14
「俺が間違っていたよ。大事なひとを守ってるつもりで、それを言い訳にして、実際は逃げているだけだった。傷ついた自分に向き合えなくて……、向き合いたくなくて、憎しみを糧に、おまえたちを狩ってきたんだ」
だから、ティルファは命を狙われたのだと、クルトは血を吐く思いがした。
憎しみがクルトの力の源だった。
ティルファは、それを薄れさせる存在だった。
数日前、まさに直接、ダーリムがティルファに言っていたではないか。
『あまり満たされていては、求める気持ちが薄れ、結果として力が弱まってしまうのですよ』と。
それが念術士協会にとっての真実だったのだろう。
クルトの力を落とさせないために。
満たされることがないよう、憎しみが永遠に刻みつけられるよう、ティルファを魔族に殺させようとしたのだ。
意識のないティルファの頭は、がくりと後ろに垂れ、体は床に引きつけられて、クルトの腕の中から離れていこうとする。
両の腕に力をこめ、失われていく体温を確かめるように、クルトはティルファの頬に頬を寄せた。
「カイザード。ティルファを……、この娘を殺しても、おまえが捜している魔族は、戻ってこないよ」
そっとティルファを横たえ、クルトは床に転がったままの剣をつかんだ。
「俺が……、おまえが取り戻そうとしている魔族を、殺したからな」
そして、首謀者はティルファを殺した魔族として、あとからカイザードのことも自分に始末させるつもりだったに違いない。
それはクルトの確信だった。
すべては念術士としてのクルトの力を守るため。
高位魔族を狩れるほどの力を持つ念術士は少ない。人々のため、その貴重な力を失うことを恐れたのか、あるいは自らのため、金のなる木を失うことを恐れたのか──。
立ち上がったクルトはくちびるを噛み、剣を構える。
「おまえたちよりも、人間のほうがよほど狡猾で強からしい。来い。仇を討つチャンスをくれてやる。ただし、俺はおまえに殺されてやるつもりはない」
高位魔族は姿形だけではなく、感情も人間と同じように有している。けれど、魔族はただひとつ、哀しみの感情だけは有していないという。
精神体である彼らにとって、哀しみの感情は自己崩壊を招き、死に繋がりかねないからだと言われているが、それが真実なのかどうかは、クルトには分からなかった。




