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御用猫  作者: 露瀬
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恋模様 8

「……それは、何か問題がありますか? 」


 サクラは首を傾げた。


 マリリンと言う女に恋をした男、クロンは、その想いを打ち明けるも、軟弱な男は嫌いだと、袖にされたのだ。


 それでも諦めぬクロンに、マリリンは告げた。


「私は強い男が好き、南町一番の騎士が、私の良い人だから、その男に勝つことが出来たなら、乗り換えてあげてもいいわ」


 御用猫からしてみれば、しつこいクロンを体良く追い払った、としか思えぬのだが、彼は本気と捉えたようだ。


 田ノ上道場で修行をし、心身ともに強い男になれば、マリリンの見る目も変わるやも知れぬ。



 しかし結局、マリリンは、しつこく言い寄る男を遠ざけた、ひょっとすれば、強く、良い男になって、戻ってくる可能性もある。クロンは、田ノ上道場で鍛えられ、男ぶりを上げることだろう。


 誰も困らないどころか、むしろ良い事だらけではないか。


「……どうしよう、言われてみれば、何も問題無いよな」


 いや待て、今回の話は、唯の人助けだ、クロンを気に入ったから、少しばかりの手助けをしてやるだけの事ではないか。


 問題がないからといって困る理由は無い。


 それで良いのだ、血生臭い、物騒な事件とは、しばらく距離を置きたい。御用猫は大きく頷くと、自分自身を納得させる。


「ですが、その女の人も、良い人が居るのなら、なぜ、んん、遊郭でお仕事をしているのでしょう? 南町で一番の騎士と言えば、赤虎炎帝騎士団「六帝」の誰かでしょう、その中で独身となれば、ラキガ二様か、ビュレッフェ様あたりでしょうか」


「独身とは限らないだろ」


 御用猫が指摘すると、サクラは、えっ、と、驚いたような顔を造る。彼女の頭の中には、愛人どころか、側室という概念すら無いのかもしれない。


「騎士が愛人として囲うなら、もう身請けされてるだろうし、余程、地位が高くて、娼婦は囲えないか、逆に金が無いか、もしくは」


 良い男なんて、最初から居ない、とか、かな


 御用猫はその辺りであろうと予想する。まぁ、真実のところは、みつばちに調べて貰えばいいのだ。


 残り少ない徳利の中身に寂しさを覚え、マルティエを呼ぶ。明日こそは、いのやに顔を出そう。今なら、二人どころか、カンナを交えても戦える気がする。


 そう考える御用猫の顔を、サクラが見つめていた。


「何だか、すこし、面白そうですね、いえ、ゴヨウさんみたいに、やくざな仕事を生業にするつもりはありませんが、何事も経験と言いますし、これからの人生、こういった事を知るのも、良いというか、騎士を目指すものとして、市井に明るいというのは、将来、武器になると思うのです、どうですか、ゴヨウさん、私は役に立つと思うのですが、お手伝いが必要ではないですか? 」


「え、やだよ、面倒くさい予感しかしない」


 ぐぅ、と、サクラは言葉に詰まる、確かに、興味本位で首を突っ込もうとしているのだ、褒められた事ではないだろう。


 しかし、サクラが密かに憧れる騎士の物語では、こうした街中での問題を解決する話もあり、前々から、御用猫の仕事が気になってはいたのだ。


 今迄、賞金稼ぎなど、首を漁る卑しい商売だと思っていたのだが、田ノ上道場に来てから、食事の最中に、御用猫が田ノ上老と交わす言葉を聞くにつけ。


(ちょっと、楽しそう)


 だと、サクラは思った。不謹慎ではあろうが、御用猫の小さな冒険譚を聞くと、胸の内が、なにか、さざめくのだ。


 賞金首のありかならいざ知らず、遊女の恋人を突き止める、くらいならば、自分でも出来そうだと、邪魔にはならぬのでは無いかと。


「……ゴヨウさんは幼子が好みだと聞いていましたが、やはり、私のお願いでは無理でしょうか、大人の女過ぎましたか? 」


「何だろう、この気持ち、すごく殴りたい」


 しかし、直ぐに、これは、みつばちに対する気持ちだ、と御用猫は納得する。


 そう言えば、最近、みつばちの顔を見ていないような気がする。


 僅かな寂しさを覚えるが、いざ目の前に現れたならば、間違いなく、面倒くさいと感じるだろう。


「まぁ良いか、今回は遊びみたいなもんだし……田ノ上の親父には、ちゃんと説明しとけよ? 」


「やった! じゃあ、明日の朝、またここに来ますから! 」


 ぱたぱた、と駆け出すサクラを見送り、新しく用意された徳利から酒を注ぐ、ひと息に猪口を空けて、至福の溜め息を零してから。


(……サクラが居ると、いのやで、何もできないな)


 御用猫は気付いてしまったのだ。



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