ゾンビ7
一ヶ月経ちました。
それだけの期間がたつとゾンビたちも結構腐敗が進みます。
俺は相変わらず変らないままだけどね。
それでも一ヶ月。
時折生存者が悲鳴を上げて走ったりゾンビを狩っていたりするけど、結局は多数に無勢。なすすべもなくゾンビの食料になっているけど俺にどうにかできるわけじゃない。というかむしろ、まだ生きていられたんだねと思う始末だ。
「あーうー」
そんな呟きはいつものことだ。
だけど、一ヶ月前に比べれば、俺の体の動きは驚く変化を見せていた。
まず言うならば、
「あーうー」
言語はともかくとして動けるようになった。
これは今までのようなタイムラグを生んで動くではなく、思った瞬間に体を動かせるようになったと言う意味だ。
ちなみに、相変わらず鏡に映るのは顔色の悪い死体顔だが。
でも、思うように体を動かせるようになったのはすばらしいことだ。
だが、生きている頃と違うことがある。
今は街並みを歩いているが目の前にある民家の壁を見つめる。
いや、民家の壁でしかないんだけど、俺は右拳を握り締める。ちなみにやりすぎると拳自体が砕け散るから適度に力を込める。そして、握った拳を振りかざし、全力で振り下ろす。
轟音。
文字通り空気すら震えた。
同時に、俺が拳を振り下ろした外壁は木っ端微塵に砕け散り、壁の向こうの風景を晒していた。なんか、ごめんと思うけど、身体能力の確認は大切だ。
だけど、見下ろした右腕は肘から先がなくなっていた。
いや、そりゃそうだろ。あれだけの威力に肉が耐えられるはずもない。
でも、このままじゃ俺は一生腕無しのままだ。
そんなことはないんだけどね。
グチュルと肉が音を立てる。それだけで、形をなくした俺の腕が元の形に巻き戻っていく。
ただのゾンビなら腐って落ちていくだけなのに。
でも、俺の腕は再生する。
なんなのだろうこれ?
限界突破の力を使えながら体を再生できるゾンビ? 初めて聞きましたよ。
まあ、ゾンビという存在には色々な諸説があってグールになったりヴァンパイアになったりリッチやレイスになったりと色々なパターンが存在する。
だけど、俺は今言ったような存在にはなりたくないけど、ゾンビのままでいたくない訳で。というか人間に戻りたい。
でも、そうもいかない場合はどうしたら良いだろう?
という理由で人間の頃のような動作をスムーズにできるようになりました。
今なら本だってページをめくれるよ? 内容はまったく理解できないけどな!
そんなこんなで一ヶ月。
俺はどうやら真っ当なゾンビではないらしい。
「あーうー」
言葉は相変わらずだったが、できることは飛躍的に増えた。なんせ、生前とまでいかなくとも体が自在に動かせるようになったのだ。
運動を繰り返した結果わかったのは、俺の体はいくらでもリミッターをはずせる上に再生するということだ。
人間の最大値まで力を振るえるけど、振るった分だけ体は損壊する。そして、時間はかかるかもしれないけど再生する。その時間というのがまちまちで、すごい勢いで治ることもあればゆっくりの時もあるというわけだ。これは検証を重ねているけど治り方はランダムだ。
治れと強い意志で祈っても遅々とした治り方もすれば、無意識に高速治療される時もある。うーん、面倒臭いと思いつつも治らないと困るので自然治癒に任せてます。
更に一ヶ月経ちました。
何をすることもない毎日。
でも、実験だけは忘れない。
プラス、力加減を覚えた俺はランニングを欠かしません。
最初はいきなり空を飛んだりしたりもしたけど、今はそんなこともなく石畳を蹴る毎日を続けています。
今ではステップすら踏みながらゾンビの群れの間を駆け抜ける日常を繰り返します。
「あーうー」
そろっと語彙を増やしたいところだけど、そんな機会も無いので後回しにしている最近でした。
とはいえ、そろそろ、この王国でてもいいかなと思い始めているから、コミュニケーション能力を作り始めてもいいのかなと思う俺でした。