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御用猫  作者: 露瀬
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死剣 人取り 9

「御用猫の先生は、もう少し、カンナ様を抱くべきです」


「ほう」


 いのやの二階、薄暗い橙色の灯りの下、みつばちと御用猫は、酒を酌み交わしていた。


 因みに、各部屋に灯る魔法の灯火は「明かり売り」と呼ばれる呪い師の見習い達が、小遣い稼ぎに街中を練り歩いて灯していくのだ。術師の力量にもよるが、二、三日ほど灯りは持つ。


 最近では、組織の術師から呪いの勉強をしているカンナが、いのやの明かりを灯している。


 もちろん、灯りにも、暖を取るにも薪をくべ、炭を焚いたりするのだが、人口の増加による燃料不足を補い、呪い師の生活の為にもなり、安全性も高い。


 クロスロードでは、様々な呪いを積極的に利用すべし、という、風潮があるのだ。


 その為、他国よりも術師の数が多く、質も高い。


 それがまた戦の強さにも繋がるのだが、今は平和な時代、こういった岡場所では、特に避妊の呪いが重宝され、黒い丸薬にして売られていた。


「今夜は、飲んでいないの」


 などという殺文句が、娼婦達の間で流行っているが、当然、裏では飲んでいる。


 男も女も、寝床での愛言を信じる者は、遊びに慣れぬ純粋者か、唯の阿呆なのだ。


 いのやでは、こちらも、カンナの呪いで賄い始めたのだが。彼女の作る丸薬は、チャムパグンに習ったという、性病予防の効果もあるらしく。近場の娼館で、買い取りたいとの話もあった程だ。


 もっとも、原料となる高価な薬草等は、御用猫が、いのやの為に、草エルフから仕入れてきたものであり、採算度外視の高価なものになっていた為、売り物にはならなかったのだが。


「むうー、むうー」


 当のカンナは、肌襦袢姿に剥かれたうえ、両手を縛り上げられ、目隠し猿轡という、あられもない格好で転がされていた。


 先ほどの、みつばちの言葉に、何やら不穏な気配を感じたのだろうか。


 身体を捻り、何かを訴えているようだ。


「そうは言ってもなぁ、俺も忙しいし」


 カンナと、致すのは、体力的にも辛いし、と御用猫は心のうちで付け加える。


「良いですか? カンナ様は御存知の通り性欲が強いのです」


 ひとつの盃を使いまわし、交互に酒を飲んでゆく。


「むぅー! 」


 いつの間にか、髪を下ろし、ぴっちり、とした忍び装束から、浴衣に着替えていた、みつばちは。ぺろり、と、盃の縁を舐めてから、御用猫に返盃をする。


 無意識なのだろうが、中々に艶のある仕草だ。


 胸元と腰元を、随分と乱暴に着付けている、大きく開いた裾からは、思いの外白い肌が溢れていた。


「最近では、御用猫の先生がご無沙汰に過ぎるので、日に二度は、自らを慰める有り様だとの報告もあるのですよ」


「むぅっ!? むぅうーっ!! 」


 ばたばたと、暴れ始めたカンナの腰巻を抜き取ると、御用猫は慣れた手つきで、彼女の足を拘束する。暴れる巨漢も、数秒で縛り上げる御用猫の捕縛術だが、元々は、田ノ上老に教わった。


 娼館での縛り遊び。


 が、基礎となっていたのだ。


 御年五十五歳、まだまだ現役なのである。


 御用猫は、帯を解いたせいで、襦袢の下から、色々と見えてしまっている、カンナの腹に指を這わせる。


 びくり、と、腰を浮かせた彼女は、息をつくと、大人しくなった。


「なので、今日は可愛がって下さい、たっぷりと」


「待て、なんでお前が脱ぐ」


 するする、と、浴衣をはだけさせ、肩を出そうとしたみつばちの手を、がっと、握り、盃を返す。


「え? 二人まとめて相手したいと、いつもいつも、言っていたじゃないですか」


 相変わらず、表情も感情も出さぬ棒読みのまま、みつばちは首を傾げる。


「知らないのか、野良猫は、後腐れの無い女しか抱かないんだよ」


「何でですか、ちょっとくらい良いじゃ無いですか、房中術とか試してみたいんですよ」


 腰の辺りにしがみついて、みつばちが揺さぶってくる。


 ついと、御用猫は興味を持った。


「……房中術か、くノ一の嗜みなんだっけ? ちょいと気になるな」


「でしょうとも」


 みつばちは、肌を露わにすると、しな、を作ってみせる。


 どこか、というか、非常に不自然な動きだった。


 少なくとも、色気は無い。


「……お前んとこの里は、男の誘い方を教えてくれなかったのか? 」


「いえ、何となくいやらしそうだったので、付き忍を何人かしばき倒したら、免除されました」


 御用猫は、今度こそ、みつばちから興味を失い、カンナに覆いかぶさった。


 すぐに艶かしい吐息を漏らし始めた、カンナを見ながら。


 みつばちは、手酌でひとり、飲み始めたのだった。




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