波剣 人魚針 12
翌日、オランの軍港を訪れた御用猫一行は、ハーパスの用意したキャラベル船「ヌーノ レドンダ号」を見上げていた。随伴船と共に、明日の早朝から出航し、海賊の隠れ家を強襲するのだ。
乗組員は合計六十名、その内、戦闘員が四十名程。
「オランの海狐」とは、ほぼ同戦力であったが、戦闘に関しては、此方の方に分があるはずだった。
問題は、海エルフの協力者達であるが、海上で戦わないのならば、然程恐るるような相手では無い、二船合わせて十名の呪い師が乗船しているのだ、対策も万全である。
「どうだ、我がオランの軍船は」
笑いながら、ハーパスが現れた、作業員が手を止めるのを制し、いちいち挨拶を返している。
「見事なものですね、西方からの輸入ですか」
「分かるか、これはラゾニアの船だ、大型船も良いが、やはり小回りが利かぬとな」
満足そうに頷くと、忙しいからと、部下を連れて立ち去ってゆく。態々、出航準備にまで立ち会うのだ、何事も自分の目で確認せねば気の済まぬ男なのだろう。
(なんとも、奇特な事だ、有能なのだろうが、理解はできぬな)
面倒を嫌う御用猫とは、その辺りで、相容れないだろう。
「先生ー、御用猫の先生ぇー、お腹が空きました、こんなもん見ても腹は膨れませんよー、ぐぇー」
「お前は、本当そればっかりだよな、たまには我慢しようとか思わないのかよ」
「先生、おなか、わたしも」
「よし、さっき屋台の準備してたな、あすこに行こうか」
御用猫は、黒雀の手を握る。
この快楽殺人者を放置はできぬ、腹が空いて気が立ったからと、背後から刺されては、堪らぬのだ。
「猫の先生よー、もう少し、わたしに、優しくしても、いいんじゃ無いっすかねー、最近、とみに扱いが雑な気がするんどすえ」
「そんなこと無いどす」
両手に、小エルフを連れ、てくてくと歩く。
少し遅れて、ティーナが付いてきている。
昨夜の事は、お互いに触れていないが、やはり、何処となく精彩を欠いているように感じるのだ。彼女が、何を頼もうとしたのか、いくつかの予想は立てているが、如何にも、しっくり、と、こないものばかりで。
とりあえずは、相手の出方を見るしかあるまい、ハーパスと共に海賊討伐をしてから考えよう。
御用猫は、ぶんぶんと手を振るエルフ共に、せめて手を振る調子くらいは合わせろ、と説教し、竹串に刺した鳥肉を回し焼く屋台の前に陣取ると。
手を振りながら、早く早く肉を焼け、の歌を仲良く歌い始めた。
屋台の主人は顔を顰めたが、小エルフ共の可愛らしさに負けたのか、禿頭の汗を拭いながら、大量の串焼きを生産してゆく。
(海が荒れそうに無いのは、ありがたいがな)
生焼けの串に齧り付く二人の頭をはたきながら、御用猫はしかし。
海賊共の足が早く、隠れ家が、もぬけの殻、であることに期待していた。




