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御用猫  作者: 露瀬
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死剣 人取り 16

「先生、危ない」


 がば、と、飛び付いてきたみつばちが、御用猫と、黒エルフの小忍者の間に割って入る。


 交代を終え、背伸びをしながら商館に戻る、ウォルレンとケインの二人が、首を傾げながら、辺りを見回した。何という事だろう、二十メートル程に離れただけの二人にも、既にみつばちの気配は感じられないのだ。


 そういえば、黒雀と名乗るくノ一を、リリィアドーネ達に紹介していなかったのだが、何も尋ねられなかった。


 御用猫の近くに居た筈なのだが、どこか、存在を感知されていなかった様な、ふしがある。


(いかに忍者とはいえ、これ程の遣い手が、ごろごろ、と、いるものなのか)


 千年王国を称する、クロスロードの歴史は、流石に眉唾ものだと思われるが。大国の歴史の裏で、脈々と受け継がれてきた裏の業、その深さを垣間見たようで。


 今更ながらに、御用猫は震えた。


「この毒婦は、中にも色々と仕込んでいますよ、迂闊に手を付ければ一発昇天です、気を付けてください」


「本気で怖いから、冗談ならやめてくれるかな」


 枕を抱くようにしがみつく、みつばちを引き剝がしながら、御用猫は心底から震えた。


「先生は、ご飯くれるから、殺さない」


「お腹すいたら何時でもいうんだぞ!? 」


 人差し指で眼帯をこすり、冗談、と、小さく笑う黒雀に、御用猫は二度と近寄るまいと、心に決めた。


「それで、首尾はどうなんだ」


 どっか、と、指定席に腰を下ろす、周囲の篝火は熱を持たぬが、小さな羽虫が、遊ぶように飛び交っていた。


「西のコルスカ砦跡から三十、南町から闇討ち屋と、やくざ二十人程が出立したようです、晩七の手が、砦の山賊だけ、田ノ上の大先生に連絡すると思います、南のは教えてませんが、こちらで処理できますから、ご心配なく」


「…こっちが総て把握してる前提の話はやめろ、お前はいつもそうだ、役立たずめ」


 みつばちは、やれやれ、と、いった様子で両手を広げるが。


 御用猫が太刀に手をかけると、腰を直角に曲げて謝罪した。


「とりあえず、なんで晩七と連携してんのさ」


 晩七は、東町を取り仕切る口入れやくざの大元締めで、裏の世界にも顔が利く。田ノ上老に恩義があるらしく、色々と協力してくれているらしい。


「アカネさんの伝手ですね、同士討ちにならない程度の、情報提供をば」



 そういえば、御用猫も晩七の所の情報屋を利用していたのだ、アカネという情報屋はカンナに任せたきりであったが、未だ交流はあるのだろう。


「成る程、んで、南からのは無視して良いのか? 」


「それは、ウチの「雀蜂」が片付けるそうです、例の縄張り争い、あの進行も、同時に行うので」


 何であったか、みつばち達の組織と争う南町のやくざの事か。何やら雲行きの怪しい話になってきた、ホールデ商会の援軍に南町の裏社会が絡むのかと。


 何故であろう、どうにも都合の良い話ではないか。


 ホールデ商会ドコニスの性急で強引な仕掛け、地元のみならず、南町からも裏口屋の仕手が送られ。御用猫達が無事に、ことを終えた場合、結果的には西町の二大商会と、幾つかの裏口やくざが力を落とし。


 其処まで考えて、御用猫は思考を止めた。


 単なる憶測に過ぎないのだ。


 余りにも都合が良い話は、何かの偶然、間違いであることが殆どだと、彼は経験則から学んでいる。


 そうに違いないのだ。


「ちなみに、雀蜂ってなんだ? 」


 思考からの逃避に、御用猫は次の質問を投げかける。


「こいつらの事ですよ、暗殺専門の薄汚い輩です、頭のおかしい奴らの集まりで、私達「働き蜂」と違ってあんまり役にも立ちません」


「たつよ」


 色々と、と、黒雀が薄く笑う。


 いや、薄くは無い。


 顔だけは凄惨な、というか、底の深そうな不気味さを醸し出していたが。


 ひっきひっき、と、しゃっくりのような変わった笑い方が台無しにしている。


「はちにん、来てる、はちだけに」


 自ら、笑いのつぼに嵌ったのか、きっきっ、と笑い続ける。


 見て御覧なさい、どうですか、と、御用猫の顔を覗き込むみつばちに。


「悪かった、お前はまともで、役に立つ女だ」


 これでもかと言わんばかりに、薄い胸を逸らすみつばちに。


「比較的な」


 御用猫は付け加える事を忘れなかった。




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