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御用猫  作者: 露瀬
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獣剣 月の牙 6

 猟師小屋の片隅で、膝を抱えたまま、ウィンドビットは啜り泣く。


「御免なさい、御免なさいオーフェン……私は、汚されてしまいました……」


「いい加減にしろよ、生娘じゃあるまいに、飯食ったら移動するからな」


 鹿肉の燻製を齧りながら、御用猫は、いつまでも泣き止まぬ、エルフ騎士に声をかける。


 縛り上げたウィンドビットは最初、浮き板は他人が触れぬように、呪いで鍵をかけてある、と、余裕を見せていたのだが、その鍵は、チャムパグンが、ものの数分で解呪してしまったのだ。


 絶望の表情を浮かべたウィンドビットに、ねっとりと言葉責めを行いながら、御用猫達は鎧を剥がし、その裏側までたっぷりと確認した後、チャムパグンに着せて遊んだりしていた。


 流石はエルフの秘宝だろうか「浮き板」は、幾つもの銀板が組み合わさり、数センチほど体表から浮いている。身体の寸法に合わせて、自動的に位置を調整し、纏わり付いてくるのだ。


「山エルフや草エルフと同じにしないで下さい! 森エルフの女性は、生涯、一人にしか身体を許す事は無いのです! 」


 ウィンドビットは、自らの肩を抱いて、御用猫を睨みつけるのだが、その嫌らしい人間は、どこか憂いを帯びた瞳で、遠くを見つめていた。


(そう言えば、海エルフもそんな事を言っていたな、オランは落ち着いただろうか)


 オランでの、新領主就任を祝う祭りに、御用猫は参加していない。ティーナの事もあり、そんな気分では無かったのだ。


 みつばちの話では、今の所上手くいっているようで、海エルフを正室として娶るというハーパスの無理も、あっさりとシャルロッテ王女が承認してしまった為、好意的に迎え入れられているようだ。


 もっとも、ドレスを身に纏ったラーナの美しさを目の当たりにすれば、ここで否定するよりも、この前例を利用して、エルフの側室を迎えようとする男の方が多いだろう。


 ラーナは、ハーパスの妻兼、トライデントの族長を務め、ハーパスの死をもって、氏族へと完全に回帰し、以後はオランの領地経営に口は出せないと規定された。


 寿命の違う種族である為に、こういった決まり事も必要であったのだが、シャルロッテ王女が、オランを訪れた頃には、その辺りの手配段取りも、全て付けられていたのだ。


 これは、総てバステマ公の仕業だと言うのだ、確かサクラの父親、マイヨハルトの友人であったか、最近、よく聞く名前だが、みつばちが随分と褒めていたので、有能な男なのだろう。


 ただ、御用猫が王女を避けるようにクロスロードへ戻った為に、後日、アルタソマイダスから苦情が寄せられたのだが、そんなものは、彼の知ったことでは無いのだ。



「人の話を聞いているのですか? あと、そろそろ苦しそうなので、彼女にソーセージを詰めるのをやめた方が……」


 その声に、御用猫は意識を戻し、ふとチャムパグンを見ると、彼女の口の中に大量の乾燥ソーセージが差し込まれていた。どうやら、半ば無意識に、詰め込み続けていたようだ。


 一瞬だけ心配したのだが、もっもっ、と、少しずつ咀嚼している様子だ。


 なかなかに幸せそうな顔をしているので、このままでも良いだろう。御用猫はウィンドビットに意識を向け直す。


「んで、なんだっけ? エルフの貞操観念は良く分からんが、人間も似たようなもんだぞ……人によるが」


「いえ、それはもう良いのですが……」


 改めて鎧を着込み、椅子に座るウィンドビットは、何やら思い詰めた顔でチャムパグンの方を見やると。


「あの、彼女は本当に森エルフなのでしょうか? 私は聞いた事ありませんが、耳の長い草エルフも、世の中にはいるのかも……」


 ああ、と御用猫は納得する。


「大きな声じゃ言えないが、こいつには悪魔が取り憑いている、聞いた事無いか? 地の底に住まう六人の魔王……チャムはその眷属なんだ、今は封印が……」


 言い切る前に、チャムパグンから抗議の唸り声が聞こえてきた。上半身を捻り、御用猫の鼻を、口から飛び出したソーセージの束で突ついてくる。


 何を言ってるのかは分からないが、おそらく、そんな小物と一緒にするな、とかであろう。


 御用猫がソーセージの尻にかぶりつき、半分程を噛みちぎると、抗議の声が更に大きくなる。


 黙ってその様子を眺めていたウィンドビットであるのだが。



(事が終わったら、森を閉ざすべきでしょうか……オーフェンに相談してみないと)



 百年以上に渡る、人とエルフの友好が、今、終わりを迎えようとしていたのだ。



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