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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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11.決戦

 エステル嬢からあらかじめ預かったメモを取り出し、開いて目を通す。
 のっけから、衝撃的な内容が書かれていた。

「どうなさいました?」
「見てみるか?」

 メモをビアンカに見せる。

「えっと……生け贄を用意する。子供なら男女一人ずつの二人分、大人なら一人分でいい……生け贄ですか」
「それを使って封印を解く……か。というか解くのにも生け贄が必要だったとはな。神殿を建てたときに使ったとは昔話で聞いたけど」
「困りましたわね。生け贄なんて、そんな……」
「ああ、そんなのどう用意すればいいんだ――あっ」

 ポン、と手を叩く。
 生け贄なら、いいのがあるじゃないか。

「ちょっとここで待ってて、生け贄調達してくる」
「えっ!? る、ルーカス様?」

 驚くビアンカを置いて、神殿から飛び出した。
 人気のまばらな早朝のアクリーを縦断して、西側にあるおれの家に戻ってきた。

 家の裏に隠してあるおれの死体を引っ張り出した。。
 何しろ自分の死体だ、生け贄に使ったとしても誰にも文句はいわせん。
 死体を背負い上げた。腹がぽっかり空いてて背中変な感触だがガマンする。

 もう乾いてるが死体の服には血がべっとりついてて目につくから、万年床からシーツを剥がして死体ごとおれを包んだ。
 割れかけの窓ガラスの反射で確認、なんとか、「じいさんを背負っててマントを羽織ってる若者」っぽく見えた。

 とりあえず目がカッと見開かれてるのはまずいから、その目を無理矢理閉じさせた。 そして、家から飛び出す。
 来た道を引き戻して、アクリーを再度横断。

 途中で止められることなく、無事にたどりつくことが出来た。
 重いものを背負ってるせいで大分時間がかかった。戻ってくるのにだぶん三十分以上かかってる。

「ふう……」
「お帰りなさいルーカス様。あら、こちらもルーカス様」

 おれの死体をみて驚くビアンカ。
 くるんでるシーツを解いて、死体を地面に下ろした。

「お腹が……」
「あなたになら見せてもいいと思った。こうなんだ」
「こう?」
「あなたと恋人になったあの日、帰ったらこうなってた。こっちの(、、、、)おれが死んでて、腹が内側から破けてて、こっちの(、、、、)のおれ真っ裸で全身血まみれだった」

 死体とおれ自身を交互に指さして説明する。

「よくわからんが、おれが、おれ自身を妊娠出産したものだと思ってる」

 自分で自分を妊娠出産。
 相変わらず、自分で言ってて頭がおかしくなりそうな言葉だ。

「わたしと愛し合ったから?」
「そうだと思ってる」
「でしたら」

 ビアンカはにこり、と微笑んだ。

「わたしはルーカス様の妻になりますけど、それ以前に父親だったのですね」
「……ぷっ!」

 思わず吹き出した。
 ビアンカのセリフもおれに負けず劣らず、聞いてて頭がおかしくなりそうなものだった。
 状況がおかしいんだから仕方ないか。

「なんかおかしいな」
「おかしいですわね」
「恋人から始まって、父親になって、妻になる。そんな人他にいないな」
「ルーカス様が特別(、、)なのですわ」

 ビアンカのセリフは二重の意味に聞こえた。
 胸がじんわりと温かくなって、しばらくの間ビアンカと見つめ合った。
 しばらくして我に返った。

 間に自分の死体を挟んでの見つめ合いだってきづいて、そのシチュエーションにまた二人笑い合った。

 さて、これで生け贄を用意出来た。
 メモを開いて、読み進めていく。
 他に用意するものはなかった。

「生け贄を魔法陣の中心において、光る柱に同時に鮮血を捧げる、か」
「やってみましょう」
「ああ」

 おれの死体を魔法陣、ヘリンが毎日復活してくる魔法陣の中心に置いた。
 魔法陣が光り出した、今までとは全然違う光り方。
 直後、神殿の柱も光った。
 対角線上にある二本の柱が明滅し始めた。
 これに同時に鮮血を捧げればいい訳か……が。

「遠いな。十五シャークはあるぞ」

 目測で距離を測った。毎日使ってる木刀の約十本分ある距離だ。
 一人で同時にやるのはかなり無理のある距離。

「ルーカス様、わたしに協力させてください」
「そうだな、頼む」

 ビアンカの申し出を快く受け入れた。
 二人同時に魔法陣から離れて、光ってる柱にむかった。
 柱の横に立ってビアンカを見る、向こうもこっちを見つめていた。
 ビアンカと一緒にいるためにも……勝たなきゃな。
 おれは決意を新たにした。

