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御用猫  作者: 露瀬
125/150

獣剣 月の牙 11

 尻餅をついたままの状態で、御用猫は、ぼんやりと、それを眺めていた。


 意識には、もやもや、と霧がかかったようで、立ち上がる事もままならない。


 脈動に合わせた激痛と、込み上げる嘔吐感が、御用猫に、早く、楽になれ、と、交互に囁いてくるのだが。


(まだだ、まだ、手放すな)


 奥歯を噛み締め、緩慢な動作で、震えながら膝を立てる。


 御用猫が、未だ生を繋いでいるのは、突然の闖入者のお陰であった。彼にとっては救いの神、密猟者達には、招かれざる客。


 いや、本来ならば歓迎すべき獲物であるのだが。


 絶体絶命であった御用猫を、救うかのように現れたのは、体高百五十センチはあろう、巨躯の狼。


 月狼、である。


 銀色にも見える、白灰の混じった体毛、耳の間から首筋まで続く白く長い鬣、脚は太く、牙は鋭い。


 今も、悲鳴をあげる密猟者の一人に喰らい付き、左右に激しく揺さぶっている。


 ブブロスの放った矢を、その男を盾にして受け止めたところを見るに、かなり知能が高そうだ。


 密猟者達は、瞬く間に半壊し、三々五々に逃げ散ってゆく。


 ただ一人、弓を構えて向かい合うブブロスに、赤く塗れた牙を見せ、挑みかかる様な姿勢を取った月狼であったが、突如として顔を上げると、耳と鼻をひくつかせ、一度、こちらに視線を送った後、陣風の如き速さで、森の奥に消えていった。


(あと、ひとり)


 月狼の事は、今考える余裕もない、ぐらぐらと、揺らめく視界の中で、御用猫は刀を地面に突き立て、身体を支える。片腕ではあるが、ブブロスは強敵だ、この状態で、距離を取られれば、勝ち目は無い。


 やるしかないのだ、御用猫はもう限界だと、ブブロスは思い込んでいるだろう、三歩、いや五歩ならいける、一直線に。


(突き殺す)


 目の奥の光を悟られぬように、ふらふらと、少しづつ距離を詰め。


「……死に際の獣に、近付く狩人がいると思うか? 若僧」


 ぱっ、と、飛び退ったブブロスであったが、その身体は、突如として背後に現れた、大きな蜘蛛の巣に絡め取られる。


「なに、何だ!?これは「銀蜘蛛」の呪い? 」


 暴れる程に絡み付く蜘蛛の糸に、ブブロスは完全に拘束されてしまった。



「……やれやれ、相変わらず、生き急いでいるねぇ、キミは」


 背後から聴こえた覚えのある声に、緊張の糸を切られた御用猫は。


 ついに、その意識を手放したのだった。



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