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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
44/75

ゾンビ44

「あーうー」


 お決まりの台詞を口にしながら周囲を見回す。


「うーあー」


 直後の聞こえるアサガオの声に俺は多少驚く。だって、俺かなりの速度でここに来たのに足音や気配すら感じられなかったのだから。


『走り方にコツがあるのよ』


 なにその忍者スキル?

 ともあれ、眼下のとんがり帽子少女は呆けた顔で俺とアサガオを見たり逸らしたり。まあ、パッと見は俺とアサガオもゾンビだからね。とはいえ、怯えて暴れられるよりは良い。

 なんにせよ、こちらには害を与える気が無い。それを伝えようと、とんがり帽子を被った頭に手を載せた時、彼女は声にならない悲鳴を上げながら身体を震わせた。

 俺は慌てて乗せたままの腕を放す。

あー・・・やっちまった。

 

『デリカシーって知ってる?』


 現在進行形で後悔真っ最中だ・・・

 まあ、そうだよな。この女の子からしたら俺も魔物もからわらないんだから・・・


「ごめんなさい」


 そう思っていた直後、俺の鼓膜を彼女の声が叩いた。

「助けてくれたのに、ごめんなさい」


 それは聞き間違いじゃなかった。俺を見上げる彼女の瞳は俺の瞳に視線を合わせていたし、恐怖に震える身体を己が両手で抱きしめながら押さえ込んでいた。その上でただの魔物でしかない俺に視線を合わせて言葉を口にしたのだ。


『偶然の可能性を考えないのかしら?』


 アサガオ、俺は今感動しているから黙ってなさい。


『それは失礼。けれど、結構な数が集まってきたわよ?』


 アサガオの言葉の示すとおり、城門前の広場の周囲から集まってくるゾンビはもちろん、街道の先に続く森からも数えるのが馬鹿らしいほどの死体の群れが姿を現し始める。


「そんな………」

 眼下の少女が軽く絶望を深めている。

 でも、それが当たり前の反応だ。これがゾンビでなくて、人間やそれ以外の存在であっても同じことを思うだろう。つまりは何が起ころうと死んでしまう。殺されてしまう。食い千切られてしまう。

 だけど、


 アサガオ、その女の子頼むね。


『あなたは?』


 薙ぎ払う。

 言葉の意味通りだ。

 俺達の周囲に集まりつつある全てを薙ぎ払う。

 この少女を食い殺そうとする存在を全て叩き潰す。

 叩き潰した上で殲滅する。

 思考が暴力的になっているのは自覚している。

 だけど、そんなことはわかっていても欲求は止まらない。

 そう、欲求だ。

 人としての三大欲求は薄くなった。

 でも、

 がーぐーを叩きのめしていたとき俺は感じていた。


『暴力に対する快感を!』

『っ!』


 刹那、地面が弾け飛んだ。

 同時に加速する俺の視界。そして、眼前に迫る死体の群れ。

 人間の足は手の三倍の筋力があるらしい。つまり、蹴りは拳の三倍の威力があるらしいが、蹴りなんてものを放とうものなら動きが止まる。場合によっては有効かもしれないが、今はそうじゃない。

 そして、何より、三倍の力を持つ足が踏み出した速度と威力を乗せた拳が弱いなんてことは無い。だからこそ、踏み出した左足の爪先が地面を噛み、腰の回転から続く速度を踏み込んだ右足からの伝道が肩を伝って右拳を射出。


 轟音。


 音速でも越えたのか、振り抜いた拳の結果が頬を叩く。

 そして、目の前にいたはずの死体数体が視界から消えていた。

 そんな結果に俺は、


 高揚した。

 興奮したといっても間違いじゃない。

 暴力なんて好きじゃない。だけど、この、全能感にも似た感覚に快感を感じていた。

 でも、それだけに没頭したらがーぐーと変らない。

 だから、理性と競り合った上で俺は判断する。

 俺はまだ道を踏み外していないと。


「あーうー」


 だけど、周りにはまだまだゾンビが蠢いている。逃げるにしろ去るにしろ数は減らしておくべきだ。

 だから、アサガオ。


『なに?』


 その女の子頼んだ。

 そして、俺は蹂躙を始める。

 ゾンビによるゾンビに対して一方的な殺戮を。


 ………死んでるけど。


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