「いっせいーので行こう」
「はい」
「いっせーの……せ」

 かけ声のあと、おれは人差し指の爪で手のひらをひっかいた。
 ビアンカは針を取り出して、親指を刺した。
 瞬く間に二人の手が血まみれになっていき、それを同時に柱に塗りつけた。

「――っ!」

 瞬間、異変を感じた。
 神殿そのものが何か変わるのを。

「ルーカス様!」
「こっちに来い!」
「はい!」

 同じく何かを感じたビアンカは急いで駆け寄ってきた。
 おれはビアンカを背中に隠し、かばう様にして魔法陣と向き合う。

 魔法陣の光は徐々に強まっていき、生け贄のおれの死体を飲み込んだ。
 さらにしばらくして、そこに一人の幼女が現われた。

 なじみの顔だ。

 数十年間、来る日も来る日も倒してきた精霊ヘリンと同じ外見だ。
 一見同じだが、決定的に違ってるところが一つある。

 瞳だ。
 毎日復活してくるヘリンの瞳には知性がない、獣か何かのような目だった。
 それにくらべて、このヘリンは違う。
 神殿の中をくるりと見回してる目は知性を感じる。

「存外、永い牢獄であった」
「喋った……」
「何を驚く必要がある。小僧よ、わしは人間よりも高位なる存在なのじゃぞ。人の言葉くらい自在に操れるわ」

 精霊らしいというか、ヘリンは幼女の見た目だというのに、口調は老人そのものだった。

「それよりも貴様か? わしを解放したのは」
「あ、ああ」
「ふむ?」

 ヘリンはおれをじろじろ見た。
 直後にいきなり飛び上がり、神殿の天井を突き破った。

「まずい! 逃げられる」
「にげやせん」

 かと思えばすぐに戻ってきた。
 さっきまでなかったものを、長いものをおれの前に投げ出した。
 これは――っ。

 ヘリンが投げつけてきたのは鉄の剣と金棒。
 おれが若いときに使ってた武器、家に保管されてるはずの武器だ。

「それは貴様のじゃろ? 血と汗が染みこんでて同じ匂いだからすぐにわかったのじゃ」
「おれの家から持ってきたのか? 今の一瞬で?」

 アクリーをこの一瞬で横断したのか? おれが三十分かかったのにこの一瞬で!?

「時が移ろうと忘れ去られるものなのか。かつては神速のヘリンと誰もが名前を聞いて震え上がったものじゃがな」
「神速のヘリン」

 つぶやくと、ヘリンが目の前からきえた。

「ふむ、よい女じゃ」

 背後から声が聞こえる。
 振り向くとビアンカの横に立って彼女を見あげていた。
 おれの次はビアンカか。

「人間にしておくのはもったいないのじゃ。どうじゃ? わしの眷属にならんか?」
「お断りいたしますわ。わたしにはルーカス様の父親兼妻という大事な役目がありますので」
「諧謔の弄し方がうまい女じゃな。ルーカスというのはこの男か?」
「ええ」
「ふむ」

 こっちにやってきて、今度はおれをジロジロ見た。

「よかろう。まずはこのさえない男を引き裂き、それからゆっくりと心代わりをさせようではないか」

 トン、と地面を蹴るヘリン。
 一瞬で神殿の端っこまで飛んだ。
 やっぱり速い。

 一瞬でアクリーを横断したことも、神殿内を我が物顔で飛び回るのも。
 ぞっとするくらい、ものすごく速い。
 今までに見たことのないような速さだ。

「どれ、まずは小手調べ」

 ヘリンはそう言って、また消えた(、、、)――来るっ!

 先に動いたヘリンより、ほんのちょっと速く動けた。
 ヘリンが全身を動かしてる、こっちは手首を動かして木刀の先端をちょっとずらすだけ。

 その大きな差が、わずかな差に繋がった。
 神速で突進したヘリンが、木刀の先端に自ら突っ込んだ(、、、、、、、)

