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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
35/75

ゾンビ35

 俺にできることがアサガオにできるとは限らない。

 わかりやすく言うと身体が破壊されてもアサガオに再生能力があるかということだ。

 なんでそんなことを言うのかって?

 いやだって、俺達が外に出るためには城壁から飛び降りるしかない。

 城門を空ける? ゾンビを世界に開放するだけだ。しかも、噛まれただけでゾンビ化するような化け物を世界に放つ功績を俺は残したくない。

 なら、俺達がひそかに飛び降りるしかない。

 ちなみに門の外側でなく内側に飛び降りた結果、俺の脚は二分の一に縮みました。

 再生までの時間は三十秒。それはどうでもいいけど、それがアサガオに適用されるかどうかだ。

 まあ、彼女は数日経っても腐敗しないことから俺に近い存在なんだろう。とはいえ、試しに腕を折ってくれないかなんて言えない。

『君、あたしに遠慮しすぎじゃない?』

 遠慮はしていないけど躊躇ってはいるよ。

 だって、アサガオが俺と同じという確信はないしね。

 がーぐーの時のような後悔は勘弁だ。

『それを言われると弱いけど・・・』

『気にしなくていいよ。あれは完全に俺の落ち度だ。最初から殺して置けば良かった』

 そんな荒い言葉にアサガオが立ち止まる。

『そういうこと言わないで』

『ごめん』

 とはいえ自身の行動に後悔はない。

 でも、こんなやり取りも愛おしい。そして、自分と誰かの毎日が続けば良い。

 そう思ったんだよ。

 ゾンビウォークは毎日続く。いつだって続く。

 だけど、終わりはいつだって来る。

 でも、その終わりの時までに精一杯の努力をするのは間違っていないはずだ。

 だからこそ、試せることは全て試すべきである。

 そして、まずはアサガオに俺と同じことができるようになってもらおう。ゾンビウォークを改善しないと外の世界に出たとき一瞬で魔物判定だからな。


『難しいわね』

『普段意識している以上に身体の動かし方を意識するんだ』

 人間が身体を動かしているのは本人が思っている以上に、脳に記憶された反復運動によるものらしい。幼児が転びやすいのは筋肉が発達していない以上に身体の動かし方が記憶されていないのとね何かを踏みつける、段差に躓く等の予想外を経験していないからとのことだ。

『変に難しいこと知っているのね』

『自分のことろくに覚えていないのにな』

 とはいえ俺達は一度死んだからこそ、脳がまともに機能しているかもわからない。そもそも、なんで動いているのかすらわからないが、脳なり何なりが一度リセットされてしまったのかもしれない。だからこそ、生前の動きを真似て動くだけのゾンビウォークになってしまったのかもしれない。

『腕に下に降りなさい。なんて意識しながら腕を動かしたのは初めてよ』

 声は嘆息したように聞こえたが、実際アサガオは声を発していないし表情は虚ろな無表情だ。両腕を下に下ろしながらも芝生を踏む足元は左右の揺れ幅が半端ない。

『そんなこと言われても今は腕を動かすだけで必死なのよ』

 声にした覚えはなかったけど相変わらず俺の心の声は筒抜けのようだ。

 ちなみに今俺達がいるのは、俺がトレーニング上にしていた中央公園だった。相変わらずゾンビの家族達が家族サービスのを繰り返す広場であった。腐敗度は進行していたようだったけど。今の俺に嗅覚がなくて良かったと心底思う。

『むしろ、視覚的な耐性があることにうらやましく思うわ』

『昔からスプラッターは平気だったんだよなー』


 戯言でした。

 とはいえ、俺はイメージと運動で今の身体能力と行動力を得た。

 アサガオがどこまでになるかはわからないけど、イメージした上で行動する上で力加減を伝えとか無いと・・・あ、飛んでった。俺と同じか。

 って、見上げてる場合じゃない! 俺は落下点まで走って慌てて受け止める。跳んだ高さは十メートルくらいだろか? その分腕にかかった重みは大層なものだった。多分、人間のままだったら腰がいかれてるんだろうな。

 なんにせよアサガオは無事だった。

『あ、ありがとう・・・』

『気をつけてくれ。俺達の肉体は加減が利かない』

 多分、根本的なリミッターがなくなっているのだ。痛みがないから我慢をする必要がない。結果的に本来壊れることを忌避して出せない全力が出せてしまう。でも、それを一から教えるには俺もまだ思索段階なんだ。だから、今はこうやってそばにいて教えることしかできない。

 だって、俺、頭悪いから常に忠言なんてできないんだよ。

『何というか不便な身体ね』

『そう?』

 俺としてはノー補給で、ノー睡眠以外は不満の無い身体なんだけど。

『あなたはそうかもしれないけど、身体をうまく動かせないあたしからしたら、言ったままの通りよ』

 全力で踏み出せば空を飛ぶしな。

『歩くって意識すら難しいのよ。放っておけば勝手に前進するんだけど、それこそそんなのゾンビじゃない』

『疲れない身体だから別に構わないけどな』

 むしろ、場合によってはオートで動いてくれる身体です。

『それが嫌なのよ』

 自分を自分が支配できていないのが辛いってことか。

『そういうことよ』

 まあ、なんにせよ、まずはアサガオが自分の身体を当たり前に動かせるようになってからだ。そうでなければ外の世界なんて夢のまた夢だ。

 贅沢を言うならこの世界の言語や文字を学んでから外に出たいけど、以前考察した通り言語だけは通じるはずだ。だけど、他の可能性を想定しておきたい。もっとも、俺は学者ではないから現地文字なんて解析できないけど。


こんなこと望んでいませんがゾンビを集めて燃やすことにしました。もしくは外に出ることにしました。

 いやだって、日増しに腐敗が進んでいるんですよ。

 俺達はともかく周りがね。

 横顔司書さんのようになくじゃなくって、明らかに腐敗が進んでる。

 歩くたびに足が折れて倒れたり、上半身だけで這いずったり。

 おかしいでしょこの世界。

 死体限定なら当たり前だけどさ。


 だから、俺は死体を運動場に集めます。とはいえ、全てのゾンビを集めるなんて俺にはできません。せめて、周囲のゾンビを引きずったりします。

 アサガオは顔を背けてるよ。

 それもわかる。そもそも、死体なんて見たくないからね。

 でも、集めました。

 その上で油をばら撒いて火をつけました。

 燃え上がったね。

 美しくない篝火だった。そして、終わりを感じなかった。


『なんでそんなことしたの?』

『わかんないよ』

 そう言いながらわかってる。俺はゾンビを、腐敗を広げたくないんだ。だって俺は外に出たい。その時にその外の世界にこの終わった世界を広げたくないのだ。



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