死剣 人取り 5
人生、何があるのか。
神ならぬ人の身なれば、予想も出来ぬ事だろう。
なればこそ、面白い。
などと、言う者も居るだろうが、御用猫はそうは思わない。面倒事など、無い方が良いに決まっているのだ。物事が総て見通せるならば、己の行いに悔恨の情も残らぬだろう。
そこに成長があるのか、と反論されても。後悔の無い人生の方が、良いに決まっているではないか。
所詮、人の生き死に、湖面の泡の如し。
泡の大小に何の意味がある。
野良猫は、そう思うのだ。
「まぁ、過ぎた事は仕方ない、好きにやらせたのは俺だしな」
いのやの二階、廊下の突き当たりの、薄暗い部屋で、胡座をかく御用猫。その傍で、倉持カンナは、捨てられた子犬のように小さく纏まっている。
みつばちと名乗る「くノ一」は、何処吹く風といった態で、すーすー、と、音の出ぬ口笛を吹き鳴らしていた。
相変わらず、癇に障る女だ。
「……あの、どうすれば」
カンナは、おそるおそる、消え入る様な声で、尋ねてくる。
正直なところ、すでに、御用猫に怒りは無かった。
カンナの好きにさせていたのは自分なのだし、経過の報告も求めず、打ち合わせすらしなかったのだ。
これで彼女を責めるのは、流石に。
(すじが、通らぬ)
のである。
御用猫が腹を立てていたのは、あくまで面倒臭いくノ一に対してであり、そんな女を寄越した事に文句を言ってしまえば、すっきりとしたものだ。
むしろ、少しくらい褒めてやっても良いだろう。長いこと閉じ籠っていた、ただの少女が、よくもまあ、あれやこれやと手配したものだ。
「とりあえず、事の経緯だな、折角だし、最初から説明してくれ」
「……はいぃ」
しおしお、と、今も萎んでいくような彼女の頭を軽く撫で、御用猫は笑顔を作る。
「別に、責めてる訳じゃないさ……そうだな、これは武勇伝だ、カンナがどんな活躍をしてたのか聞きたくなったのさ、ゆっくりで良いから、話してごらん」
撫でられる方向に合わせて、頭を振る彼女は、ようやく安心したのか、ぽつりぽつりと、話し始める。
確かに、御用猫には、未来など見えない。
見えれば良いとは思いもするが。
見えぬ事自体に、不満を持った事など、一度もない。
所詮は野良猫、流れ猫。
一度きりの人生なれば。
好きに流され生きてゆく。
ただ、それだけの事なのだ。




