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人の魂を糧としている魔族は、当然のことながら人を襲う。
彼らは他の生き物のような肉体を持たず、ときに人の夢に入り込み、ときにその身を引き裂いて人の魂を抜きとる、形なき生き物。
ただの剣や槍などでは、精神体である魔族には傷ひとつ付けることもできない。
精神を喰らうことができるのは、精神のみ。
魔族を葬り去ることができるのは、相手を圧倒する強い意志を持つ者だけだ。
逆に言えば、強い意志さえあれば、誰もが魔族を打ち滅ぼすことができるのだが、明確な殺意をもって襲ってくる人外のものに、いったいどれだけの人間が揺るぎない意志を持って立ち向かっていけるだろう。
一般の人間には無理があるからこそ、人は魔族を抹殺することを専門にする者たちを必要とし、また実際にそのような者たちを生みだしたのだ。それが念術士と呼ばれる者たち。
念術士は、魔族から人を守ることが使命だ。なのに、その第一の目的を疎かにしているとしか思えない判断に、クルトは息巻く。
「なぜ最初から伝書鳩の文に依頼の旨を記していなかったのですか。上はいったい何を考えているのです。私は今日行きますよ」
そのまま踵を返そうとするクルトの腕を、ダーリムの骨張った手が掴む。
「待て。おまえならそう言うだろうと思って、あえて文には記していなかったのだ。わざわざ私が足を運んだのも、指示を無視しかねないおまえを止めるためだ。日数の件に関しては、村長にも了解は得ている。それに、ハイリエ村の井戸は一つではない。つい最近、もうひとつの井戸が完成したからな、村人たちが渇きに苦しむようなことはない。上の判断を無視しての勝手な行動は慎め」
「しかし!」
「新たな念術士を育てるのも、我らの使命だ。それは引いては人々のため。村にはシュナクと行くんだ。いいな?」
村にはもう一つの井戸がある。それを聞いて、クルトはくちびるを噛みながらではあったが、踏み出しかけていた足をゆっくりと引いた。
念術士の育成が重要な責務であることも、確かなのだ。それはクルトもよく心得ている。
それゆえ、クルトは頷くしかなかった。
「……わかりました。すべて指示どおりに」




