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御用猫  作者: 露瀬
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恋模様 14

「ゴヨウさん、私は、正直、男性というものが信用出来なくなりそうです、不義理です、不誠実です、不潔です、いやらしい」


「そうね、その通りだと思いますわ」


 憤慨するサクラの横で、大きく頷き同調するのは、フィオーレだった。


「何してんの? お前、やっぱり暇なの? 」


 仮にも王族に対して、無礼に過ぎる言葉遣いであろうが、御用猫の中でこの少女は既に「駄目な女」「ゴリラ」として分類されていたのだ。フィオーレの方も、友人なのだから、お忍びの場合は堅苦しい扱いはしなくて良い、と、公言してはいるのだが。


 夕餉の海鮮パスタとサラダ、パンとスープに至るまで、ペロリと平らげた二人であったのだが、御用猫の酒の肴である、マルティエ謹製、魚介のあら煮を、横合から箸で突ついている。食べ盛りなのは良い事だろうか。


「ゴヨウさん、失礼ですよ、謝ってください、フィオーレには、ビュレッフェの調査を手伝って貰っていたのです、彼女の伝手で、あの男の婚約者とお話をしてきたのですから。」


「そうなんだ、ごめんね、あと、ついにビュレッフェ君は、呼び捨てになったんだね」


 当然です、と、サクラが鼻を鳴らす、最初の頃は、様付けしてしていたはずなのだが、ビュレッフェの事を調べるにつけ、特に、女性関係のだらしなさに気付いたのだという。


 ぷりぷり、と怒る彼女は、いつもの矢絣に袴姿ではなく、夏らしい薄手のシャツに、短かめのスカートを履いていた。サクラが足を出すなど、珍しい事であったので、最初、御用猫はじろじろと無遠慮に眺めていたのだが、彼女は、すぐさま真っ赤に弾け、スカートの裾を押さえて猛烈に怒り始めたのだ。


 先ほどの事を思い出し、再びサクラの姿に注視したところ、即座に、刺す様なフィオーレの視線が注がれた。御用猫は、くいっ、と顔を逸らし、考える。


 少し潔癖に過ぎるだろうか、サクラは、世の男達など、多かれ少なかれ同じ様なものだ、いや、女性とてそうだろう。


 生涯、一人だけを愛するなどと、聞こえは、良いだろうが、それは、己を縛っているだけなのだ。


 実際に手を出すかどうかはともかく、心が揺らめく事くらい、誰にでもあるのだ。


 そんな事は無い、と言う者がいたならば、よほど、感受性が死んでいるのか、たまたま、心ときめく異性に、一人しか出会わなかった。


(そういうものであろう)


 御用猫は、そう、思うのだ。


 まぁ、何事にも限度はある、それもまた事実だ。冬に結婚を控えた男が、遊郭で遊び惚けるなど、しかも相手は、実家よりも格上の、貴族の娘だときている。


「……待てよ」


 御用猫の呟きに、サクラとフィオーレが、ハタの目玉を奪い合っていた箸を止め、恐る恐る、彼を見つめる。


 そうではない。


「なぁ、ビュレッフェの婚約者は、どうなんだ? 結婚には乗り気なのか? 」


「乗り気もなにも……貴族の娘ならば、そういったものですわ」


不思議そうな顔を見せるフィオーレに、違う違うと、御用猫は手を振る。


「あくまで、その娘さんの気持ちさ、どうだった? 話した感じ」


「それは……ビュレッフェとの婚約は、彼女の父が推し進めたそうで、ですが「六帝」の騎士という事で、悪い気はしなかったのだとか」


「そうですよ! それなのにあの男は、余所の女にうつつを抜かして、まだ、ろくに会話もしてないそうなのですよ、信じられません! 」


なにやら再び興奮してきたサクラをフィオーレに抑えさせ、御用猫は考えをまとめる。これは、一度会ってみるのも悪くないか、と。


「フィオーレ、ちょっと伝言を頼めるか? 使い走りにして悪いけどな。……目玉は食べていいから」


「なぁっ!? 」


 立ち上がって、手を振り抗議するサクラの横で、周りの、ぷりぷりとしたゼラチン質ごと目玉を掘り出し、口のなかで転がしながら、フィオーレがうっとりと、頬に手をやる。


 絵面だけは、恋する乙女の、それであった。



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