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御用猫  作者: 露瀬
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桜花斉唱 1

 クロスロードは、比較的女性騎士が多い事で知られている。理由は幾つかあるのだが、まず貴人警護の任務については、異性であれ同性であれ、女性騎士がなにかと便利であるという事、現国王が男子に恵まれず、尚且つ長らく病に伏せており、女性君主の珍しくないクロスロードにおいて、次代は女王の即位戴冠が確実視されている事。


 そして一番の理由が、クロスロード最強の騎士が一人と、その名も高き「剣姫」アルタソマイダス、その人の存在であった。十三歳で、特例としてテンプル騎士承認試験を受け、その試合にて試験官を木剣で突き殺した逸話など、国中で知らぬ者はないだろう、以来二十年、国内、国外を問わず手合いにおいて負け知らずを誇り、女流騎士としては大陸最強との呼び声も高い。


 リリィアドーネをはじめ、彼女に憧れて騎士を目指した女性は数知れず。


「クロスロードで、男は仕官をせぬが良い、家の外でも尻に敷かれる」


 などと笑い話になる程だ。


 なので、この国において、女性の騎士は珍しくもない。


 つまり、御用猫の前に女性騎士が座っていたからとて、さして驚く事もない。


 たとえそれが、二人であっても。

 

 片方が、顔見知りであったとしてもだ。


「……先週、お前、なんて言ってたっけ? 」


 マルティエが売れ残りの酒で作った、浅蜊の酒蒸しを飲み込むと、御用猫は呆れたようにそう言った。


「いや、これには、深い訳があってだな……」


 流石に気不味いものか、リリィアドーネは、もじもじと肩をゆするのだ、しかしこのやり取りは、もう三度目になるだろうか、些かも進まぬ会話に御用猫も疲れを感じはじめていた。


 先日の別れの際に、折角だからとそのままこの店で、ささやかではあるが送り出し会を開いていたのだが、その際には慣れぬ酒精に酔ったリリィアドーネが、瞳を潤ませて御用猫にしなだれかかる、といった一幕もあったものだ。御用猫はアサリの身を殻から剥がすと、テーブルの上にだらしなく手を伸ばし、ぴよぴよと口を開けて待ち構えるチャムパグンの口に放り込む、先ほどから、二対一の割合で、彼女の口の方に多く入っている気がするのだ。



「失礼ですが」


 きりっ、とした調子で、リリィアドーネの横に座る少女が声をあげた。強い口調ではあるが、やや声が幼いか、見た所成人前、まだ十三、四歳くらいであろうか、灰に近い黒い瞳、肩まである長い黒髪を、つむじのあたりで纏め、薄い赤色の矢絣やがすりに臙脂色の袴、そして今は外しているが、肩からたすきに下げたベルトには、見るからに派手な拵えの打刀を取り付けていた。


「リリアドネ様はグラムハスル家の家長であり、モンテルローザ侯爵の姪ごであらせられます、余りに気安い口の利き方、いくらご友人であろうと、看過できるものではありません」


「……ずっと、その長台詞を用意して待ってたのか? 」


「なぁ!? 」


 素っ頓狂な声をあげて立ち上がる少女を、リリィアドーネは袖を掴んで座らせた。


「大人しくしていろ! あと、余計な事を口にするな……すまない、彼女は私の学生時代の後輩なのだが、少し、気の強く思い込みの激しいところがあってだな」


 御用猫はチャムパグンと顔を見合わせると、小さく頷いた。


(お前が言うな)


 とはいえ、普段はリリィアドーネも、ちゃんとお姉さんしているのだな、と御用猫は、どこかほっこりとした心持ちで、アサリを追加注文する。


 三人前ほど。


 リリィお姉さんが連れてきた少女は、サクラという名だった。しかし、と御用猫は考える、とりあえず、しばらくは自堕落な生活をすると心に決めたのだ、どんな訳ありかは知らないが、面倒ごとは御免蒙りたい。


 この話は聞かずに帰ろう。


 いのやに行って、今夜こそ二人をいっぺんに床に入れよう。


 御用猫の決意は固いのだ。



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