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御用猫  作者: 露瀬
99/150

恋模様 5

 あれ程に黄色かった太陽も、ようやくに、その鳴りを潜め、御用猫はマルティエの亭で夕食をとる。


 膝に乗せたチャムパグンは、真夏の炎天下に、お外で遊んで来たものか、この時間でも子供のように体温が高い。何となく気持ち悪いと感じ、横に座らせる。


「初めてまして、クロン ルールドタークと申します」


 御用猫が、初めてその男を見た印象は。


(コブダイか、こないだオランで食ったな)


 まだ 三十路前だというクロンは、顔のつくり、が特徴的で、つるり、と丸い額と、尖った顎が前に飛び出している。


 反対に、目の方は落ち窪み、低い鼻は平たく、息を吸うたびに、ひくひく、と良く動くのだ。


「先生ー、猫の先生ぇー、こいつ、なんか、見た事ありますね」


(コブダイだな、お前好きだったよな)


 何処かでお会いしましたか、と律儀に尋ねるクロンは、とても遊女にのめり込むような人間には見えなかったのだが。


(いや、こういった真面目な男が、遅くに遊びを覚えると、いかんのだろう)


 そういえば、そんな事を、田ノ上老がよく言っていたか、と御用猫は思い出す。


「クロンさん、友達は選びなよ」


「おぉ? なんだそれ、阿呆のケインを馬鹿にすんじゃねーよ、センセでも許さねーよ? 」


「そうだぜ先生、確かにウォルレンはろくでなしの女誑しだが、これでも良いところが一つくらい、探せばきっと見つかるんだからな」


 コブダイ騎士は、一見すると不気味な風貌だったのだが、この不良仲間のやり取りを見ても落ち着いて、和かに微笑んでいた。


 これは、よほどに、気の優しい男なのだろう、成る程、こうして見ると、どこか愛嬌も感じられるではないか。


 何となく、クロンを気に入った御用猫は、徳利を差し出し酒を勧める。ぐい、と飲み干す姿は、なかなかの飲みっぷりだ。


「良いね、あんた、良い男だ」


 御用猫は返盃を受けながら、目を細め。


「だから、これは忠告なんだが……マリリンとかいう女は、やめときな、あれにクロンさんは勿体無いよ」


「……初対面の人に、失礼かとは思いますが、彼女の内面の美しさは、付き合ってみなければ分かりません

マリリンは、こんな私を、私を、見た目で蔑んだり、馬鹿にしたりはしませんでした、彼女は心の優しく、美しい人なのです」


 クロンは、きっぱり、と答えた。 迷いのない返事だ、覚悟もある。


 こうなれば、御用猫に、もう口の挟める問題ではない。


 少々面倒だが、クロンの事は気に入った。所属は赤虎炎帝騎士団だそうだが、まぁ構うまい、田ノ上の親父と二人でしごき、一年もあれば、そこらの騎士に引けは取らぬ程、鍛え上げられるだろう。


「おし、分かった、田ノ上の親父には俺から話す、最高の道場を紹介してやるよ……その代わり、きついぞ? 途中で逃げ出すようなら、両脚の腱を切られて棒振りされられるからな? 」


 因みに、御用猫は冗談のつもりで言ったのだが、これは過去に事例のある、紛れも無い事実であった。


「おー、良かったじゃん、クロン」


「今日は、お祝いでクロスルージュ行こうぜ」


「はえーよ、あ、ところでケイン、昨日はどうだったんだ? 」


 御用猫の投げた疑問は、ケインの心に深く刺さったようだ、がっくりと項垂れ、物言わぬ骸と化した。


「ぶふぉ、センセ、こいつね、がっつき過ぎて、ふぅっ、致す前にね、うふっ」


「あ、分かった、可哀想だからやめたげて」


 どうやら、ケインは何か、若さ故の過ちを犯してしまったようだ。テーブルから身を乗り出して、チャムパグンがケインの赤髪を叩きながら、何やら声をかけていた。


 励ましているのだろうか。


「元気だせよ、早漏コゾー、玄人でしっかり、恥、かいとけよ」


 がはは、と笑うチャムパグンの尻をはたき、やはり自由にはさせておけぬ、と膝に乗せてから揉みしだいた。


 クロンは、楽しそうに笑っている。


 御用猫は、出来るならば、このコブダイのような好男子に、幸せが訪れぬものかと、微力ながら、ちからになろうと。


 珍しくも、面倒事を抱える気になったのだ。




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