死剣 人取り 12
「お前達二人の仕事は、ここの死守だ」
「ウス」
「良く分からんが、分かりました」
ぬるり、と敬礼するのは、ウォルレンとケインの二人。肘を曲げ、胸の前で水平に構えた右手の掌を相手に向けるのが、クロスロード式だ。
「マイヨハルト団長の許可も頂いている、事が終わるまでは、私の指揮下に入って貰うぞ」
「ウス」
「特別手当とかあるんすかね? 」
リリィアドーネが出立したあと、シファリエル王女が、応援として送り込んできたのだ。
御用猫からは、中々に腕が立つと聞いていたのだが、どうにも軽薄そうなこの二人を、彼女は好きになれずにいた。
「お前達、この仕事はクロスロード市民の、生命財産を守る為の戦いだ、騎士の本義使命といえる任務だ、そこの所を分かってるいるのか? 」
「ウス」
「まぁまぁ、肩の力を抜いて下さいよ、姐さん」
もういい、と、溜め息を吐いて、彼女は、二人を引き連れ、商館の周囲をぐるりと一周する。
ゆるく雑談しながら、ケインとウォルレンは付いてくる、一応はリリィアドーネの言う事に、従っている様だ。
クロスロードの四大騎士団は、それぞれが、主力騎士団、国境警備隊、クロスロード駐屯団に分かれている。国境警備隊は、小競り合いや盗賊団の討伐など、実戦も多く、その為、平民上がりの多い実力主義、それとは逆に、駐屯団は貴族の子弟が中心で、どちらかといえば、家格が重要視され、他の騎士や従士からも、お坊ちゃんの腰掛け、実の無いお飾り騎士団、と揶揄される事もある。
リリィアドーネの所属する、中央テンプル騎士団は、国中から集められた精鋭の中から、僅かに三百人のみを選抜したもので、家柄は問わぬが、剣力人品に優れた。
騎士の中の騎士。
とでも呼ぶべき者たちの集まりだった。
羨望と栄誉を一手に集め、他団の騎士に対しては、非常時の命令権を持つ。
リリィアドーネは、成人してからテンプル騎士団の承認審査に合格し、家柄の良さと剣の腕、なにより年が近いという理由で、王女の側仕えとして、近衛騎士団に配属された。
団長のアルタソマイダスに、憧れていた彼女は喜び、初めて会った時など、緊張で会話にもならなかった程だ。亡き父の師である、テンプル騎士団団長アドルパスにも目をかけられ、リリィアドーネは、二人から剣技と、騎士としての正義観念を叩き込まれたのだ。
今でも、その頃の心備えを忘れてはいない彼女にとって、ウォルレンとケインの態度は。
(どうにも、弛んでいる)
としか映らなかった。
今にしても、ただ散歩をしているという訳ではないのに、彼女の背後で雑談は続いている、よくもまぁ喋り続けられるものだ、がやがや、と、まるで三人で会話でもしているかの様だ。
敵から見て攻めやすい場、此方から守りやすい場、全て確認し、人員の配置、守りの方針を決めねばならない。
スキットの家族は、上町の邸宅に居る、彼の私兵と、麒麟パイフゥ騎士団が守りを固めているため、一先ずは安心だろう。
クロスロード西の郊外にあるこの商館は、大井屋の隊商の中継地であり、クロスロードへ出入りする資材の整理確認と、再配を行う場所でもある。
現在、アルグレイドン門下生と、田ノ上道場の一行が警護しているのだが。
田ノ上ヒョーエの作戦は、この商館へスキットが身を隠した、との情報を流し、やってきた襲撃者を捉える、という実に単純なものだった。
もしも餌に食い付くならば、それなりの数を集めてくるだろう。
いつ決行されるか分からぬ襲撃に、備え続けるのは、なかなかに辛いものだ、精神的に、骨の折れる仕事といえた。
アルグレイドン道場の門下生達は、最低限戦える希望者だけを集めて十三名。
師匠の仇討ちだと士気も高いが、リリィアドーネの見た限り、腕前の程は、上級者でサクラと同程度だろうか。
当然だとも言えるが、それ以上の者は既に仕官し、騎士として働いているのだ。
(手練れを揃えられると、少々辛いか)
こちらの戦力は、先の門下生と、田ノ上道場の三名に、リリィアドーネ達騎士が三名。
スキットや奉公人達は、数えぬ方が正解だろう。
やはり、厳しい。
二十四時間見張り続けるならば、交代要員まで考え、警備は半数で行う事になるだろう、襲撃の規模は分からぬが、十や二十という事はあるまい。
麒麟騎士団も、所縁のある商人とはいえ、これ以上兵はさけぬだろう、傭兵を雇うにも、この状況では身元がよほど確かな者しか使えまい。
「……せめて、猫が居れば」
「居るよ」
ふと零した呟きに返事を返され、リリィアドーネは飛び上がったのだった。




