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御用猫  作者: 露瀬
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外剣 飛水鳥 10

 事実を指摘されて腹を立てるのは、そこに、負い目引け目があるからだろう。御用猫が殺し屋扱いに怒りを覚えるのも、心の何処かしらでは、理解しているからなのだ。


 どれほどの理屈と自尊心で線を引いたとて、生きる為だと人を殺めるならば、賞金稼ぎと闇討ち屋に違いなど無いだろう、所詮は同類、同族嫌悪と、理解しているからなのだ。


 御用猫は目の前の男から、それに近いものを感じた。これは何か、触れられたくない物があるのか、それは負い目か、はたまた引け目か。


(今、すこし、様子がおかしかった)


 あれほどに饒舌であり、軽薄であったトベラルロなのだが、御用猫の安い挑発に対する反応が、まるで無いのだ、それどころか僅かにではあるが表情を歪め、不快感すら見てとれるだろう。


(賞金額に今更思うところも、あるまい…ならば)


 注意深く相手を観察していた臆病な野良猫だからこそ、その違和感に、獲物の変化に気付いたのだ。


「おや? お坊ちゃんは稽古が嫌いだったか、稽古が辛くて「ずる」を決め込んだくちかな? 」


「……興が醒めるなぁ、そういった口撃はぁ」


 トベラルロは動かない、相変わらず僅かに腰を落とし、両のかいなを交差させている、これは白鳥の剣が後の先を取る、まさに必勝の構えだ、それは面白くない。


 なので御用猫は思った、向こうから動いて貰うことにしよう、と。


 身も、心も。


 彼はトベラルロにも負けぬほど、ひどくいやらしい笑顔を瞬時に張り付ける、こういったものは大仰なほどが良いのだ、もしも卑しい野良猫に得意技と呼べるものがあるとするならば、これしかないだろう。


「そうか、なるほどなるほど……ならば、頑張って、頑張って、頑張って修行したのに、それでも誰も認めてくれなかった、だから、そんな物に頼った……」


「ッ!?黙れ!! 」


 傷を見つけた。

 

「まあまあ、そう熱くなるなよ、立つ鳥跡を濁さず、抜き打つ前には心納めて……お師匠様も言ってただろう? 」


 たとえ僅かであろうとも、そこに弱みがあるならば爪を立て、食らい付き、抉り、血を流させる。


「短気なお前に居合術は向かぬ、まだ若い内に……」


「殺すぞ!! 」


 野良猫流の遣り方は。


「お師匠様も殺したのか? 」


「……殺す」


 ひどく卑しく、小賢しい。


 トベラルロは、怒りで目の前が真っ白になるかとさえ思った、この男は、目の前の男は、今すぐに殺すと決意した。


 間合いは十分、一足一刀。


 此方から仕掛けるのは久方ぶりではあるが、やる事は変わらないだろう、二本の剣をただ打ち込むのみなのだ、もしも相手の攻撃があるならば、初の剣にて打ち落し、二の剣にて止めを刺す。何も変わらないのだ、これは普段通り、もう何度もこなした手順である、間違いは無いのだ、卑しい野良猫ができる事など、せいぜいが癖の悪い手つきで脇差を投げつける事くらいだろう。


 殺す、今殺す、疾く殺す。


 トベラルロ キットサイは、それのみの塊となって。


 どっぷりと血で染まった水面から、死出の旅路へ飛び立った。




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