ゾンビ18
結局、コミュニケーションツールはゲットできなかったが、そのかわり新しい服と下着はゲットできたので良しとした。といっても、俺用の物じゃないけどな。いや、正確にいうなら俺用の衣服もゲットはしてきている。下着までは探してないけどな。
なんにせよ、がーぐーがいた以上、このままの格好だと目がつけられかねない。あのゾンビが俺と同じ行動までできる可能性はわからないけど、デメリットはできる限りなくしておくべきだ。
結果として。
「ちょ、ちょっと! 着替えるなら奥で着替えてよ!?」
そういえばアサガオがいたの忘れてた。
「あーうー」
ボタンをはずそうとしていたワイシャツから手を離しながら頷いて、その手で着替えを手に取る。向かうのは奥の水道室だ。蛇口があるだけでシャワー室ではないのだが、それでも扉を挟んだ個室である。ということで扉を挟んだ上で俺は着替えた。
というかアサガオ、死体の着替えなんて気にしなくても良くないか?
いや、まあ、服の下は定かではないから見たくないのか。いや、ひょっとしたら俺はゾンビ臭が半端ない?! それは確認しなくては!
着替えの終わった俺は水道室飛び出す。
「・・・アール、どうした・・・の?!」
飛び出した俺はアサガオの前に迫るとその手をとった。
うん、物凄い驚いてるけどごめん、これは俺にとっても重要な話なんだ。
「な、なんなのよ一体・・・」
そして、
『おれくさくない?』
手の平に書き、
「はあ?!」
その手の平でぶん殴られました。
痛みはありませんでした。だって、俺ゾンビだし。
でも、ゾンビではないアサガオは明らかに怒っていた。ソファーの向かい側に座りながら顔を横に背けている。それ自体は構わないんだけど明らかに頬を膨らませていた。
「アール?」
はい、なんでしょう? と顔を上げる。
「あたしだって驚くのよ」
そりゃそうだよな。
と思いながら向けられた視線にたじろきそうになる。言うなれば、まぶたがつり上がっていたからだ。
「いきなり男子が着替え始めたから注意すれば、別の部屋に入った直後に飛び出してきて手を掴まれたらどう思う?」
そ、そうか。あの時の俺は自分のことしか考えられなかったから、驚かれても仕方ないよな。うん、考えが足りなかった。ましてや、俺はゾンビなんだから。
というか俺は男子扱いか。
なんとなくどうでもいいことを思っていれば、
「ちなみにあんたは臭くないわ」
そうなの?
「確かに学生服は死体の匂いするけど、今はそうじゃないから安心しなさい」
まじか。
それはそれでショックだけど洗濯すれば良いってことか。
なんにせよ、今の俺は死体臭を発していないことになる。
だけど、逆に疑問が生まれた。
俺は臭くない? つまりは匂いが生まれる酵素や老廃物が生まれていないことになる。だけど、死体というものは老廃物がなくても腐敗して匂いを発するはずである。
でも、俺はノー補給で動き続けているからこそ、それはおかしいのだ。
頭がこんがらがってくるな。
「アール」
なに?
俺が俯いた頭を上げれば、
「何かあったの?」
そんなアサガオの問いかけに俺は悩む。
でも、俺はその疑問をはぐらかすことができなかった。だから、ゆっくりと手を伸ばしてアサガオの手をとる。
『おれみたいなぞんびがいた』
最初は強張っていた手が弛緩し、書き終えた直後、再び緊張した。
「そ、それって、あなたの仲間なの?」
『わからない』
俺はそうとしか書けなかった。
でも、危険だって思う。俺はのんきなゾンビライフだけど、あれは少し暴力的だ。生きた人間と出会ってどう判断するか、もしくは俺のような自我があるかまでわからない。そして、向かい合った結果だってわからない。
「どうするの?」
『しばらくはほうち』
それしかないだろうな。
でも、その判断がどこまでも間違っていたことが、この時の俺には理解できなかった。
そして、それは、近い内に証明されてしまうことになる。




