死剣 人取り 18
「皆、揃うたか」
おお、と、歓声があがる。
晩七からの情報は、田ノ上老に届けられた、襲撃まで三時間程だった。
最後の番をしていた者には、ギリギリまで仮眠をとらせ、全員が一堂に会したのが、まさに今。
襲撃までは、あと一時間程だろうか、余裕を持って準備した為、すでに万端、整っている。
「敵の動きを知れたのは僥倖じゃ、夜討ちのつもりで油断しておろうからの、数は多いが、勝てる戦よ」
再び歓声、いや、怒声に近いか。
「静かに、これより指揮は私が取る、田ノ上様には、独自に動いて頂くのでな、田ノ上班はウォルレンに付き裏門、私の班で表を制する、ケインは外で待機、どちらかの後背を攻めろ、判断は任せる」
リリィアドーネは、てきぱきと、指示を出し続けている。実戦は経験していないというのだが、なかなかどうして、堂に入ったものだ。
ケイン班は商館の外に身を隠すため、出発した。
田ノ上老も、いつの間にやら、姿を消している。
サクラは興奮している様子で、ウォルレンがそれを揶揄っては、脛を蹴られている。それを見たリチャード達も笑顔を見せていた、緊張は無いだろう。
演技なのか、素なのかは分からないが、ウォルレンには、そういった才があるようだ。
「お前達も無理はしないようにな、此処まで来た奴だけ、相手してくれればいい」
御用猫は、奉公人達に声をかけた、意外にも、自ら戦うと志願してきた者が多かった。
「うちの従業員くらいは、守ってみせますよ、でないと大先生に殺されてしまいますからね」
スキットは、額に汗を浮かべながらも、腰の木剣を叩いてみせた。今さら真剣は使えない、との事だったが、妙に様になっている。棒振り根性が性根に染み付いているのだろうか。
どこかリチャードに通ずる物がありそうだ。
「親方は、多少無理しろよ」
ぽんぽん、と肩を叩くと、まだ若い奉公人達が笑い声をあげた。
「若先生は、どうされるので?」
「野良猫は、独り歩きさ」
御用猫は振り返ると、最後の一人を配置につかせたリリィアドーネに声をかける。
「リリィー、可愛いリリィー」
びくん、と、飛び上がらんばかりに驚いた様子の彼女は、ずかずかと、大股で近づいてきた。
「お前、は、もっと、緊張感、を、もて! 」
こちらに突き付けた指を振りながら、声高に怒鳴る。
しかし、どことなくいつもの迫力は無い。
怒り半分、嬉しさ半分、といったところか。
いや、彼女の中で怒涛のように、喜びの感情が押し寄せてきているのか。
状況を鑑みて、色事などは、と、それを必死で押し戻そうとしているのだ。
戦況は不利。
口元が緩んでいた。
「気を付けてな、怪我したらチャムを使えよ」
御用猫が、そっと、頬に手を添えると、少し躊躇いがちに、その上に手を重ねてきた。
「うん、あなたも、ご武運を」
単独行動については、既に伝えてある、リリィアドーネはそれ以上何も聞かず、何も言わなかった。
「あんなので良かったんですか? 」
表門をくぐると直ぐに、するり、と、みつばちが現れる。
「抱擁からの接吻でもした方が良かったか? 」
「それはこっちにください」
後でな、と、話を閉じる。
「ところで、俺が行かなかったら、ガンタカをどうする気だったんだ? 」
死の淵の嗅覚と呼ぶべきか、自らの腐臭を掻き分け、ガンタカは、田ノ上老の足跡を辿り、この場所を突き止めたのだ。
最悪の潮合いにて、今も、こちらに向かっているという。
みつばちは、しばし考えた後。
「しがみ付いて、諸共に自爆、とかですかね」
胸元から、発火の呪い札を取り出して見せる。
随分と軽い命だ、働き蜂とは、よく言ったものか。
「替わりは、沢山いるんですよ」
「お前は一人だよ、お前みたいなのが沢山いたら驚くよ、俺は」
ぴた、と、みつばちは動きを止める。
「そうでしょうか? 」
「当たり前だろ、だから死ぬなよ? 寂しくなる」
あはは、と、みつばちが笑った。
御用猫が初めて聞いたそれには、確かに感情がこもっていたのだ。




