ゾンビ28
俺の名前は岩倉 智樹。
異世界召喚を受けたサラリーマンだ。
仕事の休憩中スタバでコーヒーを飲んでいたところいきなり召喚された。
最初は何が起こったのかもわからなかったが、豪奢な宮廷の一室で立ち尽くしていれば時代錯誤な格好をした老人や偉そうな格好の連中に囲まれていたことを自覚したとき、俺は思った。
これは俗に言う異世界召喚だと。
大体が危機的な状況に陥った世界の住人が打開策を求めるべく、異世界から勇者という存在を召喚して、その危機を乗り越えようとするのだ。
そして、召喚された勇者・・・つまりは俺という存在は召喚された世界にないような力や知識を持っていて、その力をもってして救国の英雄となる。そういうシナリオだ。
実際、召喚された俺は元の世界にいた時よりも優れた力とスキルというものを得ていた。そして、知識は中世の世界とは隔絶したものだからこそ、この世界の学者を驚かせた。
まあ、俺に文章や言葉の才能がないからうまく説明はできないんだが、それでも俺は召喚された直後から優遇されていたし、何かを行うたびに褒め称えられた。それに気を良くした俺はこの世界で勇者になろうと決めたのだ。
訓練自体は面倒だったが、実戦は楽しかった。
訓練場に放たれた魔物を蹂躙するのも楽しかった。なんせ、両手で握った剣を力の限り振るうだけで、目の前の魔物が吹き飛んでいくのだ。まるでマンガの主人公のような力に俺は酔った。
そして、俺はこの力で世界を救って、俺の思うがままに生きて行けるのだと思った。
これまでのようなくそったれな人生。他人にへこへこ頭を下げてノルマを達成する腐った生き方なんてしなくて良いのだ。もう、何の我慢だってしなくていいのだ。そう思ったらどこまでも俺は自由だと思えた。
世界を救うまでという誓約はつくが、それでも、その過程だっておいしい思いだってできるだろう。
だから、面倒な訓練だって我慢できたし、破壊することの快楽はその面倒すら塗り替えてくれた。
さあ、世界を救ってやるよ。
だから、おまえらは俺の言うがままになれ。
それが言葉の通りになったのだ。
訓練の後はただれた生活。
女を日替わりで抱いて、好きなものを飲み食いして、魔物でストレスを発散して・・・なんて素敵な生活だ。そう思った。
だけど、
そんな生活は一時的なものだった。
いつの日か、外から悲鳴が聞こえた。
酒の飲みすぎで喉の奥がから空になった感触を覚えながら、俺は鼓膜を叩いた悲鳴に覚醒する。
視界に映るのは薄暗い室内。薄い敷布団から身を起こしながら覚醒していく意識。
ベッド脇に立てかけてあった長剣を手に取りながら起き上がる。
「なんだってんだよ」
俺の家があるのは王城近辺の一軒家だ。石造りのワンルームでトイレはあってもシャワー室はない。とはいえ、トイレがあるだけ、この世界の一般家庭に比べたら優遇されているだろう。
とはいえ、今はそんなことはどうでも良い。
起き上がった俺は、採光窓・・・木枠の窓の近くまで寄ってそれを押し上げたとき、言葉を失った。
「なっ?!」
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
人が人に襲い掛かり、噛みついた肉を食い千切り、押し倒された女が腹を引き裂かれ、引き裂かれた腹の内容物に複数の誰かが群がっていた。
もちろん、そんなのは一例だけに過ぎない。
泣き叫ぶ男が腕を引き千切られていた。許しを請う老人が股を裂かれていた。助けを求める子供が・・・
「うっげぇぇーーーーー!」
俺は思わず吐き出していた。
なんだよこれ? 何が起こってるんだよ?! 昨日まではこんなことなかったのに!
しかも、こんなのここだけのはずがない。ここは王城の近くなんだ。つまり、何かあれば騎士団が出撃して鎮圧しているはずなんだ。なのに、それが機能しないで全域がパニックを起こしている。
つまりは、王国全体が危険なはずだった。
「じょ、冗談じゃない」
確かに俺は勇者になりたかった。だけど、こんな状況で勇者になんてなりたくない。ただ、俺は生き残りたい。俺は俺の望みを叶えたい。
なら、どうするべきか?
「逃げるしかない・・・」
幸い、俺は強い。
たしかに、外の何かはやばいかもしれないが、俺が一人で身軽に逃げるなら何とかなるかもしれない。むしろ、今なら外にはいくらでも別の餌が生き残っているのだ。
それを犠牲にして逃亡すれば俺一人くらいは何とか生き延びれるかもしれない。
うん、良い考えだ。
こいつクズですね




