恋模様 5
あれ程に黄色かった太陽も、ようやくに、その鳴りを潜め、御用猫はマルティエの亭で夕食をとる。
膝に乗せたチャムパグンは、真夏の炎天下に、お外で遊んで来たものか、この時間でも子供のように体温が高い。何となく気持ち悪いと感じ、横に座らせる。
「初めてまして、クロン ルールドタークと申します」
御用猫が、初めてその男を見た印象は。
(コブダイか、こないだオランで食ったな)
まだ 三十路前だというクロンは、顔のつくり、が特徴的で、つるり、と丸い額と、尖った顎が前に飛び出している。
反対に、目の方は落ち窪み、低い鼻は平たく、息を吸うたびに、ひくひく、と良く動くのだ。
「先生ー、猫の先生ぇー、こいつ、なんか、見た事ありますね」
(コブダイだな、お前好きだったよな)
何処かでお会いしましたか、と律儀に尋ねるクロンは、とても遊女にのめり込むような人間には見えなかったのだが。
(いや、こういった真面目な男が、遅くに遊びを覚えると、いかんのだろう)
そういえば、そんな事を、田ノ上老がよく言っていたか、と御用猫は思い出す。
「クロンさん、友達は選びなよ」
「おぉ? なんだそれ、阿呆のケインを馬鹿にすんじゃねーよ、センセでも許さねーよ? 」
「そうだぜ先生、確かにウォルレンはろくでなしの女誑しだが、これでも良いところが一つくらい、探せばきっと見つかるんだからな」
コブダイ騎士は、一見すると不気味な風貌だったのだが、この不良仲間のやり取りを見ても落ち着いて、和かに微笑んでいた。
これは、よほどに、気の優しい男なのだろう、成る程、こうして見ると、どこか愛嬌も感じられるではないか。
何となく、クロンを気に入った御用猫は、徳利を差し出し酒を勧める。ぐい、と飲み干す姿は、なかなかの飲みっぷりだ。
「良いね、あんた、良い男だ」
御用猫は返盃を受けながら、目を細め。
「だから、これは忠告なんだが……マリリンとかいう女は、やめときな、あれにクロンさんは勿体無いよ」
「……初対面の人に、失礼かとは思いますが、彼女の内面の美しさは、付き合ってみなければ分かりません
マリリンは、こんな私を、私を、見た目で蔑んだり、馬鹿にしたりはしませんでした、彼女は心の優しく、美しい人なのです」
クロンは、きっぱり、と答えた。 迷いのない返事だ、覚悟もある。
こうなれば、御用猫に、もう口の挟める問題ではない。
少々面倒だが、クロンの事は気に入った。所属は赤虎炎帝騎士団だそうだが、まぁ構うまい、田ノ上の親父と二人でしごき、一年もあれば、そこらの騎士に引けは取らぬ程、鍛え上げられるだろう。
「おし、分かった、田ノ上の親父には俺から話す、最高の道場を紹介してやるよ……その代わり、きついぞ? 途中で逃げ出すようなら、両脚の腱を切られて棒振りされられるからな? 」
因みに、御用猫は冗談のつもりで言ったのだが、これは過去に事例のある、紛れも無い事実であった。
「おー、良かったじゃん、クロン」
「今日は、お祝いでクロスルージュ行こうぜ」
「はえーよ、あ、ところでケイン、昨日はどうだったんだ? 」
御用猫の投げた疑問は、ケインの心に深く刺さったようだ、がっくりと項垂れ、物言わぬ骸と化した。
「ぶふぉ、センセ、こいつね、がっつき過ぎて、ふぅっ、致す前にね、うふっ」
「あ、分かった、可哀想だからやめたげて」
どうやら、ケインは何か、若さ故の過ちを犯してしまったようだ。テーブルから身を乗り出して、チャムパグンがケインの赤髪を叩きながら、何やら声をかけていた。
励ましているのだろうか。
「元気だせよ、早漏コゾー、玄人でしっかり、恥、かいとけよ」
がはは、と笑うチャムパグンの尻をはたき、やはり自由にはさせておけぬ、と膝に乗せてから揉みしだいた。
クロンは、楽しそうに笑っている。
御用猫は、出来るならば、このコブダイのような好男子に、幸せが訪れぬものかと、微力ながら、ちからになろうと。
珍しくも、面倒事を抱える気になったのだ。




