……」
「もっとも」

 老人は口の端をつり上げた。まるで子供のような、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「あの念書を渡される前に積まれていればわかりませんでしたが」

 おれにでもわかる、明らかな冗談口調。
 驚いた、本気で驚いた。
 老人がものすごいいい人に見えてきた。

「あ、ありがとう」
「正当な取引です、礼を言われる必要はございませんな」
「それでも、ありがとう」

 そう、言わざるを得ない雰囲気だった。

「ふざけるな! おいジジイ、こんなことをしてどうなるか分かってるのか?」
「申し訳ございませぬ。こちらも商人でございますので。それともネルソン様は責任を取ってくださるので? 契約を一方的に破ったことで、当方の看板についた傷と、その先に生じるであろう損害を」

 老人がまっすぐボーヤを見た。
 見られてないこっちまで背筋が寒くなりそうな、ものすごい迫力だった。

 おれたち(冒険者)とも、ヘリン(精霊)とも違うタイプの迫力で、気圧されそうになる。
 その矛先になったボーヤは、完全に気圧されてしまった。

「とはいえ無下にするのもなんですし……いいことを教えて差し上げましょう」
「なんだ!」
「当方は関知できませぬが、買い主――新しい主が金に目をくらまぬとはかぎりませんな」
「……なるほど」

 にやりと口角を持ち上げるボーヤ。
 どういう事だ? って理解が遅れていると、そいつはおれのところにやってきた。

「おいお前」
「な、なんだ」
「五千万ある、ビアンカを売れ。ジジイの話を聞いてた、お前がだした分の五倍なんだろ」
「……」
「これだけあれば充分だろ。さあ、それをおれに渡せ」

 自信たっぷりに言い放ち、手を差し出すボーヤ。
 なるほどそういうことか。老人は自分じゃ売れないけど、ボーヤがおれに売れと詰め寄るのまでは止められない。

 ふとボーヤの後ろにビアンカの姿が見えた。
 騒ぎを聞きつけて出てでてきたのか。
 ビアンカはおれをじっと見つめる。

 静かな目、距離が離れてるのも相まって何を考えてるのか分からない。
 分からないが、そんなのは問題ではなかった。

「ことわる」

 おれははっきりボーヤに言い放った。
 そしてそいつを押しのけて、ビアンカに向かって行った。

「契約書をもらった」
「はい」
「もう出てけって言われた。何か荷物は?」
「いいえ。ここにあるものは全て置いてゆきます。身一つであなたの元へ行かせてください」
「そうか。じゃあいこうか」
「はい」

 ビアンカの手を引いて、歩き出そうとする。

「待て」

 ボーヤが立ちふさがった。

「正気か、五千万ドーラだぞ」

 いくら積まれようと売らない。
 それを話すのも口が汚れそうだったから、無言で更に押しのけてビアンカと一緒に歩き出す。

「待て」

 更に追いすがってくるボーヤ、今度はビアンカに話しかけた。

「お前はどうなんだビアンカ、そんな男でいいのか? しらないなら教えてやる、その男は無属性なんだぞ」

 まわりがざわつく。

「それにくらべて、ほれ。おれは光と闇の二属性持ちだ。希少な二属性、しかも光と闇の組み合わせだ。一千万人に一人の恵まれた才能だぞ。しかもネルソン家の当主だ。どっちを選んだ方がお前にとっての幸せか分かるよな」

 ……歯ぎしりした。
 光と闇の二属性。それが本当なら、こいつは本当に一千万人に一人の恵まれた才能になる。

 それだけじゃない、貴族様でもある。
 おれなんかよりもずっと恵まれた人間。
 生まれながらにして勝ち組だと約束された人間だ。

 頭がぐるぐるする。
 七十年間のコンプレックスがそれだけで爆発しそうだ。

「ルーカス様」
「な――んぐ」

 衆人環視の中、いきなりキスをされた。
 柔らかい唇、脳みそがとろけそうだ。
 離れたあと、ビアンカは穏やかな微笑みのままおれを見つめた。

「やはり、ルーカス様の唇は温かいです」
「え、え?」
「あの時からルーカス様に恋をしていたのかも知れません。わたくしが知ってるただの一人の、温かい唇をしたルーカス様に」
「あっ……」

 ビアンカを「買った」時の事をおもいだした。
 あの時も彼女はこう言っていた。おれの唇は温かいと。

「あなたのそばがいいです。たとえ無属性でも、才能がなくても、思い込んだらこうと決めて曲げない頑固者だとしても」
「あ、ああ……って最後のはどういう事?」
「そうだとしても、わたくしはルーカス様がいいです」

 まっすぐおれの目を見つめて、懇願するように言い放つビアンカ。

「わたくしをつれて行ってください」
「……ああ!」

 力強く頷いて、ビアンカの腰に手を回す。
 彼女を抱いて、娼館の出口に向かう。

「待て、このまま行かせると思ってるのか。喰らえ! 光闇じ――」

 先回りして、両手からそれぞれ光と闇を出して攻撃してくる。
 ボーヤの先制攻撃。

 |先に動いたそいつよりも先に動いた《、、、、、、、、、、、、、、、、》。

 両手の手首に木刀の一撃を叩き込んで、仕上げに脳天を思いっきりどつく。
 ボーヤはひっくり返って、白目を剥いた。

「速い!」「そりゃあヘリンを倒した男だもの」「ビアンカ姉さん、羨ましいねえ」

 いろんな声が聞こえるが、全て無視して外に出た。
 日差しがおれ達を迎える、風が体を撫でていく。

「ありがとう、ルーカス様」
「うん?」
こんな女(娼婦)でも、ありのまま受け入れてくれて」
「それは……」

 おれのセリフだ。
 ビアンカこそ、ありのままのおれを受け入れてくれたたった一人の女。
 彼女にはもはや感謝しかない。

 その感謝の言葉をどう伝えていいのか、よく分からない。
 おれはそういうのが苦手だ。才能がなく、一つの事しかできない男。

 だから、キスをした。
 彼女に教わったキスを。
 キスをした後、まっすぐ見つめる。

「一緒に行こう、ずっと」
「はい!」

 どこからともなく鳴り響く拍手のなか、おれはビアンカとともに歩き出した。
 新しい、不遇ではなくなった人生を。
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