ゾンビ33
何事もむなしい。人生すらも空しいと寂しいことを言っていた人がいる。
大した係わり合いなんてなかったし、言われた当時はそこまで重要な言葉なんて思わなかった。
だけど、人として生きて、異世界に召喚された上で殺されて、その上でゾンビとして生き返ってどうでもいいよな日常が大切だったんだなって実感して、そこから更に絶望した。
助けたいと思った女の子が殺された。無残に殺された。
それでも、助けてやりたい。そう思った俺の結果が今も正しいのかわからない。
でも、それでもさ、
「うーあー」
ゾンビに転生したアサガオは俺の目の前で俺を睨みつけていた。
言うまでもなく顔色は悪い。というかゾンビになったんだから顔色なんて俺と大差ないだろう。
首筋の血の跡は拭いたようなので凄惨な感じはしないけど、それでも彼女は俺を睨んでいた。当然、他のゾンビのように虚ろな瞳じゃない。明確な意思を持って俺を睨んでいた。
「あーうー」
とはいえ、俺達は言葉を喋れない。
だから、一方的に睨まれるという現状があり、それをどうにか突破したい今日この頃だった。
ちなみにがーぐーを磨り潰した場所から離れて城門の前に移動している。城門といっても閉ざされているし、簡単に開け放たれるようなつくりをしていない。開けるためには大門につながれた鎖を多数の人力もしくは馬を使って引き開け放つのだけど、これは開いたら不味い。なぜなら、大量のゾンビが王都の敷地外に解き放たれるからだ。
そして、ゾンビは感染していく。パンデミックとか言う現象が起こるのではないだろうか? 俺自身良く理解していない状態で言葉を使っているけど、ゲームでいるようなゾンビなら倒して終わりだけど、このゾンビは噛まれるだけで感染する。それが外に解き放たれるってどうよ? 明らかに世界が終わってしまう。
あ、思考が現実逃避していた。今はまずアサガオだ。
「あーうー」
「うーあー」
どうしよう? 意思疎通すら不可能になったんだけど? 今まではアサガオが喋ることができたから、手の平に文字を書いて返していたんだけど・・・
『ねえ、アール。意思は伝わってる?』
ん?! いきなりアサガオの声が聞こえたぞ?
『うん、聞こえているようね』
いや、聞こえてるけどどういうことだ?! 俺達声帯がまともに使えないんだぞ?
『それは今後の課題ね。でも、同じゾンビ同士からかもしれないわね』
どういうことだ?
『感染・・・ゾンビになってから、あんたの声が頭に届いていたのよね。言葉にならないことのような・・・途切れがちな電波のような? でも、それは近くになればなるほど聞き分けやすくなったの』
現代人だったからこそ言っていることも理解できるし、異世界物の小説も読んだこともあるからなんとなく理屈は理解できた。でも、問題はそんなことじゃない。
俺達が生物的に・・・種族的に意思の疎通ができるようになったことは喜ばしい。でも、俺はアサガオに言わなきゃならない事がある。
『アサガオ、ごめん』
『何が?』
聞くのが怖かった。ゾンビゆえの無表情。だからこそ、彼女がなにを考えているのかわからない。
『俺、お前をゾンビにしちまった』
人間としての人生を終わらせてしまった。
彼女を魔物の一種にしてしまったのだ。俺自身はまだ大丈夫だけど、彼女はすぐに腐り始めるかもしれない。そんな自分を見るのはどんな人間にだって苦痛でしかないだろう。そんな可能性を踏まえた上で俺は一方的なことをしてしまった。
アサガオが人として死にたかったなら俺は余計なことをしてしまったのだ。
でも、
『ありがとね』
なぜか感謝の念が脳を叩いた。




