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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
70/75

ゾンビ70

日常回です

 王都の城壁の外周を回ること二日、ようやく飛び降りた門の反対側に辿り着く。

 こちらは架け橋が上げられたままでその橋に遮られるようにして見える城門は閉じられたままだ。

 なんにせよ、この状態であればゾンビたちが溢れ出てパンデミック事案になることは少ないだろう。とはいえ、この王国とやらに希望を抱いて逃げ延びてきた人々が、希望を断たれてゾンビ化した群れが多数。石畳が敷かれた街道はもちろん、その左右に広がる木々の向こうにもうごめく姿が俺の視界に映っていた。

「やはり、こちらもダメでしたか」

 そんな声はマリス。マリス・アンドロビッチだ。ビッチと呼ぶと魔法が炸裂するので注意しよう。


『誰もそんな呼び方しないでしょうに』


 思考の途中で俺の頭に響くのはアサガオの声。視線を向ければ真っ白なゾンビフェイスと、感情を感じさせない無表情な、それでいて白百合を思わせる美少女顔が見えた。


『び、美少女って………』


 あれ? 嫌だったかな? でも、美少女なのはかわらないしなー。


『なっ?! 嬉しいけど、でも、その………』


 街道に向かって歩きながら俺の脳裏に届くのは珍しく戸惑うアサガオの声。まあ、無表情なのでギャップがたまらないが。


「あ、えーと、アサガオさん、念話が周囲に駄々漏れです。いちゃつくのそれくらいにして置いてください」


『い、いちゃついてなんかいないわよ』


 なんで動揺しているんだろうな?

 そう思いながら俺は歩く。続くのはアサガオの足音と車輪の音。

 そう、車輪だ。

 馬車の車輪が転がる音だ。

 顔だけ振り返ればクマさんがいる。でっけぇクマさんだ。

 それが引いている。

 馬車を引いていた。

 両肩に紐を繋いでクマさんが馬車を引いていた。


『なんてシュールな光景だよ』

『あたしだってクマが馬車を引くなんて始めて見たわ』


 今は慣らし運転だ。クマさんが馬車を引くなんて初めての経験だからこそ、人間の歩く速度に押さえている。そして、俺達に近寄るような存在がいたら、物理的に排除している現在だ。


『馬車が手に入ったのはよかったわね』


 ほんと、たまたまだけどな。

 行商人らしき存在が城壁の外周を回って逃げた挙句、馬もろとも食い殺されたのだろう。幸い馬はゾンビ化することなく食い殺されたため、ほぼ原型をなくして馬車の近くに横たわっていた。馬車の持ち主は知らないけれど、俺とアサガオが吹っ飛ばしたゾンビのどれかなんだろうな。


 なんにせよ、クマさんという存在を今後も生かすなら馬車は必要不可欠な存在だった。だって、つながれていないクマなんて明らかに危険動物でしょ? 繋がれていても危険動物なんて意見は聞きません。俺達はフリーダムなのです。


『またわけのわからないことを考えているのね』

『思考は大切だよ。だって俺達は考える生物なんだから』


 死んでるけど。


 でも、クマさんが引く馬車………つまりはクマ車は速度が遅い。望めば速度上昇が望めるけど、それは一時的なものだ。だってブラックベアーって種族はあくまでクマでしかない。

 対して馬という生物は移動する生物だ。

 赤筋と白筋の違いというかクマさんは長距離移動に向いていないらしい。正確に言うなら長距離の一定速度の移動に向いていない。短距離の加速は得意としていても長距離走ができない短距離ライナーというべきだろうか?


『でも、泣き言は言わせないわ』


 その一言に馬車を引くクマさんがビクリと震えた。

 まあ、自分を余裕で殺せる化け物に生殺与奪を握られればそうなるよね。


『アール?』


 僕は何も言っていません。

 こういう時内心もろバレって不平等だよな。


「で、でも、クマさんは頑張ってくれてますよ?」


 そんなマリスの発言に、クマさんは改めて『マリスさんまじ天使!』と感動しているのだが、俺達ゾンビがそんなことを知る良しもない。



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