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異世界オブ・ジ・エンド  作者: 神谷 秀一
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ゾンビ11

「私の名前は朝顔(あさがお)焼津(やいづ)朝顔。あんたはっ・・・て喋れないか」

 喋れたとしても俺の名前は絶賛不明中で思い出せません。思い出せないけどアイデンティティって大切だと思う今日この頃です。まあ、困ってないからいいけど。


「あーうー」


「それが口癖なの? でも、呼び名が無いのも困るし、うーん」

 呼び名か。俺としてはゾンビ君でも構わないんだけど・・・

「ゾンビ君」

 っておい!

 思わず身を乗り出しかけたらアサガオはびくっと身をすくめる。

「お、怒らないでよ・・・」

 いや、怒ってない。むしろシンクロして驚いただけだから。とりあえず首を横に振っておけば彼女は安心したようだ。

「お、怒ってないの? でも、便宜上は名前が必要だし・・・」

 便宜上って難しい言葉を知ってるな。とはいえ俺からは何の提案もできない。

「そうね、口癖があーうーだし、文字ってアールなんてどう?」


 考える。別に嫌でもないし、そもそも自分の名前を覚えていない俺としてはそんな名前がふさわしいのかもしれない。

 アールか。

 うん、悪くないな。若干知識に端にあった傭兵マンガのキャラクターが浮かびかけたが詳細は思い出せないし、なんか俺にふさわしい気がする。

 だから俺は頷いた。

 俺は今日からアールだ。

 異世界に召喚されて速攻死んだ俺が、改めて生まれ変わった瞬間だった。いや、死に戻った? 瞬間だった。


 名前を得たとはいえ、現状はまったく変らない。俺は補給無しのパーフェクトソルジャー状態だけど、彼女はそうはいかない。今までどうやって生活していたのか? そんなことすら聞けはしない。

 まずは情報が必要だけど、それを伝えるための手段もない。

 どうするかな?

「ねえ?」

 そんな言葉に顔を上げる。

「あたしが生きるためには食料がいる。あなたがなにを必要とするのかはわからないけど、あたしを食べたりはしないの?」

 その言葉の端には緊張が含まれていた。

 その返事によっては、出会い頭のように俺を殺しにかかるだろう。とはいえ幸い、俺に食事の欲求はない。ついでに言うと睡眠よくも無い。性欲は・・・今は感じてないな。三大欲求終わってるのはそれで悲しいものだね。

「変ったゾンビね。あたしの知ってるゾンビは生きている生物に襲い掛かるものなんだけど」

 俺の知っているゾンビもほとんどそうだよ。

 まあ、俺は色々な意味で例外なんだろうな。

「あなたは大丈夫でもあたしは食べ物が必要なの。それはわかるわよね?」

 とりあえず頷いておくが人間の食べ物・・・特に生鮮食品なんて全て腐り落ちているはずだ。そして、家畜すらゾンビたちの餌食になっているだろう。

 そう考えたとき、今までアサガオたちはなにを食べて生きてきたのだろう? そんな疑問を遮るようにしてアサガオが口を開く。

「冒険者が食べるような干し肉や乾燥野菜で食を繋いできたわ。といっても、量には限界あるしどこに何があるのかだってわからないしね」

 そりゃそうだ。

 肩をすくめるアサガオだけど、その肩は本当に細かった。

 こりゃ何か食べさせないとダメだな。


「あーうー」


 俺は立ち上がる。

「ど、どこに行くの?」

 突然の行動にアサガオが驚いたようだ。でも、言葉にすることができないが意味は察してくれたらしい。

「あたしのために食料をとりに言ってくれるの?」

 俺は頷く。

「でも危ないんじゃないの?」

 それには首を横に振る。

 たとえ、ゾンビが俺に襲い掛かってくるとしても、それは大した脅威じゃない。

 むしろ、このまま衰弱されて、また誰とも話せない環境になるなら俺は死を選ぶだろう。

 だから、手に入れたこの暖かい感情のために俺は頑張ろう。

 例えそれが自己満足に過ぎなかったとしても。



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