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御用猫  作者: 露瀬
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桜花斉唱 2

 結論から言えば、御用猫は引き受けた。


 なんたる懦弱、とそしるなかれ、リリィアドーネは、それ程に美しい少女だったのだ、先日の事件を経て、色々と心境にも変化があったのだろうが、それらは全て良い方向に作用したのだろう。凛々しさと清楚さ、しなやかな強さは以前のままに、内面からのぞく艶やかさ、嫋やかさ、そして儚げな弱さが同居する彼女は、今まで否定はせずとも疎ましく思っていた、女としての自分を認め始めているのか。


 いかな野良猫御用猫、とはいえど、濡れたような目で、頼れる者がお前しか居ないのだ、などと言われてしまえば、多少の調子にも乗ろう。


 もっとも、御用猫がこの頼み事を引き受けた最大の理由は、単純に、面倒ではなかったからである、もっと正確に言えば、他人に押し付ける事の出来る事案であったからなのだ。リリィアドーネからの依頼については、なぜそうする必要があったのかについては、あまり詳しい理由は聞きたくもなかったのだが、要は第二のアルタソマイダスを仕立て上げたい、と。


 本来ならば、リリィアドーネにその役が与えられたのかも知れないが、剣技指南役であった父親の、世間的には不名誉な死が、なにかしらの影響を与えたのだろう。そこで、貴族学校から成績優秀な女子を抜擢し、剣姫の威名に配慮して、一つ年嵩の十四歳でテンプル騎士団に入団させるという次第になったそうである。


 奇しくも、今年十三歳になったばかりの才に満ちた少女が居た。大人顔負けの腕前で、見目麗しく、何より家柄が良い、アルタソマイダスの再来と祭り上げれば、国威の発揚として申し分ないだろう。


 だだ一つ、問題なのは、その才女が二人、存在するのだ。


 一人は、青ドラゴン騎士団の東町駐屯団団長マイヨハルト子爵の長女、サクラ マイヨハルト、そしてもう一人が、内務大臣カエッサの娘で、末席とはいえ継承権を持つ王族、フィオーレ カイメン。


 剣技は互角、家格はフィオーレが上ではあるが、将来的に王族を危険な任務や手合いに出すのはどうかと案じる声も多いらしく、意見が二つに割れたというのだ。


「情け無い話ではあるのだが」


 と、リリィアドーネは眉を寄せる、確かに生真面目な彼女のこと、武名威名を捏造するなどと、そのように姑息なたくらみを持ちかけられれば、激怒して話を持ち込んだ相手に鉄拳でもねじ込みそうなものではあるだろう。御用猫が笑って、そう伝えてみると、一瞬だけ、むっとした表情を見せたのだが、直ぐに肩を落とすと、彼女は深く溜息をついた。


「後進の育成にも繋がるだろうと、悪い話ばかりでもあるまいと、他ならぬアルタソマイダス様自身に請われては……」


 断りきれぬ、と。


「一応、鉄拳は放ってみたのだが、見事に躱されてしまってな」


「やったのかよ! 」


 なにやら過剰に驚いた様子の御用猫に、冗談だ、と笑顔を返し、くつくつ笑うリリィアドーネを見やると、サクラは不思議そうに小首をかしげて声をかける。


「リリアドネ様、お二人はご友人とお伺いしていたのですが、私の勘違いでなければ、なにかもっと深い仲のように思えるのですが」


 突然、横から刺さった言葉に、リリィアドーネは、ぴしり、と固まった。


「久しぶりにお会いして、ずいぶん雰囲気が柔らかくなったと思っていましたが、ひょっとして殿方とお付き合いをしているからでしょうか」


 そういった話は良く耳にします、と腕を組み、うんうんと、サクラは何度も頷く。


「ですが、このようにやくざな男との交際は、リリアドネ様には似つかわしくありません、なんだか頼りなさそうですし、何より身分が違います」


 びっ、と御用猫に指を向けてサクラは続ける、どうにも、しばらくは止まりそうに無い勢いだろうか。


「あなた、まさか、リリアドネ様に、不埒な真似はしていないでしょうね? 婚前こぅしょもごっ」


 突然復帰したリリィアドーネは、サクラの頬を、がっしと掴み、その言葉を遮ると、羞恥と焦りのままに叫ぶのだった。


「いい加減にしろ! 私は、まだ処女だ! 」


 店内に響き渡る彼女の声に、数瞬遅れて。


 男性客からの、割れんばかりの喝采と、女性陣からの、がんばってね、だの、焦ること無いわよ、だの、先生はやくおかわりください、だのの声が飛び交う中。


 リリィアドーネは、生まれて始めて、死にたい、と考えた。


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