「なん、だと?」

 自分の体を貫く木刀をみて、目をかっぴらかせて驚愕するヘリン。
 木刀から抜け出して、大きく後ろに飛ぶ。
 腹の穴から血ではなく、光の粒子が漏れていた。

「体がなまっておるようじゃな、目測をあやまり変なところに突っ込んだか」
「……」

 返事をしない、する余裕はない。

「運がよかったのう。じゃが、幸運は二度も起きぬもの――ぐはっ」

 いいながら更に突進してくるヘリン。
 一瞬だけ残像が見えて、次の瞬間またしても木刀の先端に自ら突っ込んで(、、、、、、、)きた。
 今度は胸を貫かれた。

「ば、ばかな……」

 もう一度木刀から抜け出して、三度飛んでくる。
 三回目も、木刀の先端に自ら突っ込んで(、、、、、、、)きた。

「どういう事じゃ! 何をした貴様!」

 答える余裕がない。
 ヘリンはあまりにも速すぎる、隙を見つけて反撃する暇はない。
 出来るのは、一瞬だけ見える彼女の残像から軌道をよそくして、そこに木刀の先端を置いておく(、、、、、)こと。

 それが精一杯だ。
 傍から見れば、おれは木刀を構えて、手首動かして先端をずらしてるだけ。
 そこにヘリンが勝手に突っ込んだ、ように見えるはずだ。

「コケにするなあああ!」

 そうじゃない。バカになんかしてない。
 おれはこれしか出来ないだけだ。
 例え神速だとしても、カメのようにのろい相手だとしても。
 おれに出来る事は変わらない、やれる事はただ一つ。

 先に動いた相手によりも先に動くこと。

 おれにはそれしか出来ないのだ。
 そこは流石ヘリン、オリジナルのヘリン。
 今まではどんな相手でも動いた後に隙を見つけて攻撃を繰り出せたのに、ヘリンには自爆をさせるのが精一杯だ。

 それも、かなり消耗を強いられる。
 手首を三回動かしただけでおれは汗だくだ。
 素振り一万回でも汗ほとんどかかないのに、この一瞬だけで全身が汗でびっしょりだ。

 あと何回? あと何回対応できる?
 そう考えてると、ヘリンは木刀から抜け出して、距離を取った。
 体を貫いた三つの穴……そのダメージでふらついてる。
 たたみかけるところだが、おれは待つことしか出来ない。

「奇っ怪な技を使う小僧め。かくなる上は」

 ぶつぶつつぶやくヘリン、おれに背中を向けた。
 逃げる――?
 まずい、逃げるぞこいつ。
 止めなきゃ、ってどうやってとめる?

 向かってこない相手を止める方法、引き留める技。

 ……ない。
 そんなの知らない。
 おれは向かってくる相手に合わせる一撃だけを七十年弱磨いてきた。その他のことは何も出来ない、何も知らない。

 向かってこなければ――逃げられたら。
 ビアンカとは――一生。

「逃げ腰のヘリン、堪能させてもらいましたわ」
「なんじゃと?」

 ビアンカがふと口を開き、ヘリンがびくっとして、動きが止った。

「小娘、今なんといったのじゃ?」
「いいえ、なにも? 人間にちょっとでもかなわないとしればすぐに逃げ出す弱虫のことなんて」

 にこり、と微笑むビアンカ。

「なにも」

 と、言った。
 それが挑発だと分かったのは、ヘリンが鬼のような形相で振り向いた後。

「小娘……」」
「なんでしょう」
「その言葉――取り消せえええ」

 神速で飛んでくるヘリン。
 瞬間、背中にビアンカの手の感触がした。
 今よ――って言われた気がした。

 気を取り直して、ヘリンを凝視する。
 動きは今までで一番わかりやすかった。

 神速でおれを飛び越えて、後ろにいるビアンカを攻撃。
 その前提がわかると、一動作だけ、出来る事が増えた。

 手首を動かす、木刀の先端がずれ、ヘリンがそこに突っ込む。
 腹から突っ込んできて、そこを貫通する。

「またか貴様あああ!」
「はあああ!」

 木刀を切り上げた。
 ビアンカが狭めてくれた選択肢のおかげで出来る様になった一撃。
 はじめて反撃に転じられた一撃。

 木刀が、ヘリンを縦に引き裂いた。

「ば、バカな……このわしが……このわしがああああ!」

 ヘリンの絶叫、怒号。
 ふるえる神殿、ぱらぱら崩れてくる天井のかけら。
 それは……ロウソクが最後に膨らんだものでしかなかった。

 ヘリンは膝をつき、地面に崩れ落ちた。
 木刀を構えて、全神経を集中させて待ち構える。
 攻撃してくるヘリンよりも先に動けるように、集中をきらさないでいた。

 しかし、ヘリンが再び動き出すことはなかった。
 彼女の身体は光の粒子になって空気に溶けていき、長年神殿にあった魔法陣も、徐々に輝きを失い消えていった。

 たおせ、た?
 実感は中々湧いてこなかったが。

「ルーカス様」

 ビアンカの手のぬくもりが、先に勝利を祝ってくれたのだった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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