プロローグ
どうもこんにちは。――私?名は特には持っていない。そうだね、君が手にしたこの本の…案内人とでも言っておこう。
君は…どうにも時代錯誤な格好をしているね?よく見れば周りの景色も何だか…あぁそうか、もしかしてこの本は過去へと来てしまったのかな。…今は何年だい?うんうん、西暦…あぁ、まだ西暦の時代なのか。そうか。この本はね、君の言う現在から見て、おおよそ二千年後の話だ。そうだね。だいぶ世の中も変わっている。
ん?この手首に付いているものかい?蛇に見える?違うよ、大丈夫。これはね、AGDという。正式名称はa guardian deity。守り神ってことだね。これは産まれたときに一人一人に必ず付けられる。えぇと――大正?ああ違う、平成…だっけ。その頃の言葉で言うと何だろう。パーソナル・コンピューティング…もしくは…ええと、ポケットベルだったっけ?あぁ、ケータイ?スマホ?それに近いものなのかもね。うん、守り神とは言うけれど、いわば監視ロボットだね。これがあれば一人一人が何処にいるのか、誰といるのか、何をしているのかが全て分かる。体温も気持ちの変化も。そう、摂取カロリーも性的思考も何もかもね。別に嫌じゃ無いよ。だってこのおかげで世の中は平和なんだもの。まだ二千年前には犯罪はあったんだっけ?…今?あるわけ無いだろう。もしもそんなことを考えたら、AGDによって通報されちゃうからね。
他にも聞きたい?だったら、この本を読み進める方が早いんじゃないかな。どうぞ。私のことは気にせずに。
それではごゆっくり。大丈夫。君から見ると未来の話だけれど、中で動くものたちは、君と同じ人間だからね。