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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
53/75

ゾンビ53

 獣は雄叫びを上げる。

 これは生存競争だ。

 本来なら格下の生物でしかない。しかし、目の前の存在は獣を脅かす獣以上の存在かもしれない。だからこそ、逃げろと絶叫する本能を押さえつけて己を鼓舞し叫んだのだ。

 それまで前面に出ていた食欲が脳裏から過ぎ去り、闘争本能が前に出る。それは動物としては間違っているかもしれない。しかし、この森の王者である獣にとっては譲れない何かが合ったのかもしれない。だから、獣はうなり声を上げながら人の形をした何かと対峙する。


 なんだよこの熊、なんかやる気満々なんですけど。

 そう思いながらも蒸気を上げる俺の四肢は構えを取っていく。

 それは爪先を内側に向けた前傾姿勢。つまりステップ前提のボクシングスタイルだ。逆に爪先を外に向けた姿勢で重心を後ろに落とせば空手スタイル? 前者は全身と左右の異動がしやすい反面防御に向いていない。後者は受け止めたり捌いたりするのに向いているけれど回避に向いていない。まあ、素人の考えだからどこまで正しいかわからないけどイメージ的にはそんな感じだ。

 そして、目の前にいるのは己を上回る巨体。受け止めるよりは回避が優先。だけど、一撃のダメージはジャブや回避ざまのストレートより、踏みしめた大地から続く重い一撃………あれ? 矛盾してきたぞ?

 だけど、なんにせよ、それはきた。

 雄叫びを上げながら突進してくる巨体。あっという間に目の前に迫った獣は右腕を突き出して襲いかかる。同時に左斜め前に飛び出して難を逃れるが、反撃する前に巨体は勢いのまま俺を振り切っていく。このまま飛び込んで拳を叩き込んでもダメージは無いに等しいだろう。むしろ、その後に続くぶちかましを食らっては俺の身体が持たない。だから、そのまま行くに任せて仕切りなおす。

 くそ、攻略法が見つからないな。

 とはいえ、相打ち覚悟でぶつかっても負けるのは俺のほうだ。


『いや、手段はある』


 殺す。という可能性だけ求めればそれは可能だろう。

 いや、むしろ簡単だったかもしれない。あいつの攻撃力だけ目に付けていて肝心の弱点を見逃していた。むしろ、俺の身体が再生すると言うメリットを考えれば当然の帰結だった。

 俺は改めて構えを変える。爪先を内側に向けるステップから、外側に向ける防御の構えへと。

 可能性をはずせば死ぬだろう。けれど、試す価値はあるし、今後の役にも立つだろう。

 だから、俺は息を吐いて両足を踏みしめる。

 左足を前において右足を後ろに置き左拳を縦に構えて右拳を腰の後ろに引いた空手の基本スタイルだ。間違っていたらごめんなさい。

 とはいえ、やることは決まった。

 俺は構えたまま獣の突進を待つ。


 獣は思う。

 これは誘いだと。

 あんな小さな生物が動きを止めるからには理由がある。

 そして、残された選択は二つだけだ。

 ここから去るか、このまま食い殺すか。

 しかし、その二択が牙を鳴らす理由になる。

 この人間は己を殺すことができるのだ。でなければ情けない悲鳴を上げて逃げ出しているはずだ。にも拘らずこの個体は逃げていない。むしろ、覚悟を決めて足を踏みしめて止まっていた。

 馬鹿なのか? 獣は思う。しかし、同時に否定する。この人間は獣にダメージを与えたのだ。ならば、この停滞は逃避ではなく覚悟の現れであると。

 ならば、無意味な突進をすれば死ぬは己だと獣は知る。

 獣の知力は所詮獣だ。しかし、こうやって向かい合えば本能以上の葛藤が生まれる。いかに相手を殺すか? 食い殺すか? そこだけに尽きるゆえに思考がスパークする。

 どうしたらいい?

 獣は思考する。

 だが、獣の考えはシンプルだった。

 押しつぶせばいい。

 己の体重と勢いのまま突進。それに通じる小細工など存在しない。

 ゆえに、獣は雄叫びを上げて全力で走り出すことを選んだ。


 雄叫びが聞こえた。同時に迫ってくる巨体。

 これを俺は望んでいた。

 弧を描く口元、踏みしめた爪先が暴力衝動に歪んでいる。その刹那、大地が割れ砕けた。


『おおおおおおおおおおおおおおオーーーーーーーーーーーーーーーーー!』

『あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!』


 巨大な腕が俺の頭部を狙って振り下ろされる。本来なら外側に向けて回避するべきだろう。だけど、それでは今までと変らない。距離をとって終わるだけだ。

 なら、頭を下げて内側にもぐりこむ。

 そして、鼻につくのは獣の匂い。俺の目の前に在るのは獣の胸元だ。つまり俺は獣の懐にもぐりこんでいる。

『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 本来ならこのままさば折で殺されるだろう。だけどな?


『俺はここにいるぞ』


 ゾンビならともかく生物の弱点はなんだろうか? 答えは簡単だ。

 その全てである。

 特に粘膜や剥き出しの弱点なんていくらでもあるのだ。

 ゆえに、


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーー!』


 俺の右拳は獣の左眼球に突き刺さる。

 ブチブチと何かを引き千切る感触とぬめった手応えに吐き気を催すが生憎と俺はゾンビなので、そんなことに体調不良を起こす暇もない。それよりも、手の平を開いてぬめる何かを掴み取り引き抜いた瞬間、


『!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』


 悲鳴と共に吹き飛ばされた。

 へへへ、やってやったぞ。

 そう心の中で呟きながら視線を身体に落とせばまたもや全身から蒸気が上がっている。

 だけど、それだけの意味があったようだ。

 体の動きは鈍いけど、視線の先に立つ獣は左腕で顔を覆いながら身体を揺らしていた。


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