表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
御用猫  作者: 露瀬
101/150

恋模様 7

「んで、結局、何しに来たんだ? 」


 御用猫は何度目か分からぬこの質問を口にした。


 テーブルの上は、すっかりと片付き、御用猫の酒器と、僅かな肴、あとは餅のように伸びるチャムパグンが載るばかりである。


 猪口の中の小さな泉を揺らしながら、尋ねた御用猫であったが、目の前の少女は、何やら口籠る。


 普段なら、思い付いたと同時に言葉にする程の直管少女サクラにしては、非常に珍しく、貴重な光景であろう。


「……別に、偶々、近くを通ったので、訪ねてみただけです」


 いけませんか、と、怒ったように、唇を突き出す。


「いけなくはないさ、でも、サクラがやって来るのは珍しいからな、またぞろ面倒事を運んできたのかと思うだろう? 」


「ゴヨウさんは怠け者ですからね、面倒ごとに苛まれる位が、丁度良いと思いますよ」


 にっこりと笑うサクラは、花のように可憐で愛らしい。


(今度、餌付けしてみよう)


 などと、御用猫が、不埒な事を考えていると。


「そう言えば、ウォルレンとケイン、あれをどうにかして下さい、ゴヨウさんの友人なのでしょう? 稽古には来ますが、やる気が全くもって感じられません、最近はリチャードに指導とか言って、ちょっかいをかけて、稽古から逃げようとの魂胆が透けて見えているのに、まったく、なまじ腕が良いものだから、実践的だとか喜んでリチャードもつるんでますけども、あの二人の不良に影響を受けて、リチャードまで、く、廓遊びなど覚えてしまったら、どうしてくれるのですか! 」


「サクラが、その身体でリチャードを虜にすればいいと思うよ」


「なぁっ!? 」


 あまり店内で喚かれるのも迷惑だろうかと、御用猫は今更ながらに思ったが、昼を廻って客は少なく、マルティエ達も、一区切りの付いたところで、片付けに追われているようだ。


 鳴り止まぬ啄木鳥の太鼓打を、御用猫は手で遮る。


 不服そうな顔は見せるのだが、こうすると彼女は止まる、リリィアドーネもそうだが、基本的に彼女らは素直で、真面目で、扱いやすいのだ。


「面倒事で思い出したんだがな、ちょいと意見を聞かせてくれ、大人の、女性の意見が聞きたいんだ」


「何ですか、仕方ありません、ゴヨウさんには、一応、お世話になっていますし、何でも聞いて下さい」


 大人ですから、大人の女ですから、と、薄い胸を突き出すように逸らし、上機嫌でサクラは答える。


(サクラは、十三だったか……リリィよりは、将来性がある、のか? )


 機嫌が良い為か、御用猫の失礼な視線にも、彼女は気付かない。


 いや、元々、サクラは、みつばちなどとは違い、そういった寸法には頓着していない女であったか。


 まぁ、それは今、関係の無い事であろう


 御用猫は、本来ならば、いのや、で聞くはずの質問をサクラに投げてみる。ふと、せめてマルティエに聞くべきだったか、とも思ったのだが、クロンを田ノ上道場に通わせる件もある、サクラを関与させれば、田ノ上老の説得も早かろう。


 最近、田ノ上老はサクラに甘い。


 勿論、稽古の手を緩める、などということは無いのだが、何というか。


(視線がな、なんか、孫を見る感じだよな)


 悪い事では無いのだろうが、何となく、腑に落ちないのだ。


 御用猫は一匹猫である。


 その思いの出処が、嫉妬であると、妹が生まれた兄が感じるような、幼稚な嫉妬であると。


 未だ、気付いてはいないのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