表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御用猫  作者: 露瀬
67/150

相合傘 9

 次の日、目を覚ましたサクラはしかし、大人しいものであった。


 恐らく、あまりの精神的な衝撃に、無意識下の安全装置が働いたのだろうか。昨夜の事は覚えていないように見える。


 いつものように、御用猫に素気無く袖にされたみつばちは、半ば放心状態のサクラに、色々と、けしからぬ真似をはたらいていたのだが。本人が覚えていないのならば、敢えて伝える必要も無いだろう。


 脱がせてはいないのだから、大丈夫なのだ。


 田ノ上老は楽しんでいたようだが、リチャードは、何か微妙な表情で、女性二人の睦みあいを眺めていた。


 そんな出来事は無かったかのように、サクラは、フィオーレと、何事か楽しそうに話しながら、黒江道場の門を潜るのだ。


 結局、フィオーレはまたも付いてきた。


 貴族の暮らしなど知らぬ、御用猫ではあるが、どうにも、こ奴らは。


(働いて無いのでは、なかろうか)


 首を傾げる事しきりである。


 サクラに妙な執着を見せる彼女の事だ、昨夜の事は話さないように、みつばちも近づける事のないように、少し注意しておこう、と、御用猫は考えた。



 さて、この黒江道場であるが、ロッド道場とは違い、あまり繁盛はしておらぬ様子で。


 如何にも町人の護身術習い、といった様子の若い衆が数人と、稽古するでもなく、茶飲みを愉しむ、暇な老人達の姿があるのみだった。


 ただ一人、師範代と名乗る三十路前後であろう男だけは、中々の腕前と見える。


 坊主頭に、鍛え上げた肉体美、身長は高く無いが、それ故に、鍔迫り合いの圧力は、ぐりぐりと、黒目の大きな瞳も相まって。


(猪のようだ)


 と、全員に思わせた。


 ズゥロと名乗るこの師範代は、サクラとフィオーレが黒江と挨拶を交わす間にも、じろじろ、と、御用猫とリチャードを無遠慮に睨めつけ、御用猫は、猪からの敵対心すら覚えたのだが。


 リチャードの方は、何か、また、通じるものを覚えた様子で、自ら、ぶつかり稽古を申し出ていた。


 正直に言うと、御用猫は、黒江 サルティンボッカについて。


 期待外れ。


 だと感じていた。


 身長は百七十五センチ、御用猫程か、身体の厚みは、やや、脂肪もあるが、四十五歳にしては、緩んでいない方だと言える。人の良さそうな細目に丸顔、黒髪は短く切り揃え、全体的に清潔な雰囲気がある。


 見た目に反して、剣力については、御用猫と互角か、それ以上であろう。


 だが、もしも向かい合って、命のやり取りとなれば、楽に処理できるだろう、そういった手合い。


 典型的な、道場型剣士であったのだ。


 人間性は問題無いだろうか、稽古をつけながら、サクラとフィオーレを相手に、上手く話を合わせ、楽しげに談笑している。意外と、女性に受けが良いのかも知れない。


 道場には女の姿は無く、どうやら、ロッドと同じく独身であるようだ。


 女には興味が無さそうなロッドと違い、こちらの方は、ひょっとすると、遊び好きのせいで、結婚していないのやも知れぬ。


(なんとも、微妙だな)


 御用猫は迷った。


 ロッドは、過去の醜聞を除けば、間違いの無い人物。黒江は、腕と経歴に問題は無いのだが、この道場の緩んだ空気と鑑みるに。およそ、他者の指導、教育に、向いているとは思えないのだ。


(後は、みつばちの報告が出揃うまで、待ち、かな)


 御用猫は溜め息を吐いた、何か、最近多いような気がする。


 未だ激しく、ズゥロに打ちかかるリチャードを見ながら、御用猫は、道場で一番の腕前だと言う、鋭い眼の老人に捕まり。


 お茶を啜りながら、囲碁の相手をしている。


 確かに、老人の腕前は一番で、御用猫は、あっという間に、中押し負けを喫したのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