ゾンビ42
走る! 走り続けた!
その先に私の未来が待っているのだから!
ゾンビを魔法で蹴散らして、肌から散る汗を飛ばして、足の裏で地面を蹴った。
街道のカーブを抜けて王国に続く架け橋にまで辿り着き、
「嘘」
私は絶望した。
馬車が行きかうどころか難民が押し寄せているとかそういうレベルじゃなかった。
架け橋自体は下ろされたまま。
だけど、
「なんで、閉じられてるの?」
城門は閉じられたままだった。
今はまだ中天。門は閉じられていない時間のはずだ。もしくは緊急事態で閉じられていたとしても、見上げる城門のどこかに兵士の影があってもおかしくないはずだろう。いや、影はあった。しかし、それは私の存在を認識していないような振る舞いでした。
つまり、
「この世界は終わっているの?」
全身から力が抜けた。
ここまでくれば生き延びられると思っていたから。
なのに、非常な現実が私を待ち受けていました。
迎え入れてくれるはずの門が閉ざされていて、恐らくその先はここ以上の地獄。
嘘ですよね?
そう思いながらへたり込みます。
見えるのは架け橋。先にあるのは巨大な門。そこに群がるのは無数のゾンビです。
架け橋の周りには堀があり水が流れていますが遊泳している人影があります。まあ、それは遊泳しているというよりは流れに流されるままの死体の群れでしょうね。
そして、私の周りには無数の気配がありました。
「ここまでですか」
心が折れました。
ここまでくれば助かるかもしれないという希望を持って走り続けました。
だけど、ここに救いはありませんでした。むしろ、絶望のマシマシです。
せめて、死ぬなら安らかに死にたかった。だけど、待っているのは食い殺されるという苦痛の死と、その先に待っているゾンビエンドという結末でした。
「っ!」
後ろから肩を捕まれる感触。私は思わず目を閉じます。
首の皮膚に触れた温度はあまりにも冷たくて、私は悲鳴を上げました。
続くのは痛みでしょう。その痛みに続くのは私の悲鳴でしょう。その悲鳴はかき消されて………
轟音。
「え?」
私は思わず振り返ります。
そこには私の肩を掴んだ存在なんていませんでした。いえ、正確に言うなら存在の証明はありました。
私の肩を掴んだ腕が私の左肩に残っていました。二の腕から先を無くして。
「え? えっ?!」
そして、一人の少年が私の前に立っていました。
そんな、さっきまでいなかったのに?!
「あーうー」
それは紛れもないゾンビのうめき声。そして、拳を振り下ろしたままの姿勢から見える顔色は人間のものじゃありませんでした。
でも、私と同年代くらいの少年の視線は、私ではなくこちらに押し寄せようとしているゾンビの群れに向いています。
「うーあー」
そして、また聞こえる別の呻き。
彼女もまた私の傍らに立っていました。
黒い髪を背中に伸ばす美しい少女です。でも、その顔色はどこまでも青白く、視線も一定にしていない死体のような………ゾンビでした。
でも、なんでゾンビが私のような生者の近くにいて私に襲い掛からないのでしょう。ましてや、拳を振るったゾンビの少年は同族を攻撃した様子すら見受けられます。
「あ、あの………」
「うーあー」
少年ゾンビが私の言葉に答えますがなにを言っているのかわかりません。
でも、彼は振り下ろした拳を顎の手前まで引くと、私の様子を一瞥した上で、私の頭に手をのせます。
「ひっ!」
思わず悲鳴を上げてしまいました。
同時に少年は手を引いて私から距離をとります。
そして、無表情な青白い顔色の中に私は何かを感じました。
「ご、ごめんなさい」




