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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
54/75

ゾンビ54

 ダメージを受けているのは俺だけじゃない。そう思えるだけましだけれど、決定的な何かが足りていないのも事実だ。

 実際問題ダメージを与えているけど、一発逆転の手段を持っているのは熊の方だ。そもそも、生物としての基礎体力や腕力は野生の獣の方が上である。現実問題俺が上回っているのは肉体の再生能力だけであって、それ以外は全て劣っていると言っていいだろう。そして、この凶悪な獣はたったの一撃で俺の肉体を致命的なまでに破壊できるのだ。


『いや、一撃くらいは耐えられるか』


 だが、続く二撃目以降に俺の肉体が耐えられない。頭部を噛み砕かれてそれでも生きていられるビジョンが浮かばない。まあ、がーぐーは頭部を潰されても再生していたけれど、それが俺に適用されるかもわからないし、がーぐーは全身を潰されたら再生はしなかった。つまり、俺だって過剰なダメージを受ければ再生すら間に合わなくなってしまう可能性だってあるのだ。

 でも、それでも、勝算はある。俺はゾンビであって熊はそうじゃない。ダメージは蓄積されるだろうし、現に今ぶち抜いた左目は再生する様子はない。まあ、再生されたら絶望するしかなかったけど、結局はただの獣で良かったと安心。

 といっても、野生の獣と向き合っている時点で、本来絶望しなければならないんだけどな。

 なんにせよ、チャンスは残っていると言うことだ。

 だから、握り締めていた拳を解いて五指を開く。なにを狙っているかなんて向こうには伝わらないだろうし、俺自身の狙いが本当に通用するかすらもわからない。でも、これが通じなかったとしても、俺のやることは変らない。

 生きるために足掻いて、生きるために殺すだけなんだ。


『行くぞ熊公』


 まるで返事のような唸り声。そして、左目から離した前足を地面に下ろせば、全身をたわめて突進のための力を漲らせて行く。でも、それは俺も変らない。腰を落として前傾姿勢になり爪先と踵に力を込めた。


 刹那、


 俺と獣の姿が加速して激突。たかが人間一人の質量と、その十倍はあるであろう巨体がぶつかり合った結果はすぐに出た。人と肉がぶつかりあった衝撃と感触。同時にスクロールしていく視界に、声にならない獣の雄叫び。

 わかりきっていたことだ。獣との激突に人間もどきが対抗できるはずもないし、背中から地面に叩きつけられたのは当然の帰結と言えた。そして、バウンドしながらその動きが止まった時、俺は背中から地面に倒れていた。


『こうなるよなー』


 そして、視界に映る全身から上がる蒸気。

 そもそも、生物としての土台が違いすぎていたのだ。それと正面から向かい合った結果がこれなら上々と言えよう。このまま、倒れていたい欲求に駆られるがそうも行かない。びくつく手足に力を込めていきながら、生まれたての小鹿のように立ち上がっていく。

 そして、起き上がった視界に映るのは、俺に止めを差すべく迫っていたであろう熊の姿………ではなく、再び地面をのた打ち回る獣の巨体であった。



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