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御用猫  作者: 露瀬
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死剣 人取り 19

(不味い、不味い)


 リリィアドーネは、焦りを募らせるばかりであった。


 藁人形に幻影を被せ、それを弓で射らせた後に、門から雪崩れ込む賊を迎え撃つ。順調に事が運んだと、油断していた所を迎撃されれば、数の差は覆せると。狭い門を利用し、三方から打ち掛かれば被害も少ないだろう。


 ただ、遊兵に、悪さ、をされるのは面白くない。


 自分は敵の中央を突破し、存分に暴れ回ってやろうと。


 其処までは、彼女の想定内。


 しかし、敵の強さが、彼女の想定外であったのだ。


 敵中を突破した所で、手練れ三人に囲まれた。素早い対応だった、相手も、事前に打ち合わせをしていたのだろうか。


 三人の男は、一対一なら、さほどに梃子摺らぬ相手だった。


 しかし、彼らは連携し、リリィアドーネが打ち込みの気配を見せれば引き、逆から突く。意を逸らし、機を見せず、まるで狼の狩りのように、彼女を追い詰めてゆく。


 一度、強引な攻めを敢行したところで、手痛い反撃を受けてしまった。


 右腕の傷からは、出血が続いている。


 表門の方は、いつまで持つだろうか、何度も、悲鳴が聞こえていた。


 目の前の相手は、断じて野盗山賊の類いなどではない。


 恐ろしく実戦に慣れている、闇討ち屋か、それとも騎士くずれだろうか。


(なんたる無様、油断、慢心、これで何度目か)


 リリィアドーネは、奥歯が折れるかと思う程に、ぎりり、と、強く嚙み締める。


 ケインの班は、どうやら裏門を挟撃したようだ、あちらは優勢のはずだ。向こうの、かた、が着くまで、なんとか持ち堪えるしか。


(……私は、何を言っているのだ? それまでに何人死ぬと思っている! )


 自らの失態を、仲間の命で贖おうなどと、許される事ではない。


 少なくとも、彼女の正義はそれを認めない。


(たかがごろつき三人ごとき、なにするものか)


 腕の一本もくれてやれば、強引に取れる。


 二人になれば、この連携は使えまい。


 リリィアドーネは覚悟を決めた、もっと早くに、いや、戦闘前から決断すべきだった。


 これが、自分の未熟さ、と、言うことなのだろう。


(片端の女は、好みでは無いだろうか)


 ちら、と、最後に、頭の隅でそんな事を考え。


 彼女は、細剣を握り締める。



 突如、どぅっ、と、割れるような、歓声が上がり。


「押し返せーッ! 」


 うおお、うおお、と、鬨の声が溢れた。


「姐さんを助けろ! 」


「あきんどを舐めるなよ! 」


 スキットだ、大井屋の奉公人を集めて、表門の加勢に現れたのだ。


 彼等は、手に手に刺股をもち、槍衾のように揃えて、攻め手を押さえてゆく。


 ああ、と、リリィアドーネは、自分の勘違いに気付いた。


 無辜の民、弱き者、それを守るのが騎士であるのだと、自分の役目なのだと。


 なんたる傲岸で、不遜な考えだったのか。


 民草を守るのが騎士である、それに変わりはない、しかし。


 しゅどっ、と、闇を切り裂き、リリィアドーネの投げた細剣が、男の胸に突き刺さった。


(無手だろうと、知ったことか)


 彼女は隣の男に向かう。


 突き出された剣を、右手で払う。


 多少、肉は弾けたが、既に剣は振れぬ腕だ、盾代わりには、丁度良い。


 懐に飛び込み、掌底打ちで顎をかち上げ、腰の短剣を奪い取る。


 背後に迫っていた敵の剣を、回転して躱すと、そのまま短剣を突き立てた。


 適当に刺したのだが、上手く二の腕に命中した。


 金的に前蹴りを入れ、距離を取ると、掌底を食らわした男が、立ち直りかけているのが見える。


 滑るように死角から近づき、右腕を後ろから首に回し、左腕で固めると、そのまま、巻き込むように投げる。


 ぼくっ、と、首の折れる音を確認する。


(初めて聞いたが、存外、響くものだな)


 などと思いつつ、その男から奪った長剣を、股間を押さえて呻く男の背中に突き刺した。


 リリィアドーネは、自分の細剣を拾うと、門の方を見やる。


 既に勝負は決していた、二、三人の生き残りは投降し、刺股で押さえつけられているようだ。


 彼女は、大きく息を吸い。


「お前たち! 」


 一斉に、リリィアドーネに視線が集まる。


 皆、疲れていたし、苦悶の表情を浮かべた者も居る、だが、どこか、何かを期待した様な目で彼女を見つめ。


「なかなか、やるじゃないか! 」


 その一言に、笑顔に応えるように。


 一斉に勝鬨をあげた。



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