ゾンビ25
「がーぐー」
あん?
聞き覚えたくない呻きに俺はやさぐれた心で視線を向ける。
そこにはがーぐーがいた。
ゆっくりと立ち上がっていた。
頭の半ばまでをすり減らしながら、蒸気を上げながら頭部を再生しつつあるがーぐーがいた。
「あーうー」
あれ? お前死なないの?
そっか、好都合だな。
いや、だってさ、俺の怒り、収まってないし。
刹那、俺の右拳は再生したがーぐーの顎を打ち抜いていた。同時に砕け散る拳の感触と、消し飛ぶがーぐーの顎の血肉が地面と近くの壁を汚した。そして、振りぬいた拳の勢いのまま振り抜いた左の回し蹴りが、がーぐーの左肩を巻き込んで吹き飛ばす。その勢いのまま吹っ飛んだがーぐーは砕けた頭から民家の壁に激突して白煙を上げる。
うん、こんなもんで死ぬゾンビじゃないよね?
俺が白煙に向かって飛び出せば、その先にうずくまるのは後ろに手をついているがーぐーだ。
馬鹿か? 自ら手の平で地面に向かって抵抗して受身を取る積もりないのかよ?
衝撃。
胴体のど真ん中を捉えた足裏が勢いのままに胸骨を陥没させて再び吹っ飛ばす。
ああ、人間なら即死だね。ゾンビならどうなんだろう? なんにせよ、無事ではすまないよな。だけど、死んでもいないだろう? こんな程度で死ねているんなら俺達は生き延びていないもんな。
案の定がーぐーは生きていた。いや、死んでいるから生きているは正しくない。これは動いている。だ。
でも、俺はこいつが動いていることが許せない。
だから、俺ははいつくばって逃げようとする生きた死体の背中中央に足裏を叩き下ろした。
「っ!」
頭を磨り潰しても死なないなら、お前はどうしたら死ぬんだろうな?
ああ、別に答えなくていい。答えなんて求めてないから。
そんな俺の思いに見上げてくるがーぐーの瞳は、濁りながらも恐怖に染まっていた。
ん? ゾンビなのに死ぬのが怖いのか?
笑わせてくれるよ。
お前が殺したアサガオだって怖かったに決まってるだろうが?!
打撃。振り下ろし。破砕。
どれだけの言葉を尽くしても足りない暴力を振るった。
これまでの人生で、誰かに、何かに一方的な暴力を振るったことはない。
だけど、今回だけは我慢ができなかった。
自分を抑えることができなかった。
結果として、今、俺の目の前に合ったのは赤い池だった。
徹底的に叩き潰されて摩り下ろされて形をなくした林檎の成れの果てだ。だけど、本物の林檎のように摩り下ろされたからといって役に立つものでもないし、俺は、その成れの果てに向かって吐き気しか覚えない。
だから、心の中で言い放ってやる。
『灰は灰に、生ごみは生ごみにってな』
せめて堆肥代わりになって生まれ変われ。
もっとも、それで生まれた食物なんて燃やして捨てるけどな。
そんなくだらないことを思いながら俺は歩きだす。




