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御用猫  作者: 露瀬
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桜花斉唱 13

 御用猫はリリィアドーネを連れ、貴族の住まう王都の中心街、通称「上町うわまち」を訪れていた、呼び出されたのは御用猫一人なのだが、彼女を連れて行けば色々と顔が利くので、城壁や屋敷門の出入り手続きが楽になるだろうと、彼にはそういった下心がある、そもそも手紙の送り主も、おそらくはリリィアドーネと相識の間柄だろう、何も問題は無いはずである。


「……それで、ここが指定された屋敷という訳か」


「はい」


 未だ、ぴりぴりとした空気を発しながら、腕を組んだリリィアドーネが門を見上げる、殺気にも近いその怒気に門番も近寄りがたいのだろうか、先ほどから彼らは、こちらの様子を伺うばかりである。


「そろそろ機嫌直せよ、可愛い顔が台無しだろう」


「……最近、思うのだが、そういった時のお前の言葉は、なにか軽いような気がする」


 むぅ、と御用猫は唸る。


 なんたる事だろうか、あの純真無垢で単純明快であったリリィアドーネが、言葉の裏を読み始めていたのだ、こうして、女は段々と手強くなってゆくのだろうか、ならば今の内に手を打っておかねばなるまいと彼は言葉を続ける。


「なぁリリィ、ちょっとしたおふざけってやつはな、男の照れ隠し、愛情の裏返しというものだ、良い女というのは、それを分かってなお、手の平で転がすくらいの器量がないといけないよ」


 ぴくり、と体を震わせ、彼女はゆっくりと振り向いた。


「……そういうものなのか?」


 もちろん、と御用猫は頷く。


「そもそも、俺はお前に手を出したりしない、あぁ勘違いするなよ、リリィはとても魅力的な女性だが、だからといって、軽々と閨に引き込むような軽薄な真似はしないのさ」


 それは、と御用猫は声を落とし、リリィアドーネの髪をかき上げてから耳元でそっと囁いた。


「……お前を、大切に想っているからだ」


 彼女は林檎の様に熟れると下を向いた、これで暫くは大人しくなるだろうか。御用猫は門番に手紙を渡すと、家事使用人に案内されて中庭のテラスに通される、ここも本邸ではないのだろうが、それにしても随分と立派な造りだった、調度品や庭の造成にいたるまで、素人の目で見ても分かりやすく華美で豪奢であるのだ、おそらくは客を招く為だけの屋敷なのだろう。


 御用猫はなにしろ人相がよろしくない、もしも彼一人であったなら、例え客人として周知されていたとしても、流石に警戒されるはずなのである、ここまですんなりと通されたのはリリィアドーネを同行させていたからに他ならないだろう、その点は彼女に感謝していたし、それについての礼も述べていたのだが、しかし当の本人は、先ほどから謝意の言葉も。


(耳に入らぬ)


 様子であったのだ。


 結局、彼女が目を覚ましたのは、招待主をテラスに見とめてからであった。


「お久しぶりです、リリィアドーネ先輩、そして初めまして御用猫様、わたくしがフィオーレ カイメンでございます」


 一通りの挨拶を優雅な動きにて済ませる彼女は、そろそろと咲き始めた、大輪のつるバラのアーチが囲う鋳鉄製のテーブルを二人に薦める。


「今日はお天気も良いので、失礼かとも思いましたが、お外でお話しようかと」


 フィオーレは、その名の通り花の様な少女であった。


 サクラに負けぬ美貌ではあるが、やや垂れた目尻と柔らかそうな灰金髪が、さらに淑やかな雰囲気を醸し出しているだろう、若葉の緑のなかにあって、純白のドレスが、周囲に咲く中心に赤味のさす薔薇の花弁が、総て彼女を引き立てるように見事な調和をみせていた。


「とりあえず、結論から聞かせてくれ、貴族的な言い回しは苦手なんだ」


「こら、フィオーレ様に失礼な事は……」


 フィオーレは、それこそ花の様に笑うと、その嫋やかな手を振るのだ、いや、手袋を取れば、その下には硬くなった剣だこが見てとれるのではあろうが。


「構いませんよ、実はわたくしも、回りくどいというか、婉曲な言い回しは、余り好きではありません」


 畏まった話し方もね、とフィオーレは立てた指を唇にあてる。


「けれど、これは私の我儘、先にお茶を頂きましょう? 今日は自信がありますの」


 そう言って、自ら紅茶を淹れ始めるフィオーレを見て。


 何故かリリィアドーネが、敗北感に塗れたような顔で眉根を寄せていた。



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