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ニューゲームにチートはいらない! 作者:三木なずな

第一章

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01.童貞を捨てたら若返った!

 今日は、七十歳の誕生日。

 七十年間、ずっと一人ぼっちで誰にも祝われない誕生日を過ごしてきた。
 それはいい、もう慣れたから。
 七十年間もそうだったから慣れた。

 ……いや違うな、二十代の後半でもう慣れた記憶がある。
 何をしても一人っきり、友達や恋人はおろか、家族さえもいない。
 そんな風に、一人で過ごしてきた。

 そんなおれだけど、何もいいことのなかった人生だけど。
 せめて最後だけ……余命半年って宣言されたこの最後にだけ、いい思いをしておこうって思った。

 それで決めたのが、童貞を捨てること。
 軍資金は一年間コツコツ貯めたお金。それを握り締めて街に出て娼婦を買おうとした。

 前から噂だけは聞いてた、滅多に客を取らないっていう街で三番目の娼婦を買った。
 なんで一番じゃないかって? あのクラスになると金だけじゃ買えないからだ。
 地位があったり、偉い人の紹介だったり。そういうのがないとそもそも会うことすらできない。
 要は「一見さんお断り」ってことだ。
 だからこそ一番の娼婦なんだろうな。

 で、なんで二番目じゃないのかって?
 ……。
 …………。
 不遇の人生を送ってきた無能なおれが一年間コツコツ貯めても金が足りなかったんだよ言わせんな恥ずかしい。

 まあいい、何はともあれ一年分の貯金で三番目の娼婦を買えた。
 三番目でも文句はない。前に一度すれ違っただけだけど、文句なしのいい女だったんだ。

 店に入って、金を前金で払って、部屋に通してもらう。
 部屋の中でドキドキして待ってると、彼女が入ってきた。

「あら?」

 娼婦の名前はビアンカ。彼女はこっちの姿をみて驚いた。
 そりゃなあ。
 向こうは20代半ばの若い美女、こっちゃ70歳のジジイだ。
 しかもさえない、ホームレスだか風来坊だかって言っても通るようなジジイだ。
 驚かない方がどうかしてる。

 だけどそこは流石三番目の娼婦。
 すぐに落ち着きを取り戻し、微笑みかけてくれた。

「ルーカス様。この度はご指名ありがとうございます」
「お、おう」
「今日は一日、ゆっくりしていって下さいね。もしおいやじゃなかったら、今日だけわたしの事を恋人だと思ってくださいな」
「こ、恋人!?」
「はい。わたしもルーカス様の事を恋人だと思うことにしますね」

 そう言ってまたほほ笑んでくれた。
 そしておれに近づき、恋人というか、まるで妻の様にかいがいしく上着を脱がせてくれた。

 ああ、いい女だ。
 おれはビアンカにこっそり感謝した。

 もうこの時点で思い残す事はない。

 こんなおれでも、金さえ出せばこんな美人がよくしてくれるんだ。
 まるで天国に来たかのような気分になれるんだと、教えてくれた。

 いや、やっぱりちょっとだけ後悔した。
 金さえ出せば、女はこんな風によくしてくれるんだな。
 70年間の人生、もったいない事をした。あれこれ切り詰めててももっと来ればよかった。

「あら」
「どうした」
「ルーカス様は、もしかしてお強いのですか?」
「ものすごく弱いぞ」

 おれは自信を持って答えた。
 何せ不器用だし、才能はほぼゼロだから。
 だからこそ不遇の人生だったんだ。

「ですがお体はこんなにも引き締まってたくましい。見ていてうっとりするほどですわ」
「そ、そうか。一応鍛錬はっていうか、毎朝の素振りを欠かさないでやってる。それだけだ」
「すごいですわ」
「こつこつやるしか能がないだけだ」

 これは本当、謙遜でもなんでもなく、ただの事実。
 おれは人生は一言でいえば、才能と属性(、、)に恵まれなかった人生だ。

 それでも真面目にこつこつやって、なんとか社会の隅っこで生きながらえてきた。
 つまらない人生だったな、っていつも思う。

 ちゅっ。
 いきなりキスをされた――き、キス!?
 キスって、キス!?
 初めてのキスがこんなあっさりと!?

