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御用猫  作者: 露瀬
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波剣 人魚針 1

 御用猫がオランに向かったのは、茹だるような七月の暑さから逃げる為でも、有名な観光地である、オランの白浜で、波と戯れる水着の女性を、鑑賞する為でもない。


 目的は、一千万の大物首「水蛇」のオロロン ホロロン。


 みずくちなわ、の二つ名の所為かは分からぬが、この賞金首は、地中海沿岸を中心に活動しており、海賊の切込み役や、港町で辻斬りや押込み強盗など、それなりに悪名を聞く事ができる剣士だった。


 その男が現在、オラン近海を荒らす海賊の一味に居る、というのだ。


 クロスロードの衛星都市オランは、人口十五万人程の港町である。


 現在は、冷凍、保存の呪いが広く普及し、クロスロードの海産物は、オランからの定期便により、安定供給されている。


 これに大きく貢献したのが、海エルフ達の存在であった。


 呪いを広め、漁場と漁法を人間に教え、その代わりに、地上の特産品や技術文化を得て、平和的な共存関係を構築していたのだ。


 海賊退治の依頼は、海エルフからのものだという、オランの口入れ屋から、クロスロードに話がきたのだが。


 大仕事の割には報酬が安く、騎士団に任せる話だろうと、ほぼ手付かずになっていた。


 血気盛んな若者を集めて、名を上げるために挑戦したものが居たのだが、海上での戦いには、海賊の方に一日の長がある。協力した商船ごと、見せしめの為に皆殺しにされたと言う。


 流石に目立ち過ぎだろうと、御用猫は思った、おそらく、騎士団が討伐に乗り出すだろうが。その頃合いを見計らい、この海賊団は解散してしまうのだろう、良くある手口だ。


 とはいえ、折角なので、御用猫は依頼を受けた。


 目的は、オロロン一人に絞るつもりであるし、彼奴を討ち取れば、大した手合いは居ないだろう、人数が少ないならば、事のついでに、海賊の隠れ家くらいは強襲してもよいのだ。


 最悪、空振りに終わろうとも、一人旅は楽しめるだろう。


 御用猫は、みつばちに、北町に潜む賞金首の捜索を頼み、その隙にクロスロードを脱出した。マルティエに手紙を預けているので、心配される事はあるまい。


 トベラルロ キットサイと戦った時には、通らなかった海沿いの街道は、定期便の荷馬車や、旅人行商で賑わっている。


 オランの海を目当てに、クロスロードからの観光は、一番増える時期だろう。のんびりと街道を歩き、オランまでは、あと半日ほど。


 名所のひとつである、石積みの眼鏡橋が現れた、街道沿いから河原まで、多くの茶店が並び、川の水で涼をとる者や、匂いばかり強烈な焼き物で、腹を満たす者など、様々だ。


 そろそろ休憩するか、と、御用猫は茶店を眺める。


(酒を飲むのは、宿に着いてからだな、たれ焼きは旨そうだが、今はちょっとな)


 きょろきょろ、と、目移りする程並ぶ店頭品を、矯めつ眇めつ吟味していると。


「お団子、色の、みっつのやつ」


 くいくい、と、袖を引かれる。


 黒雀だ。


 普段の黒装束ではなく、白いワンピースに紺のスパッツを履き、麦藁帽子を被っている、身体の梵字も隠してあるので、これでは白雀ではないか、と御用猫は、密かに文句をつけた。


 何故こんな所に、こそこそと跡を付けるなと言ったのに、と、御用猫は一瞬腹を立てたのだが。


 黒雀は私服姿なのだ、梵字も隠した、現状は、眼帯をした森エルフの少女にしか見えない。これは、隠形のわざを、使用していない、という事なのだろう。


 気付かなかったのは、単に黒雀が無口であったのと、御用猫が、抜けていた、のだ。


(まぁ、こいつなら邪魔にはならぬか)


 御用猫は黒雀の手を握ると、団子茶屋に向けて歩き出した。


「晩ご飯食べられなくなるから、少しだけだぞ」


「うん」


「先生ー、猫の先生ぇー、みたらしは団子に入りますか! 」


「入るね」


 黒雀と反対側の手を握り、ぶんぶんと振り回すチャムパグンを見ても。


 もう、御用猫は、ああそうか、としか、思わなくなっていた。




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