表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御用猫  作者: 露瀬
41/150

死剣 人取り 6

「……なんで、人間には予知能力がないんだろうな、おかしいだろ、見せろよ、困るだろ」


 御用猫は神を呪った。


 戻りたい、あの頃に。


「森エルフの長老あたりは、未来が視えるらしいですよ」


「お前はちょっと過去に飛んでくれないかなぁ」


 幼い頃から教育し直せば、多少は人間らしく。


 いや、と、御用猫はかぶりを振る。


 それは、余りにも不遜な考えではないか、と。


 それに、そもそもが。


 この女は、生粋の雌悍馬、飼い慣らす事は不可能なのだろう、なんの因果か忍の里に生を受け、厳しい調教の末に、さらに狂って、ねじ曲がったのだ。


 そうに違いない。


 人の手には余る怪物なのだ。


「あの」


 申し訳なさそうに袖を引くカンナの声で、御用猫は現実へと帰還した。


 俯いていじける少女の姿からは、昨今、クロスロードの裏社会で、噂になり始めたという、謎の女首領、の端切れすら感じられない。


 腕力、頭脳、財力、権力、能力も地盤も、彼女には何も無かった。


 一つだけ、他者より優れていたのは。


「人を見る目」


 その者が、信ずるに値するのか、能力があるのか、成功するか。


 そういった、千里眼じみた、相手を見通す何かを、彼女は備えていたのだ。


 生まれつきか、過去の体験から身に付けたものか。


 当初は、単に、御用猫から預けられた資金を増やす為だった。


 先代の放蕩で身代の傾いた、古い廻船問屋を身請けし、そこでくすぶっていた、有能な番頭に資金を預け、代表に据える。


 あっという間に店は立て直された。


 御用猫の旧知である、女の情報屋連中を使い、他店を出し抜き、ぐいぐいと、縄張りを広げる。


 もちろん、競合相手からの妨害を受けた、しかし、地場の任侠やくざを頼ろうにも、すでに利権の繋がりは固く、逆に法外な地代を請求されたのだ。


 悩んだ末にカンナが目をつけたのが、志能便の一族だった。北陵戦役以来、大きな戦のないクロスロードで、主力御庭番衆から外された「蜂」と呼ばれる忍者衆。


 隠れ里を訪ねさせ、交渉の末、これを雇い入れると、南町の大やくざ「男爵ヘイロン」の一味と、戦争じみた闘争を行い、裏口組合を仲裁に、手打ちをしたばかりであった。


「もっとも、カンナ様はもう殆ど関与してませんので、今はウチの「女王蜂」が影武者として、組織を管理運営してるんですよ」


 面白くなさそうに、みつばちが話しを纏める。


 手打ちも作戦のうち、最初に力を見せて、今は、裏から徐々に支配力を増す途中なのだと。



 御用猫は、今聞いた事を、総て忘れる事にした。


 何やら最近、裏社会が騒がしかったのはこのせいか、と納得は出来たが、とりあえず忘れるのだ。


 まずは食事をして、それからカンナを抱こう、ちょっとしたお仕置きがてら、猿轡でも噛ませば、大人しくなって一石二鳥というものだ。


「そうだな、そうしよう」


「あの? 先生? 」


 請われるままに話はしたが、今ひとつ、自身の敬愛する、御用猫の表情は優れない。


 どうしたものかと、狼狽えるばかりのカンナを放置する、この際、多少の仕返しは許されるはずだ。


 先程から、さりげなく、膳の物を摘み食いする、みつばちの手に爪楊枝を刺しながら御用猫は。


(記憶を消す呪いってあったかなぁ)


 などと考えていたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