「こ、こここここ……」
「ルーカス様の唇、温かいのですね」
「温かい?」
「ご存じでした? わたし達の様な女は唇でその人の人となりを判断するのですよ? よく手が冷たい人は心が温かいといいますでしょ。あれと同じ、唇が温かい人は心も温かいのです」
「そ、そうなのか?」

 そんなの意識した事もなかった。
 思わず自分の唇を指で触れた、自分の唇だから、別に温かいとかそういうのはなかった。

「はい。ルーカス様はきっとよいお方。そんなお方と恋人になれるなんて幸せです」
「も、もう一回キスをしていいぎゃ――」

 声が震える、噛んでしまった。
 まずい、こんな余裕のないところをみられたら嫌われるかもしれない。
 ――と、思っていたが。

「ルーカス様」
「あっ、いやだったら別に――」
「キスを……させてください」

 ビアンカはそう言って、まるで恋する乙女のようにおれにキスをした。
 柔らかくて、温かくて、あまい唇だった。

「ビアンカさ――」
「どうか」

 体を寄せて、胸もとでささやかれる。

「名前で」
「ビ、ビアンカ」
「はい、ルーカス様」

 にこりと微笑むビアンカ。
 理性のたがが外れて、彼女をベッドに押し倒して、綺麗な体をむさぼった。
 彼女は全てを受け入れ、おれの恋人のように振る舞った。
 途中からおれは彼女が娼婦だという事を忘れ、まるで本当の恋人になったような気分になった。

 最高の気分のまま、彼女で70年間の童貞を卒業した。
 最後にまたキスをして、最高に幸せのまま娼館を後にした。

 そして。
 その晩、おれは死んだ。

     ☆

 何一ついいことのない人生だった。

 子供の頃は不遇属性で見下されて、大人になってからは成長率の低さでつらい思いばかりしてきた。

 それでもこつこつと頑張って、ウサギが寝てる間にカメの如く追いついたが、今度は年寄りはいらん、同じ能力なら若者を使うって言われた。

 そんな人生でも、最後は幸せな気分を味わえたんだから、帳尻はあったかも知れない。

 ……うそだ。
 そんなのうそだ。
 それだけで満足できるはずがない。
 恵まれない、報われない、評価されない人生。
 70年分のそれが最後のこれだけで帳尻が合うわけがない。

 足りない。
 足りない!
 全然足りてない!

 もし……。
 もしも……
 もしもやり直す事ができたら。
 ……。

 ――やり直したい!

 人生を一からやり直したい!
 例え不遇のままでも、才能が低いままでもいい。
 人生を、若い時に戻ってもう一度やり直したい。
 やり直したいッッッ!

     ☆

 気が付いたら、おれは裸のまま立っていた。
 立ってるのは自分の部屋の中で、足元にしなびたジジイの死体が転がってる。
 見慣れた自分の肉体――その死体だ。

 で、おれは立ってる。
 なんだ死んで幽霊になったのか――って思ったら自分の死体につまづいた。
 床に顔から突っ込む、とっさに手をついた四つん這いになった。

 つまづく? 死体に? 物理的に?
 自分のほっぺたをつねった、ちょっと痛い。
 もしかして、肉体がある?

 でもそれならこの死体は? というか死体? なんでおれは死体って認識したんだ?
 落ち着いてよく見ると、死体の体は腹がぱかっとでっかい穴が空いてた。
 まるで何かに内側から食い破られた感じで、目は大きく見開いて瞳に光がない。

 うん、改めてみると間違いなく死体だ。
 でもって今のおれは全身が血まみれである。
 おれ(じじい)の腹からおれの足元に血痕が続いてる。腹から出てきたのか? って思った。

 ……えっと、出産?
 なんか魔物の出産でこういうのがあるを? 女騎士を苗床にした魔物の出産がそういう感じだ。

 ……いや待て、その理屈はおかしい。
 それだとおれがおれを出産したことになるぞ。
 男だぞ、しかも自分だぞ?

 混乱してたおれは、次の瞬間さらに混乱した。
 おれが死んでた自分の部屋の中にある鏡をみた。
 見覚えのある姿だ。

 そこに写ってたのは、若返った二十歳くらいの自分の姿だった。
書籍版発売中です、こちらもよろしくお願いいたします。
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