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御用猫  作者: 露瀬
123/150

獣剣 月の牙 9

 それを、人と呼んでも良いものか。


「熊」のネップは、御用猫の見立てで、身長三百二十センチ、体重三百キロはありそうだ。これ程の巨人を目測した事など無いので、彼も正確さには自信が持てないのだが。


 御用猫にも、初見で受けた衝撃がある、多少大袈裟な数字かもしれぬが、明らかに、人としての範疇を超えているだろう。


(あんなもん、まともに動けるはずが無い、山エルフとの混血か)


 ドワーフとも呼ばれる、山岳地帯に住まうエルフは、体格は同じでも、人間種を遥かに超える筋力と頑健さを誇る種族だ。すっぽりと被った、耳当て付きの皮帽子のせいで、尖った耳かは判別付かないが、だらりと下げた長い腕は、山エルフの特徴である。まず、間違いは無いだろう。


 飛び出した下顎と、厳つい顔の割に小さな目をしたこの巨人は、背中から、やけに柄の太い、両刃の戦斧を取り出すと、玩具でも弄ぶように、くるくると、手の中で回してみせる。


「ブブロス、こりゃあ、どうなってんじゃ、説明せいよ、そこの黒い傷顔はだれじゃ、殺すんか」


 少し、訛りのある話し方だ、片言だろうな、との御用猫の期待は裏切られたのだが。


(そんな予想が立てられるとは、俺も、なかなかに余裕があるではないか)


 苦笑する御用猫をちらりと見たブブロスは、革手袋で鼻血を拭う。


「エルフの雇った傭兵だろう、いや、賞金稼ぎか、お前さんを探していたぞ」


「おん? なら殺すべ」


 この様子、たまたま出会った訳でもあるまい、月狼を狙うネップの一味とブブロスは、間違いなく、協力関係にありそうだ。


 のしのし、と、ネップは無造作に近づいてくる。会話で、もう少し時間を稼ぎたかったのだが、あまり話に乗ってきそうなタイプでは無いだろう。


 とはいえ、逃げた二人を追われるのは面白く無い。御用猫は真横に走りながら、挑発の為の言葉を探す。


「俺が探してたのは、熊の子なんだよ、オーガの落し子は、家に帰ってくんないかなぁ! 」


「あー? オーガって何だ? 」


「馬鹿も帰ってくんないかなぁ! 」


(くそう、唯の馬鹿だったか、やり辛い)


 心中で悪態をついた御用猫は、大きめの樹を盾にしながら移動する、ネップは後回しだ、周りの手下から減らして行かないと。


 大方の予想はついている、慌てた風を装いながら、さり気なく、目的地に辿り着くと、振り向きざまに脇差しを投げ付けた。


 短い悲鳴と共に、年若いエルフが倒れる。御用猫の側を通過した矢は、近くの樹幹に突き刺さる。


「ロレホドッ!」


 今のはブブロスの声か。


 喉元を突かれ、息絶えたエルフから脇差しを回収すると、もう一度、敵の配置に目を配る。


 呪いで伏せていたエルフは倒した、後は見える範囲に七人。


 御用猫は振り向くと、ウィンドビット達とは別方向に走り出す、野良猫の自慢は逃げ足だ、足場の悪い森の中ならば、少なくともネップは付いてこれまい。


 そう思った矢先、足を取られ、転倒する。


(なんっ? 鋼線? )


 確認する間は無い、転がりながら、続け様に撃ち込まれる矢を躱す。


 ブブロスだ、弓の弦を口で引き、器用にも連射してくる。最初の投げ罠も、この弓で打ち出したものか。


 流石に熟練の狩人である、この状況で、獲物を追い詰める術に長けている。野良猫には、些か相性の悪い手合いだ。


 起き上がる勢いを利用して、足の速そうな、軽装の男を一人斬り倒し。振り返った御用猫の目に、勢いをつけて戦斧を振りかぶる、ネップの姿が映し出された。


(畜生、この馬鹿、真っ直ぐきやがって、少しは警戒しろよ! )


 愚直にも、最短距離を突き進んできたのだろう、しかし、この大男には、有効な戦術だと言えなくも無い。


 大振りな攻撃だ、一歩退がって躱し、踏み込んで首を刎ねる。だが、あの太い首を取るには、全力で撃ち込まねば。


 仕留め損なえば、致命的な反撃を受けるだろう。


 ぐっ、と身構えた御用猫の左側から、遅いかかる大斧であったのだが。


「伸びっ!?」


 それは、一瞬の事であった、やけに太いと思っていた斧の柄が、振り回した遠心力で、二段ほど伸びる。


 後ろに下がる御用猫を確実にとらえた一振りは。


 ごうっ、と風切り音とも、衝撃音とも付かない、うなりを耳に残し。


 御用猫の身体を、まるで紙人形の様に、高く舞わせたのだ。



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