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御用猫  作者: 露瀬
80/150

波剣 人魚針 4

「うはーっ! 」


 水上コテージの桟橋から、チャムパグンは海に飛び込んだ。森エルフにとって、海で泳ぐというのは、貴重な体験なのだろう。


 優先順位は、食事と睡眠の次であったのだが。


 昼寝から覚めた彼女は、唐突に、ぱっぱと服を脱ぎ、全裸裸足で駆け出したのだ。


「良心だけじゃなく、羞恥心まで落っことしてるのな、あいつは」


 チャムパグンは、海に飛び込んでは、溺れるようにばたつき、桟橋に這い上がっては、また飛び込む。飽きもせずに繰り返すその様子を、風通しの良いコテージから眺めつつ、御用猫は、黒雀の着替えを手伝っていた。


「よし出来た、ついでに、チャムの奴にも水着を渡しといてくれ」


「ん」


 黒雀は、白い水着を見せびらかすように、御用猫の目の前で、くるくる、と回ってみせる。


 トライデント族の若族長、ラーナのコテージは、岬の突端にあり、人目にはつきにくい。


 そもそも、海エルフしか住まぬ島であるため、黒雀は遠慮なく欺瞞の呪いを解き、全身の梵字を露わにしている。子供の様に薄く白い肢体に、みっしりと描き込まれた呪いの梵字だが、不思議と嫌悪感はなく、むしろ、どこか美術品のような、調和のとれた、完成された美しさを感じるのだ。


 上下に分かれた白い水着の収まりを確認するように、くいくい、とずらし、満足そうに頷いたあと、黒雀は予備の水着を握りしめ、桟橋に駆け出した。


「先生は泳がないの? 」


「無駄な体力は使わない主義なんだよ」


 ティーナはにやり、と笑う。


「泳げないんじゃなくてぇ? 」


 彼女は、黒い水着に着替え、そこそこに肉付きの良い身体を見せつけながら、口元を隠し、くすくす、と空気の抜けるような笑みで挑発してくる。


 御用猫は立ち上がるとティーナを肩に担ぎ上げ、桟橋まで暴れる彼女を運搬し、両足を抱えて振り回してから、海の中に放り込んだ。


 運悪く、海中で着替えるチャムパグンに命中したようで、縺れ合い暴れていたが、しばらくすると二人共に、ぷかぷかと浮かんできた。


(ちょっと、楽しそうだな)


 思いながらも、御用猫はコテージに戻ると、ラーナの正面に座り直す。


 びくり、と彼女が震える。やはり、人間に対して多少の忌避感はあるのだろう。


 御用猫は、彼女が自分を恐れる理由を知らず、そう考えるのだ。


「さて「オランの海狐」とかいう海賊なんだが、海の上で勝負はしたくない、根城を突き止めて強襲するのが一番だろうな」


「それは……そうかもしれませんが、海賊の住処がどこにあるかなんて」


 ラーナは首を振る、オロロンの一味は神出鬼没、また、用心深くもあり、陸での買い物から足が付いたことも無いそうなのだ。


「そりゃそうだ、海エルフが協力してるんだからな、部族の島を片端から調べよう、怪しい所が必ず見つかる」


 ラーナは目を剥いて立ち上がったが、そのまま動かなくなる、何やら、思案している様子だ。


「まさか、そんな……いえ、でもそう考えると……」


「色々と、繋がるんじゃないか? 」


 今まで追跡を試みた者達も居たはずだ、しかし海賊の船は恐ろしく足が速かった。


 小型船とはいえ、相当な呪いで加速しているのだろう、となれば、練達の水系呪い師が乗り込んでいる筈であり。


「この近海の地形や海流を把握し、呪いが得意、補給もばれずに行う事が出来る……可能性は高いだろ」


「そんな、でも」


「調べはこっちでやる、情報が抜けるのは怖いからな、あんたは俺たちを連れて、各部族に紹介してくれれば良い」


 話したい事を全て伝えると、御用猫は立ち上がり、手早く服を脱ぎ捨て、少しだけ泳いでみるか、と歩き出す。


 野良猫は、生まれた時から泳ぎ方を知っている。


 それが達者かどうかは、また、別の話なのだが。


 じたばたと捥がいた御用猫は、波打ち際まで移動すると。


 黒雀の指導の元、泳ぎの練習を始めたのだった。



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