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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
58/75

ゾンビ58

 アサガオさんに習って視線を無理に向けた時、私の身体は浅い震動のようなものを感じました。というか嫌な予感しか感じません。これって巨大な魔物や複数の獣が一斉に動くときに感じる奴です。けれど、アールさんが帰ってきたって言っていましたし、それは間違っていないのでしょう。

 なら、彼が魔物を引き連れて戻ってきた? いや、それだけはないでしょう。

 私もある程度冒険者として活動してきましたけれど、アールさんやアサガオさんたちが立ち向かえないような魔物は私の知る限りいません。まあ、私自身の冒険者ランクがあまり高くないので高ランクの魔物は知りませんが、少なくともCランクの魔物くらいでは相手にもならないでしょう。ちなみにCランクで有名な森の魔物はマッドボアと呼ばれる魔物化したイノシシです。体重に見合わぬ突進力で人や障害物を薙ぎ倒す厄介な魔物なのですが、今、私の身体が感じている震動はそれ以上の何かを感じさせました。

 そして、私とアサガオさんが向ける視線の先に現れたのは、

「アサガオさん下がって! 焼き払います!」

 黒い鼻先に黒い毛皮の巨躯。爛々と赤く輝く瞳に研ぎ澄まされた爪牙。

 これは魔物じゃない。でも、それ以上に厄介な獣だ。

「こいつはブラックベアーといって魔物以上に厄介な獣です」


『見た目のまんまの名称なのね』


 やかましい! そんな冷静なコメントいりません。

「幸い獣全般が火を苦手としています。近づかれる前に私が魔法で足元を焼き払います!」

 私はその場で立ち上がって両手に握り締めた杖を身体の中央に構えて意識を集中し始めます。

 炎を飛ばすだけなら一唱節の詠唱で大丈夫ですが、視線の先の大型の獣はその程度ではびくともしないですし、足止めもできないでしょう。なら、必要なのは高火力かつ広範囲魔法です。そのためにも二小節もしくは三小節は必要でしょうか?

 魔法はイメージです。極端な話し、イメージすらしっかりしているなら詠唱は必要としません。それの典型がアサガオさんの魔法でしょうが、私はまだまだ未熟ゆえ、イメージを固めるために詠唱を必要とします。ですが、詠唱の利点もあります。それは複雑な構成を魔法に組み込めるということです。それは威力であり効果範囲であり発動時間の操作でもあります。

 つまり、このようにしてまだ距離があるなら自分にとって都合のいい魔法の設計図を作ることができるのです。

 だからこそ、私が構成するのは半円状の防壁と高熱。そして、吹き上がる噴出力!

「炎よ、壁よ、舞い上が………」


『止めなさい』


 直後、後頭部に衝撃。

 私はアサガオさんからの打撃で意識を失った。



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