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御用猫  作者: 露瀬
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波剣 人魚針 18

「あの焦げ半エルフの処遇が決まったそうです」


「そうか」


 御用猫一行は、浜風の女亭で、少し早めの昼食をとっていた。小悪魔達に餌をやりつつ、大窓から外を眺めると、街は随分と賑わっている。


 祭りの準備があるのだ。


 病気療養を理由に、オラン領主の交代が宣言されて三日。


 あれから、事後処理が終わると早々に、ハーパスはクロスロードを訪れ、王女から領主交代の認可を受けた、来週には、シャルロッテ姫が新領主就任の祝いと視察を兼ねて、オランにやって来るのだという。


 実際には、一連の事件の事情聴取であろう。


 テイルド メイロードは蟄居を命じられ、何処かの片田舎で、監視付きの余生を過ごす事になる。


 オランの中央広場にて、ハーパスは領民を集めて王女の前、就任の挨拶を行い、彼女はそれを祝福する。そのどさくさに紛れて、ラーナとの婚約を宣言するというのだ。


 海エルフの族長とオランの若き新領主の恋物語は、既に実しやかに囁かれ始めていた。若い二人の、悲恋に終わるはずの関係を、ハーパスが男気を見せて、強引に成就させる、というものだ。


 市井では、美談として受け入れられ始めている。


 噂好きの市民にとって、格好の物語だろう、既に演劇として公演する話まで始まっているのだとか。


 みつばちらも、この作戦に関わっているらしく、御用猫は既に都合一ヶ月は、オランに滞在していたのだ。


「そろそろ、帰るかなぁ」


「そうですね、オランには、働き蜂を置いておきますので、問題無いかと」


 また、何かおかしな話が聞こえたか。


 御用猫は、いつもの通り、無視を決め込む。


「そんで、あいつは、どうするって? 」


「我々の情報屋として、一生、ただ働きしてもらいます、新領主も新族長も、紐付きの方が安心だと、納得しておりますし」


 事件の責任は、総て海賊に被せたのだ、彼女の処遇は、オランからの放逐が、最低の落としどころであったのだが。


 確かに、目を離せば、いつ自ら命を絶つか分かったものでは無いだろう。


 それ程に、ティーナの目は光を失っていたのだ。


「有能なのは間違いないんだ、せいぜい、扱き使ってやれ、死ぬ元気も無くなるくらいにな」


「了解致しました」


 あまり、すっきりとした解決とは言えぬだろうが、御用猫が、二度とオランに立寄りたく無い、などと思う程ではないだろう。


「……祭りの前に、出立しよう」


「はい」


 僅かに、心地良さの許容を超える喧騒を聞きながら、御用猫は膝の上の黒雀を撫でる。


 チャムパグンは腹を出し、すぴすぴと、風船を膨らませていた。


(あれだけ食って、何故太らぬのか)


 黒雀もそうだが、随分と燃費の悪い身体をしているものだ。


 撫でる度に、黒雀は、服の前を開けた御用猫の鎖骨辺りに食い付き、何かを吸っている。ひょっとしたら、精気でも吸われているのではなかろうか。


 かぶとむしに取り付かれた樹木のような、いや、樹木にそういった感情があれば、だが、そんな気分で猪口を持ち上げる。


 持ち上げたものの、一向に酒を注がれる気配が無いので、御用猫はみつばちの方を見るのだが。


「先生、ひょっとして、本当に幼子が好みなのですか、でしたら、私の胸に不満は無いと思うのですが」


 両手を胸に添え、真面目な顔で問うてくるみつばちに。


 早くティーナを遣えるようにして、こ奴らの代わりにしようと。


 半ば本気で、御用猫は考え始めたのだ。









泡と散りぬる人魚の恋を


叶える為には血を流し


猫にお掃除頼むぞと


海に浮かんだ赤い泡


御用、御用の、御用猫











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